漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「ホットクック」である。

ホットクックとは、電子圧力鍋のことだ。

最近「材料を入れてスイッチを押すだけで料理が完成する」という家電を良く見るようになったと思うが、その一味である。

ちなみに30代以上はもう気づいているかもしれないが「ホットクック」というのは多分「ほっとく」とかけているのだろう。

若者にしか聞こえない音があるように、中年にしか気づけないことというのもあるのだ。

所謂、食洗器やドラム式洗濯機に続く「時短家電」なのだが、そう言うと、そういう物はワーママとか忙しい人のためのものだろう、何故一日中家にいる貴様が買うのか、と思われるかもしれない。

しかしそういった「死ぬほど忙しくならない限りは『楽』を考えてはいけない」という発想が、何故か令和まで生き残ってしまった昭和の妖怪「母親ならポテサラぐらい手作り爺」を召喚してしまうのである。

キツくなってから楽を考えるのではなく、最初から楽した方が良いに決まっているだろう。

もし「楽してズルい」と思うなら、他人の楽を止めさせるのではなく「どけどけ~! 俺様も使う~!」とドラム式洗濯槽に頭から突っ込んでいけばいいのである。

そもそも時短家電に懐疑的な人間は「死ぬほど忙しいので食洗器買わせてください」と言っても「死ぬ気でやればできる」と言ってくるので、無視するしかない。

そんなわけで一日中家にいる分際でホットクックを買った私だが、これは自分のためでもあるが家族のためでもある。

私は高価な時短家電を買うほど料理が面倒だと思っているが、外食はしないし、惣菜もほとんど使わない。

何故なら料理よりもさらに外出が嫌いだからである。

買い物も2週間にできれば1回ぐらいしか行きたくないので、惣菜もあまり利用できないのだ。

よって、まともに作るのは夕飯ぐらいだが、ほぼ全て自炊である。

しかし私は、基本的に夕食はレトルトのパスタしか食わない。何故ならそのぐらいしか1日の楽しみがないからだ。

よって、自分はパスタを食い、夫の夕飯は別に作る、という生活を10年近く続けている。

つまり、自分で作った物を自分で食ってないので味がわからない。簡単に言えば多分「マズい」のだ。

「マズい」というレベルに達していればまだ良いのだが、火が通ってない、火が通りすぎている、そしてSSRの「腐っている」が排出されてしまう時すらある。

SSRは盛り過ぎた、実際は「SR」ぐらいの頻度で出てくる。

「メシマズ」は、カメムシが自分の匂いで死ぬように、己の作った飯を不味いと思わないのか、それとも味覚が狂っているからメシマズなのか、と疑問に思っている人もいるかもしれないが、このように「実は自分が作ったものを食っていない」タイプのメシマズもいるのである。

その点ホットクックは時短になるだけではなく「少なくとも貴様が作るよりはマシなものが出来る」と謳っているのである。

よってこれを買うことにより私は楽が出来て、夫の食生活は改善されるというウイソウイソになるのではないかと踏んだのである。

電気圧力鍋もピンキリであり、安価なものも多いのだが「道具は高いものを買いたがる」のもメシマズの特徴である。

ちょうどアマゾソのポイントも貯まっていたので、割と高級なホットクックを買った次第である。

買ってみた感想だが、買って良かった。

まず「火が通っていないor通り過ぎている」という事態がなくなった。残念ながら腐った材料を入れると腐った料理が出来てしまうという欠点はあるが、格段に料理が楽になった。

また、お前が作るよりはマシと豪語していた通り、美味いものが出来る。 特にカレー類は劇的に美味くなり、10年私の飯を食い続けたことにより、舌と心が死んでしまった夫も珍しく「うまい」と言っていた。

さらに以前なら「煮魚」など絶対作らなかったが、ホットクックを使えば、魚類の死骸と調味料さえ入れれば自動で作ってくれるため、料理のレパートリーも増えた。

忙しい人はもちろん、暇だが飯は作りたくない、かと言って外には死んでも出たくないという、人間に向いていない人は買っても良い製品である。

ただしメシマズには「レシピ通り作らない」という最大の特徴がある。

付属のレシピ通りの材料を入れ、ボタンさえ押せば食える物を作ってくれるホットクックだが、案の定最近冷蔵庫にある動物の死骸と調味料をとりあえず入れて、適当にボタンを押すようになってきたため、食えないことはないが「名状し難い何か」が生まれることも多くなってきた。

このように人間はすぐに堕落し退化する、よってますます家電の方に進化していただくしかない。