漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「エゴサ―チ」である。
やっと私の得意分野というか、もはや三大欲求の1つと言ってもいいテーマがやってきた。
正直「性欲」ぐらいならエゴサにその座を譲ってやっても良いとさえ思っている。
確かに性欲も惜しくはあるが、睡眠欲は二酸化炭素、食欲はウンコを作り出しているのに対し、私の性欲は徹頭徹尾何も生み出していないので「創造性」という観点から、性欲さんにはそろそろ勇退していただいても良いかなという結論に達した。
そんな私の生命活動であり本業でもある「エゴサ―チ」だが、芸能人とか漫画家とかユーチューバーとか、不特定多数に向けて活動しているつもりで実は誰も見ていなかったり、かと思えば、全く知らない人間にいきなり人格を否定されるようなことを言われたりする仕事をしている人間以外は、あまりしていないと思う。
何故そんな仕事をしているのか疑問に思うかもしれないが、そういうタイプは会社勤めとかしても、会社の人間に人格を否定されるだけなので、消去法で知らない人に人格を否定されることを選んだだけである。
つまり、人気商売の人間が、己の評判を調べるために、ネットで自分の名前を検索する行為が「エゴサ―チ」である。
私は「1日68時間ツイッターをやっている」と常々言っている、しかし正確にはは「誤: 1日68時間ツイッター」「正: 1日74時間エゴサ―チ」なのである。
そこは「表記ゆれ」みたいなものと思ってご容赦いただくとして、ともかく睡眠より長くやっているので、ニューカマーにしていきなり三大欲求最強の座に踊り出たのがこのエゴサ―チ欲なのである。
何のためにエゴサ―チをするかと言うと、自分に対する意見を集めて仕事に生かすため、と言いたいが、全くそんなことはない。
褒めてくれる人を見つければ「気に入った! うちに来て妹を抱いていい!」と思うが、けなしている奴を見つければ「明日、左鼻が完全に詰まれ」と呪ってミュートするだけだ。
ちなみに、1日72時間のエゴサ―チを日課にしている人間は私だけではない。著名人の名前をつぶやくと、意外と本人が見ているものなのである。
つまり1日に3人の悪口を言うと、左鼻、右鼻、口が詰まることを同時に祈られ、窒息死する危険性が出て来るので、悪口を言う時はエゴサに引っかからないように隠語を使うか、そもそも他人の悪口などあまりネットに書かない方が良い。
ともかく、エゴサの結果を見て、今後の参考にするということはあんまりない。
大体、ネットに書いてある己の悪口を気にして行動するというのは「嫌いな奴のために生きる」というのに等しい。「批判を受けとめる」ことと、「悪口を気にする」ことは全く別であり、後者をやり過ぎると病気になるので、そういうのを見つけたらタンでも吐いて忘れる、というのも他人に評価される仕事をしている人間には必要なことなのである。
しかし、そういう人間を病気にさせるのは他人の評価だが、元気にさせるのも他人の評価だったりするため、エゴサ―チというのはほとんどシャブみたいなものということである。
さらに、エゴサ―チによって得られる評価というのは私の性にあっているのだ。
そもそも幼少から現実で評価され慣れている人と言うのはネットで評価されてもそこに固執しないと思う。
リアルで全く評価された経験がない人間ほどネットで評価された時、初めてベルタースオリジナルをもらったその時のように感動してしまい、ジジイになるまで執着してしまうのである。
私などまさに、リアルでは決して良い意味で人の話題になるようなタイプではなかった。
さらにそう言うタイプは、リアルで他人に褒められなさすぎて、稀に褒めて来る人間が全部詐欺か宗教に見えてくるので、面と向かって褒められると逆に苦痛を感じるようになってしまうのだ。
よって私は今でも他人に対面で褒められるのが苦手である。
サイン会など開くと来てくれる人は褒めてくれるし、少なくとも罵倒してくる人間はいない。
それは嬉しいのだが正直、居心地が悪く、気を抜くと「ちくしょー! 褒めるんじゃねー!」と猛ビンタをかまして窓から逃げ出しそうになる。
だがもちろん褒められること自体は好きなのである。
その点、エゴサ―チというのは、面と向かってではなく、他人が自分を褒めているのをこっそりのぞいて、ほくそ笑むことが出来るという、最も私に向いた承認欲求の満たし方なのだ。
改めて書くとものすごく気持ち悪い。これを72時間続けている時点で病(ビョウ)だ。
しかし実際、SNSなどのネットで承認欲求を満たすと言う行為は本当にシャブに近く、ネットで話題になるために、わざと炎上しそうなことを発言したり、犯罪行為をしたり、半乳を出したりと、本当に病(ビョウ)と変わらない行動を取るようになってしまう。
何より1日72時間エゴサ―チをしていると、他のことをする時間が3秒ぐらいしかなくなるというデメリットがある。
評価というのは、リアルでもネットでも自分の行動に対してされるものなのだ。
エゴサでその行動時間を削るようになっては本末転倒なのである。
そして、SNSに著名人のことを書く時は「本人が見ている」という気持ちで書いて欲しい。さもなくば、次の日謎の鼻づまりに悩むことになる。