このコラムは前担当が残したお題リストを順次消化しており、次のお題は何であろうと見たところ、「お祭り」と書かれていたので度肝を抜かれた次第である。

祭りの話なら前回の「花火大会」の時に思いっきりしてしまっているし、むしろ書き尽くしてしまっている。前回リストを見た時、「花火大会」の真下に書かれている「お祭り」が目に入らなかったのかと思うかもしれないが、次回のことなど1mmも考えたくないから見るわけがない。

しかし普通、花火大会の後にお祭りの話をさせるか。両者はオールインワン。玉子の黄身について小一時間語らせた後、次は白身に話せといっているようなものだ。話させるとしてももう少し間を置けよと思う。

よって、世間一般で言うお祭りの話はもうない。では一般的ではない、今の私にとっての祭りは何かと言うと同人誌即売会である。

すでにポルナレフ(何を言っているか分からない人)に見えている人もいると思うが、分かりやすい例で言うとコミケだ。最近、叶姉妹も訪れたあれのことである。ちなみに、叶姉妹は承花派だそうだが、その意味は説明しない。とても長くなる。

その昔、漫画家の地位が低かった頃、医師免許を持っている手塚先生の活躍により、その株が上がったと言うが、コミケやオタクも叶姉妹のおかげで地位が上がったかというと、全くそんなことはない。むしろ、ファビュラスな彼女が光臨したがために、こちらのバッドルッキングぶりが際立っただけな気もするが、ともかくコミケが説明しやすくなっただけありがたい。

コミケというのは年に2回、東京ビッグサイトで行われるコミックマーケットのことを指すのだが、「同人誌即売会=コミケ」と思っている人も多いだろう。実は私も、コミケにはいまだに行ったことがない。もっと小規模かつニッチなものに参加している。

どういう会に参加しているかを書くとすごく長くなるので割愛するが、コミケが世界に存在する全性癖の人が集まる場だとしたら、私の行くのは靴底の匂いフェチ、さらに右側だけに限る、みたいな人たちが集まる会だと思ってくれればいい。そこで、自作の"俺の性癖を見てくれ本"を売ったり、"人様の性癖詰め合わせ本"を買ったりするわけだが、私が即売会デビューしたのは三十路を過ぎてからだ。三十路を過ぎてからそうせずにはいられない、"グッドスメルシューズソウル(右側だけに限る)"を見つけてしまったこともあるが、若い頃、特に中高生の時は参加したくてもできなかった。

私は今も昔も地方在住であり、地方というのはオタクにとってそれだけでもハンデだ。特にネット普及以前の格差はひどい。彼岸島でみんなは丸太を持っているのに、俺だけナイススティックというぐらい差がある。ちなみに、彼岸島は読んだことがないし、「ナイススティックのポテンシャルなめんなや」という方がいたら謹んで謝罪したい。

だが、ネットが普及した今なら、コミケのような物理的距離があるイベントならまだしも、欲しいものは大体ネットで手に入るし、同志も簡単に見つかるし、自分の性癖を見てほしければピクシブなどに絵や小説をアップすればいい(見られるかどうかは別として)。

では、ネット普及以前のオタクがどうやって性癖を晒(さら)してしたかというと、リアル友人をムリヤリ捕まえて見せるという手もあったが、主に「郵便」であった。また私がポルナレフに見えてきた人もいると思うが、現に私は中学生の時、ゲーム雑誌の文通相手募集で同じキャラが好きな女子を見つけて複数と文通をしていた。今でいう「尊い」や「シコい」などの萌えの発露を手書きで書にしたため、相手に送っていたのだ。趣が深すぎる。これぞ侘び寂びだ。

また、地方在住で金もない中学生にはコミケなど天竺だし、同人活動など王族の遊びだ。よって私は、これまた文通欄で見つけたサークルにも所属した。今でも、ネット上では志を同じくする者たちが集っていろんな活動をしていると思うが、当時もあった。しかし、これもまた手段は「郵送」であった。全く、「JPさんには頭が上がりませんわ」というやつである。

では、そのサークル活動が何をするかというと、まず会費(信頼の郵便小為替)を送り、更に自分のイラストや漫画を送る。すると主催者はそれをまとめ「会報」として会員に送るのだ。楽しいかと聞かれると、楽しかった。自分の絵が人に見てもらえるし、趣味を同じくする人の絵も見られる。何より、自分の絵がコピーとは言え、本状になっているなっているのがうれしかった。

今では電子書籍もあるがやはり「本になっている」というのはそれだけで感動があるし、それを目の前で手にとってもらえるのはネットにはないうれしさがある。コミケなどの同人誌即売会は今でも盛況なのだろう。

しかしその後、そのサークルは「主催者の失踪」という形で幕を閉じた。主催者は当時二十代前半くらいだったと思うが、中学生の自分からみたら十分大人だったため、「大人でもそういうことするんだ」と衝撃だった。それから二十年たち、大人になった今だから分かるが「、大人でもそういうことをする」し、「多分私もする」のである。だから私は絶対「主催」だけはすまいと思っている。企画をするにしても全部自分で自己完結にできるものにしようと誓っている。

それが分かっただけでも、あの「サークル活動」はして良かったと思う。だがもちろん、その当時の会報を持っている人がいたら、家ごと爆破しにいく所存である。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。