今回のテーマは「花火大会」である。

私ももう34年生きている中年なのでさすがに分かってきたが、私は花火や美しい景色など「きれいなものを鑑賞する」ことが全然好きじゃないのだ。もちろん、花火や景色を見たら「きれい」とは思うだろうし、巨大なバフンを見たら「でけえー! 」と感動するだろう、しかしそれは3秒ぐらいでいい。すぐ飽きるのだ。

しかし、ひとりじゃない限り(そもそもひとりだったら見に行かない)花火を一発だけ見て「よし帰ろう」という展開にはならない。大体「せっかく最後まで見よう」という空気になってしまう。

そもそも落ち着きがなく、テレビでさえじっと見ることができないのだ。それに花火というのは色や形にバリエーションはあれど、結構単調である。途中でベジータがキュイを爆殺して、きたねえ花火を披露してくれるなら話は別だが、大体が普通にきれいな花火が続くし、たまに屁みたいな打ち上げ音が鳴るなどのサプライズもない。

だが、花火はまだいい。景色になるともう二秒でいい。一瞬見たら次の目的地に行きたい。なぜなら、景色というのはじっと見てても大体何の展開もないからだ。むしろ、みんななぜ飽くことなく見続けられるのか不思議である、それとも私が帰った後に、枯山水の愛憎劇とかが始まっていたのだろうか。だったら待っておけば良かった。

結局、でかいバフンに対する感動が一番長続きしそうなのである。

今でこそ、そういうのに興味ないから行かないという選択ができるようになったが、昔は自分の好みに関わらず、とにかくリア充のまね事がしたく、海に行った花火を見に行ったという事実だけが欲しくて、夏の星座にぶら下がりに行き、そして「早く帰りたい」と思っていた。自分の好きなものはみんなも好き、というわけではないのと同じように、多くの人間が好きなものは自分も好きとは限らないのだ。

なので花火もここ何年も行ってないし、自分から行こうと言うことは金輪際ないだろう。行くとしたら一発しか上がらず、鑑賞者が3人ぐらいの花火のみだ。

しかし、子供の時は花火大会が好きだった。だが思い起こせば、花火よりどう考えても出店が好きだったのだ。

大体花火大会と祭りはワンセットである。そして、祭りの日には特別な小遣いがもらえた。両親、祖母からと、恐らく2,000円ぐらいはもらえていたと思う。2,000円というのは当時の価値でいうと2兆円くらいであり、出店の食べ物なども今より安かった。よって祭りの日にはカイジみたいな顔で「豪遊っ」できたのである。

祭りでは大体、食べもの、カタヌキ(砂糖菓子板を虫ピンで削り、割れずに型を抜くと現ナマがもらえるため、ここで全部溶かす者もいる)クジを引いていたりした。

クジというのは文字通り、クジを引いてそれに応じた景品がもらえる。店頭にはゲーム機などの豪華賞品が並んでいるが、あれは絶対当たらず、大体奥から出てくる原価30銭ぐらいの紙製おもちゃを与えられるだけである。しかし、永遠に当たらないので客寄せの豪華賞品もどんどん古くなり、プレステの時代にスーファミを置いていたり、現代っ子は絶対欲しがらないタイプの退色した箱のエアガンが置かれていたりする。

どれも数百円なため、2,000円もあれば十分長く遊べたのだが、私はある年、夜の花火大会に向かう道すがら「光るやつ」を売っている出店に出会ってしまったのだ。光るやつとは、光るやつとしか言いようがない。むしろ、光る以外に何もしないやつだ。アイドルのライブとかで、オタクが汗みずくで振り回しているあれのことだ。

オタクも汗も関係ないが、ともかくそれに出会ってしまった。暗いところで蛍光色に光る以外は何の用ともないやつだが、小学生にとって「光る」というのは、「デカい」「ウンコ」ぐらい訴求力のある言葉なのだ。

その光るやつの値段は1,000円。出店で売っているものとしては破格である。小遣いの半分つまり1兆円である。だが私はとにかくそれが欲しく、親の制止を振りきり購入した。そしてその夜はずっとそれを身に着けているが、一夜明けるとそれはもう光らなくなっていた。しかし、祭りというのはこの光るやつに限らず、一夜の夢みたいなところがある。そこで買ったものが高いとか安いとかは関係ないのだ。

それから20年以上の時が経ち、私はその光るやつを再び買った。100均で3本100円。やはり1,000円はぼったくりだったのだ。

ちなみに何で買ったかというと、アニメ映画「キンプリ」の応援上演で振るためだ。私はその光るやつを振り回しながら、「ヒロ様―! 」「アレクー! 」と絶叫した。私が夢を見るのは、花火やきれいな景色ではなく二次元の男。20年の時を経て、やっとそこに到着した。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。