漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「アイス」だ。
本州ではまだ梅雨明けしていないが、これから夏本番となりアイスも本番の季節となる。
しかし、アイスの消費量というのはその年の暑さによってかなり変わる気がする。
最近の日本の夏と言うのは漏れなく猛暑な気がするが、ここ数年、部屋から一歩も出ずに夏というものを研究した結果、やはり年によって暑さは大分違うのだ。
数年前、我が県には8月の半分以上が雨、という変態年があった。
もちろん私は部屋から出ないので、屋根が腐り落ちるまで外の天気など関係はない。ちなみに自室の床は既に腐っているので、屋根もあと3年ぐらいだとは思うが、もう少し先の話である。
この天気では海や山に行くリア充、もしくはTUBEは商売あがったりだろう、と思っていたのだが、他でもない私の夫の実家の恒例BBQが大雨の中「庇のある場所でやる」というストロングスタイルで豪雨決行されてしまった。
どうやら私だけではなくリア充にも天気は特に関係ないようだ。
だが、その年私はアイスをほとんど食べなかったので、夏が暑くないとTUBEとアイス会社が商売あがったりなのは確かだと思う。
あまりデカい声では言わないが、アイスを作る会社は夏が酷暑になるように毎年巨大あずきバーの御神体に祈りを捧げているのかもしれない。
だが、あまりにも暑すぎる夏になると、食欲がなくなるので、むしろアイスが唯一食べられるカロリー源になることだってあるのだ。
うちの90歳を越えたババア殿も数年前体調を崩した時「食事はアイスのみ」という、肥満の妖精みたいな生活をしていたが、それで命を繋ぎ、今は割と元気である。
ちなみに「アイスはどれだけ食っても太らない」という都市伝説がある。
いかにもデブが口いっぱいにチートスを入れたまま言い出しそうな話だが、一体どんな根拠でそんな話が出たのか調べてみると、諸説はあるが、アイスを食べると体温が下がるため、体温を上げるために、アイス分のカロリーを消費するから、という説が有力である。
そう言われればそういう気がする、というかそういうことにしたくなるが、スーパーカップ1つ分のカロリーを消費するためには1時間半のウオーキングが必要なのである。
人間がアイス1個食っただけで、自動的にそれだけのカロリーを消費してしまうような効率の悪い生き物だったら確実に絶滅して、今頃地球は緑に囲まれた平和な星になっているはずである。
確かに月餅やコンデンスミルクを直で吸うよりは太らないかもしれないが、いくら食べても太らないなどということはないし、体にも決して良くない。
うちのババア殿のように、もはや健康な食生活とか言うのがバカらしいレベルの年になるまで、主食がアイスというのは我慢した方がいい。
今年の暑さもアイスの消費量もまだ未知数だが、アイスを調達するのは専らコンビニである。
私が好きなアイスは、ガツソとみかんだ。
「ガツソ」という擬音は比喩とかではなく、実際「暴力」としか言いようがないほどのガツソとしたみかんがそこに存在するのだ。
もはやアイスというより「みかん」と言っても良いので、食欲のない夏にピッタリである。
ただし、買うなら個包装をお勧めする。
箱入りは5本ぐらい入っているものがスーパーで買えるので、かなりコスパが良いのだが、明かに個包装より暴力が控えめなのだ。
とても「ガツソ」とは言えず「スコペッソイ」程度が妥当である。多少割高でも本物の暴力を味わいたかったら個包装を買うべきだ。
ちなみに私は、アイスに「食感」も求めているので、ハーゲンダッシのバニラと、チョコモナカジャンボどちらかを買ってやると言われたら迷わず、ジャンボを選ぶタイプであり、若い頃、夏はスーパーカップのクッキーバニラを毎日食っていた。
しかし、世の中には、コンビニで「これは神」と思った商品が、光の速さで売られなくなるという死神みたいな人間がいるのだ。
私も割とそのタイプであり、最近でも「あんた女神だ…」と思ったマシュマロにイチゴチョコがコーティングされた菓子がすぐに売られなくなってしまった。
多様化社会と言って、少数派にも平等の権利を与えようという動きに世間はなっているが、商業の世界ではそれは不可能なのだ。
ごく少数しか買わない商品をいつまでも作り続ける余裕は企業にはないのである。
漫画も同じであり「ごく一部の層の下の方に沈殿しているような輩に人気がある」というような「コアな人気」ではなかなか連載を続けられなくなってきている。
よって、良く言えば趣味が個性的、悪く言えば舌が変態な人間というのは、気に入った商品が食べ物に限らずすぐに消えてしまう、というジレンマを抱えがちだが、逆に言えば売れさえすれば商品というのは消えないのである。
よって好きな商品は、売られている内にたくさん買っておくことをお勧めするし、たくさん買うことにより、商品の寿命が延びることもある。
コンビニ商品レベルになると、個人の購入でどうにかなる話ではないかもしれないが、漫画業界は最近渋いので1人で千冊ぐらい買えば割となんとかなってしまう。ぜひ私の漫画も皆さん個人のお力でなんとかしていただきたいと思う。