漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「自家用車に望むこと」である。
私は地元から一歩も出たことがない地方民だが、地方が好きなわけではないし、どちらかと言うと田舎の悪口ばっかり言っている方である。
ならば都会に出ればいいのだが、そんなガッツもない。むしろガッツの全てを田舎の文句を言うことに使っている、最もなっていはいけない地方民の姿なのだが、実際都会に比べて田舎は不便なことが多い。
田舎の不便なところと言ったら中学生までチャリに乗る時蛍光ベストを着せられてたとか、一番最寄りのアップルストアが台湾とか、いろいろあるが、やはり一番は「交通」だろう。
公共交通機関は発達していないため、田舎の人間は生きるために免許と自家用車の所有がほぼマストとなっている。
電車が1時間に1本とかが普通であり、「電車通勤」という概念がないため、もし自家用車なしで暮らそうと思ったら仕事の選択肢が「3つ」ぐらいになってしまい「職業選択の自由」という憲法の規定に抵触することになってしまう。
そして基本的に大人になってからはずっと車を所有しなければならないので、約10年に1回、100万円単位の出費をしなければいけないことになる。
さらに自動車は買って終わりではなく、保険、車検、ガソリン代、税金など、維持費も高いため、人によっては「車を買って維持するだけの人生だった」ということになりかねない。
しかし、車を持たないと通勤が出来ないし、買い物など生活に必要な施設にアクセスすることすら難しくなってしまうので、田舎に住むなら車を持つか、山で自給自足の生活をする変わり者になるかの二択になってしまう。
それでもまだ、車に対してこだわりや愛着があれば良いのだが、私にはそれがない。
よって車を買う時は、タイヤとハンドルがついていれば良い、何だったら屋根もいらないというぐらい、こだわりがないのだが、何故か屋根のない車の方が高かったりするので、やはり車の価値というのはよくわからない。
そして、来年の頭、車検がくる上に、今乗っている車がエンジンを入れるだけで断末魔を上げるようになってしまったので、買い替えなければいけない。
平素なら、一番安い車種からまずエンジン以外を引っこ抜き、必要な物をとりつけていくという、逆に面倒くさい選び方をしていたのだが、ここ数年で考え方が変わった。
今までは車に対しては「走れば良い」という感情しかなかったが、自分も日々衰えているし、自爆ならまだしも、他人を事故に巻き込んでしまう可能性も十分ある。
ここで「運転しない」という選択肢を取れる都会の民はやはり恵まれていると思うので、車を持たずに生活できる土地にいる人は、どんなに憎くても、その村は焼かない方がいい、少なくとも駅は残せ。
そんなわけで今回は「走れば良い」から「事故を防ぐ機能だけはケチらずつける」にテーマチェンジした。
その代わりに屋根ぐらいなら取ってくれても構わないのだが、おそらく屋根を取った方が見積もり金額が上がる気がするのでやはり車というのは解せない。
最近は車に対する安全志向が高まっているため、安全機能は一式セットになっており、昔よりは安価になっていると思われるが、それでもいつもより大分高くなってしまった。
だが、それをケチって事故った方が損害が大きいし、金で解決できない事態になる恐れもあるので仕方がない。
しかし、最近、煽り運転などの危険運転のニュースが多い。
危険運転自体は昔から多く、ただ最近「日本人は煽り運転ニュースが大好き」ということが判明し、メディアがこぞって報道するようになっただけかもしれないが、厳罰化された今でも、ニュースにちょっとでも隙間があれば「○○道路でこんな危険運転が! ドライバーは今も逃走中!」という何もすっきりしない映像がよく流されている。
多くの人が、何故こんな危ないだけの行為をするのか全くわからないと思うだろう。
しかし、誰しも怒りに我を忘れて、気がついたら家中の電子機器を水没させてしまっていたなど、後悔しか残らない不可行動をとってしまった経験があるのではないだろうか。
「それ」を車内で起こしてしまう人、というのが存在するのだ。つまり怒りという感情を持っている人なら、誰でもやりかねないのである。
また、車に乗っていると、まるで城の中にいる王様のように気が大きくなってしまうタイプがいるらしい。
何せ王なのだから、王に対し不敬を働いた輩の車両は追いかけまわして罰を与えてやらねばならず、それが間違っているなどとは思わないのである。
つまり立派な車に乗っている方が、気が大きくなり、危険運転をしがち、と言えなくもない。
それを考えると、私のように少し風が吹くだけで横転の危険性を感じる、メーカー最弱の車に乗っている方が、常に雑兵の気分で安全運転できて良いのかもしれない。
