漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「経理処理」である。
漫画家と経理というのは職種としてかなり対極にあるように思うかもしれない。
ちなみにいくらやっても「触手」と変換されてしまい、3回ぐらい打ちなおした。
このように「職種」と打とうとして「触手」が出てきてしまうのが漫画家のPCであり、合コンでも「経理」と言えば「へえー」とか「っぽいわ~」みたいなリアクションをされるのに対し「漫画家」と言ったら、ジャンプで描いていない限りは、瞬時に財布、もしくは親指を隠されてしまう。
しかし、実際はジャンプで描いてないような漫画家の方が、経理など事務作業も自分でやっている場合の方が多い。
漫画家だけではなく、アサシンだろうがネクロマンサーだろうが、1人で仕事をしている人間は自分で経理もやっている。
経理だけではなく「これが今までヤッた人間の実績リストです」というような広報活動や「一時的に生き返らせたい死体はありませんか?」という営業活動も自分でやらなければいけないのが、フリーランスというものである。
もちろんダガ―ナイフなどは支給品ではなく、仕事に必要なものは自分で全て買わなければいけない。
「経費にすればいいじゃん」という人もいるかもしれないが、会社員の「経費」とフリーランスの「経費」は全く別物であり、会社員の言う経費は「会社が全額出す」を意味し、フリーランスの「経費」は「経費として申請すれば若干税金が安くなるだけで全額自腹であることには変わりない」のである。
よって、ジンとかウオッカが「ここはこちらが払いますんで」と言いだしたら、彼らは(株)黒の組織所属なので、その金は組織が出すだろうから遠慮なくおごられて良い。
ただし、灰原さんが同じことを言い出したら、彼女はすでに組織を抜けフリーランスであろうから、少しは遠慮すべきである。
ちなみに経費だけではなく、会社員であれば健康保険料など社会保険も会社が半分負担だし、健康診断も会社が負担してくれる場合が多い。
フリーランスは健康診断を受けるにも1万円以上かかってしまうため、色んな意味で健康から遠ざかりやすいのだ。
だったら会社員をやる方が楽ではないかと思った人もいるかもしれないが、その通りである。
しかし、実務から経理営業全てをやる以上に「決まった時間に出社できない」「他人と協調して仕事ができない」という者がこの世に存在するのだ。
サラリーマンというと平凡な職業の代表のように聞こえるかもしれないが、実は「朝起きられる」「人の話が聞ける」など、様々な才能に恵まれた人しか就けない職業なのだ。
フリーランスの中には、フリーの才能があるというわけではなくこれらの「会社員の才能がなさすぎる」ため、仕方がないからフリーをやっていると言う者も多くいるのである
このように私も大体のことを1人でやっているのだが、経理だけは税理士に委託している。
税理士に頼むほど収入が大きいというわけではなく、税理士に頼んで青色申告にしてもらった方が、税金が大幅に安くなり、経理や確定申告に時間を取られることもないので、トータルで得になるからだ。
そういうことを割とつい最近まで知らなかったため「もったいないから」自分で白色申告をしていたのだが、それを同業者に話したら「江戸っ子かよ」と呆れられた。
つまり知識がないせいで、金も時間もドブに捨てていたということだ。もちろん自分で青色申告できる知識があれば、もっと手残りは増える。
このように貧乏というのは、単純に稼ぎが少ないせいもあるが「知識」がないせいでも起こるのである。
日本というのは、性教育にならんで「金の教育」が非常に遅れている国だと言われている。
確かに、納税が義務だということは教えるが、正しい納税の仕方や、どうやったら無駄な税金を払わなくて済むかは教えてもらった記憶がない。
もしかしたら節税などされては困るので教えないのかもしれないが、おそらくそのせいでナチュラルに脱税も起こっている気がしてならない。
もちろん「確定申告」の仕方も教えてもらった記憶がない。
どうやら日本の金の教育は全員サラリーマンになることが前提であり、さらに未だに終身雇用が存在している設定のようである。
「コーラで洗えば大丈夫と思っていた」などという言い訳が通じないことはわかっているがそれでも「教えなかった責任」というのもあるはずだ。
ちなみに例え収入がなくても収入がないことを、ちゃんとお上に示す必要がある。
水木しげる御大は、漫画家として成功する前は非常に貧乏であり、ありのままを申告したところ「こんなに収入がないなら生きていけるはずがない」と税務署に脱税を疑われ踏み込まれたという。
それに対し、しげる選手は「お前らに俺の生活の何がわかる!」とガチギレたそうだ。
確定申告は、嘘偽りなく、正しく申告することが重要である。
そうすれば、例え税務署に難癖をつけられたとしても、焦ることなく、ましてへつらうことなく、自信を持ってしげるパイセン動作ができるというものだ。