漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「ユニクロ」だ。
ユニクロと言えば、ファッションに興味がない奴が着ている服の代名詞である。
しかし、もしあなたが小説家志望だったなら、服装に興味がないキャラを「全身ユニクロ」と表現するのは待った方がいい。
「商業創作で実在の会社名を出すと高確率で赤が入るので書くだけ無駄」と言うのもあるが、もし審査員に本気でファッションに興味がない先生がいらっしゃったら「フェイク野郎が…」と、その時点で落とされてしまうかもしれないのだ。
確かにユニクロを着ているファッションに興味がない人は実在するが、「興味のなさ」の方向性をはっきりさせないまま「服に興味がない=ユニクロ」と言うのは早計である。
おそらくユニクロを利用する、服に興味がない人というのは「服に時間と思考力を使いたくない人」だと思われる。
ユニクロ店内にある服であれば、意識不明の重体状態で選んでも、何となく無難なファッションが完成してしまうものだ。
つまりユニクロは「何も考えずに手間なく、他人から見ても、そんなにおかしくない格好を作れるブランド」なのである。
「とにかく無難にしたい」というテーマを持っているという意味では、ファッションにこだわりがあると言っても良い。
そういうタイプは割とこまめに服を買いかえるので、それなりに服に金がかかっていたりもするのである。
ホンモノの服に興味がない奴というのは、時間や思考力はもちろん、何より金を使いたがらない。
そういう人間にとってユニクロというのは「高級ブランド」であり、割とどこにでも着ていけるという意味では「フォーマル」と言っても良い。
よって、本気で服に興味がない奴を描写するとしたら、「ジーパンに、謎のBボーイがこちらに中指を立てている、黒いTシャツを着ている」が正しい。
ただ、ファッションリテラシーがある人だと「このキャラは中学生なのだな」と勘違いしてしまうので、先に「少なくとも30代」などと年齢を描写しておくこともお勧めする。
ジーパンは意外とエドゥインとか履いていたりするのだが、最低でも10年は履いていると思った方が良い。
ホンモノの服に興味がない人間は、何かの間違いで5,000円以上の服を買うと、着ようが着まいが「一生持っている」ことが多いのだ。
よって、そういうタイプに「服はどこで買っている?」と聞くと、「買わない」という返事が返ってくることが多い。
買わないことはないが、常人に比べて「買い替え」の判断が実にシビアであり、例え穴があいていても見えない部分なら買い替えない時もある。
ズボンも、長ズボンが半ズボンになったぐらいでは買い替えない。「右と左が分離した」レベルでやっと買い替える。
もちろん服を選ぶ時のテーマは「安さ」、次点で「楽」だ。安くて楽なら全身ヒョウ柄も辞さない構えなのである。
つまり私も滅多に服を買わず、買うとしてもBボーイ側だったのだが、最近は万が一服を買うならユニクロにしている。
服に対する意識が高まったというわけではなく、ユニクロの服は、そこまで激安というわけではないが、「しっかりしている」ことに気付いたからだ。
ちなみにこの「しっかりしている」は「シュッとしている」に続くB(ババア)ワードである。
しっかりしているので長持ちするし、汎用性が高いため、結局ユニクロで買うのが一番コスパが良いとわかったからである。
そんな私がお勧めするユニクロ商品は、今年で言えば「リラコ」である。
リラコとは、ウエストゴムのとにかくゆとりがあり過ぎるズボンのことである。生地が薄く通気性が良く、そのまま外に出られるので、この夏大活躍した。
もしかしたら外には出てはいけないのかもしれないが、ひきこもりは「外に出ていい基準」がどんどん緩くなっていくのである。
社会から出家した者は宗教上の理由で、ウエストゴムか、ワンピースなどウエストが存在しない服しか着ないという者が多い。しかし、私はその中でも敬虔で、買った服のウエストゴムが、サガミ製かよ、というぐらい強かったら着なかったりするので、ウエストゴムの査定は慎重に行わなければならない。
その点で言ってもリラコは良い感じの緩さである。
もう一つおススメするユニクロ製品は「ブラトップ」である。
ブラトップと言えば、ソファよりも女をダメにしたでお馴染みの、楽な下着であるが、「ユニクロのヒット商品は必ずイオンとかが廉価版を出す」でもお馴染みなので、もっと安価な類似品はいくらでもある。
しかし安いブラトップは「一体どこに乳がある奴をターゲットに作ったのだろう」というぐらい的外れなものもたまにあるのだ。
そういうブラトップを買ってしまうぐらいなら、TERU級の命中率を誇り、さらにしっかりしているユニクロ製を買った方が間違いない。
ちなみにTERUとはグレイではなく、ウィリアムの方だ。
つまり、ただ安さを求めるより、総合的なコストパフォーマンスを考えて買い物するようになったと言うことである。
ちなみに、ユニクロのパンツとは相性が悪い。ケツがはみ出る。
ユニクロさんには、今度はぜひ、どんなケツでもはみ出ないパンツを開発していただき、もっと女をダメにしていただきたい。