漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「アルバイト」なのだが、これは確実にもう書いたことがある。
何故なら私は今までまともにアルバイトをしたことが1回しかないため、それを書くともう書くことがビタイチないからである。
確かに私のコラムは読み終わった瞬間内容を忘れてしまうことに定評があるので、全く同じことを書いても誰も気づかないとは思うが、何故か自分が覚えていたためそれもできない。
いつもであれば、書き終わった瞬間にまず自分が内容を忘れるのだが、テーマかぶりに関してだけは「担当を糾弾できる」というビッグチャンスなため、不思議な力で脳が失った記憶を取り戻すのだ。
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人生100年時代、長生きよりも、どれだけ寿命と健康寿命の誤差をなくすかの方が重要になってきている。
下手をすると死ぬまで何十年も寝たきりや恍惚の人ということもあり得る。
もちろん、寝たきりなどが不幸とは言いきれない。
それに現世が余りにも辛いが死にたくても死ねないというカーズ様状態に陥り、考えるのをやめるため1秒でも早く関口メンディーのように心を手放したいと思うこともあるだろう。
よって一概に死ぬまで健康でいることが幸せとは言えないのだが、一般的には健康な方が良いとされている。
そして上記の通り、脳を衰えさせない秘訣は「憎悪」である。
「この恨み晴らさでおくべきか」ということがあれば、脳さんはいつまでもそれを忘れないために死ぬまで頑張ってくれるのである。
この「remember」「revenge」「reborn」という3つの「re」が、長寿社会を生き抜く鍵だ。
ちなみに「reborn」は「今世ではダメでも来世では必ず殺ってやる」という意味だ。
次こそやれるという、気持ちを持つことで、死すら恐れることがなくなるのである。
やはり、幸せか不幸か、というのは情況ではなく、生きがいがあるか否かなのである。
五体満足でも、孤独で何の楽しみもなければ不幸だし、たとえ体が動かなくても、文字通り死ぬまで純烈とかのライブビデオを見られるのが楽しみなら幸せなのだ。
「あいつが生きてるのに何で俺が死んだりボケたりしなきゃいけないんだよ、ふざけるな」というのも立派な生きがいであり、気を確かに持つ力なのである。
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バイトについて書くことがないので、話を無理矢理引っ張ったが、実は他の媒体でズバリ「バイト」をテーマにした連載をしている。
毎回様々なバイトについて解説していくのだが、何せバイト経験が回転寿司屋しかないので、やったこともないバイトを「このバイトにはこんなメリットがあります!」と言うのは正直心苦しい。
ちなみに、バイトを勧めるサイトなので「地獄です」みたいなことは書かないでくれと言われている。
よって、仮に地獄としか言いようのないバイトでも、真実をお伝えできないのも心(シン)苦しい。
そして、もう一つ、どんなバイトを紹介しても「まあうちの地元にはないんですけどね」という話になってしまうのだ。
地域格差と言えばまず賃金格差、交通格差、虫の大小などが思い浮かぶかもしれないが「選択肢」についても、とんでもない格差がある。
地方というのは何をするにも選択肢が都会よりも少ないのだ。産まれる瞬間からすでに「産院の選択肢が少ない」という徹底ぶりなのである。
もちろん、学ぶ選択肢も少ない。我が子を絶対エグザイルに入れたいと思っても、EXPG STUDIOはおろか、ダンススクールすらなく、良くて地域の和太鼓サークルがあるかどうかだ。
当然あっても、金がなければ利用できないが、都会ならスネ夫レベルの小金持ちでも出来ることが、田舎だと大金持ちレベルじゃないと無理だったりするのだ。
そして「職種」もバイトの段階から少ない。
バイトコラムで覆面調査員とかイベントスタッフとかのバイトを紹介するのだが、我が地元では、横山三国志関羽の顔で「そんなものはない」である。
イベントスタッフは辛うじて、ショッピングモールの広場で行われる謎の演歌ライブ、物産フェア、そして選挙などで需要があるかもしれないが、覆面調査などはまずない、そもそも調査するような店がないのだ。
もちろん、就職先の種類も少ない。
よって田舎の女は、結婚、看護師、教師になれなかったら、山姥かゲリラに入らないと野垂れ死ぬと言われている。
それはオーバーなのだが、近い部分があることは否めない。
就ける職種が限られているのは紛れもない事実なので、就きたい職があるなら都会にでなければいけない場合も多い。
よってボンクラは良いが、志を持っている地方の人間はまず「地元脱出」という吉幾三ミッションをクリアしなければいけないというハンデを背負っているのだ。
これは地方生まれの私の感想なので、都会住みの人から言わせると、都会に産まれたが故のハンデ、地方のメリットがあるのだとは思う。
あるならぜひ教えてもらいたい、地方のメリットを。