漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
去年の誕生日にニンテンドースイッシを買ってもらった。
いくら自社製品の権利に敏感で、一株ゲーマン以上する優良企業様とはいえ、ハード名を言っただけで訴訟に踏み切るという「名を口にしてはいけないあの方」みたいなムーブをするとは思えないが、個人的宗教上の理由でスイッシと言わせてもらう。
小学生のころ、誕生日には必ずゲームを買ってもらっていたが、四半世紀たった今でもゲームを買ってもらっている。
つまり私は女子小学生ということなので病院に連れて行く際は小児科、もしくは心療内科でお願いしたい。
何故今更スイッシを買ったかというと「桃太郎電鉄」が発売されたからだ。
桃太郎電鉄、通称「桃鉄」は私がまだ駆け出しの女子小学生だったころに発売された、すごろく形式のテレビゲームである。
貴様が友達を呼んで遊ぶようなゲームを持ってどうする、と思うかもしれないが、家にゲーム機さえあれば人間性に関係なく家に人を呼べた時代があったのだ。
また、桃鉄は一緒にプレイする友人がいなくとも、1人で一番弱いCPU相手に無双するという遊び方もできる。
「弱い者が夕暮れ、さらに弱い者を叩く」という有名な歌詞は、まめ鬼を99年ボコり続ける人間の姿を現しているという説はあまりにも有名である。
これ以上の昔話はブルースが加速するだけなのでやめておくが、その桃鉄の新シリーズが発売されると聞いて、スイッシと一緒に購入した次第だ。
何せ今はネットがある。
家に呼ぶようなリアル友人はいなくても、顔も名前も知らないけれど性癖だけは知っているネッ友、そして通信で桃鉄を一緒にプレイしてくれる人間ぐらいはすぐ見つかるのだ。 そんなわけで、去年末から今にかけて、連日のように桃鉄をプレイしており、多い日には一日3回桃をキメるぐらいだ。
他人との通信プレイが前提のゲームには懐疑的であったが、桃鉄に関しては対人プレイの方が面白いと言わざるを得ない。
CPUの場合、どれだけ叩いても果敢に勝ちに行く動きをやめようとしない。
「負けが決まった途端、無心で屁をこきつづける」という動きはやはり愚かな人間にしか不可能である。
…と言いたいところだが、先日劣勢になったCPUが有り金全部はたいて「うんちカード」を買い、毎ターンウンコをするという、人間でもなかなか見せない動きをするのを目の当たりにしたので、AIも進歩しすぎて逆にバカになる段階に入っているようだ。
人間特有の異常行動までAIにされてしまったら、人間はいよいよ存在価値がないので我々もAIなんのその、という勢いで屁とウンコをしていかなければならないということだ。
また、小学生同士で桃鉄をやっていると、負けそうになった奴がゲームを投げ出したり、自分のターンが来るまでずっとジャンプを読んでいたりと、最後まで楽しくゲームをするのが難しかったのだが、現在私が桃鉄をプレイするのはベテラン小学生男子と女子、略して中年なので、少なくとも「負けそうになった瞬間通信を切る」というようなことはされない。
ただ、プレイヤーが全員大人になると、ただゴールを目指していたあのころと違い、1ターンごとに長考に入ったりするため、自分の番が回ってくるまで結構な時間がかかったりする。
故に先日、自分のターンが回ってくる前に、ゴミ捨て場にゴミを捨てに行くことにした。 ゴミ捨て場から家まで100メートルもないが、急がないと自分の番が回って来てしまう。
よって、家からゴミ捨て場まで往復ダッシュをすることにしたのだが、なんと途中で息が上がって走れなくなってしまった。
体力の低下よりも、中年の女が夜中にゲームのために全力でダッシュしている方が事件性が高い。
ちなみに走っている途中で、近所の人と鉢合わせしてしまったのも痛い。顔が判別できる昼間でなくて本当に良かった。今度は慎重を期して覆面をかぶって出ようと思う。
実は、スイッシの前の誕生日にはルームランナーを買ってもらい、1年間毎日ウォーキングをしていたので、体力はそれなりについているのでは、と思っていたが、全くそんなことはなかったということだ。
もっと運動しないと、ゴミを捨てに行っている間に桃鉄が「3分間応答なし」でCPUに切り替わってしまう。
そんなわけで今回のテーマは「フィットネス」だ。
テーマを言った時点でもう締めに入らなければいけない行数に来ているが、スイッシと言えばフィットネス系ソフトも有名である。
私もせっかくだからフィットネス系ソフトをやってみようと思ったのだが、1つ気がかりなのは、どのソフトも「リズム」をテーマにしているという点だ。
おそらくコントローラーを反応させ、ゲームとして成立させるにはリズムやアクションと言った要素ははずせないのだろう。
私は、社会性を子宮に置き忘れて生まれた、で有名だが、リズム感においてはキンタマにいる段階で忘れている。
結局、ソフトは買ってみたものの、全くゲームが指示する動きが出来ないので、ほとんどやっていない。
ぜひニソテソドーさんは、時速5センチメートルという新海誠ムーブをする老の動きにも反応するコントローラーとフィットネスソフトを開発してほしい。
そうすれば、スイッシの購買層はさらに広がり、株価もツェージュウは堅い。