漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「キャッシュレス決済」である。

この6月末で一応「キャッシュレス還元」が終わるのだが、すでに「なんだっけ」となっている人も多いのではないだろうか。

既に遠い昔の話のように思えるが、去年の10月から消費税が8%から10%に上がった。

そしてこれもみんな忘れているような気がしてならないが、低所得者を支援するという名目で、食品などの生活必需品は8%のままという措置が取られた。

しかし生活必需品の中にトイレットペーパーなどは含まれていないのに、何故か新聞は必需品として8%のままという、何か利権の匂いがしねえか、ちょっと納屋の様子見てこい、という内容が物議を呼んでいた。

確かに新聞はまず生ごみを捨てる時の必需品であるし、ケツも拭こうと思えば拭けるし、ついでに読むことも出来なくはない。

しかし、ケツが常にインクで黒い、というのは消費税云々以前に、健康で文化的な最低限度の生活を送るという生存権に反してしまっている気がするし、新聞に載るような人は常に己の顔でケツを拭かれるかもしれない、ということになってしまう。これも基本的人権の尊重ができていないのではないだろうか。

ともかく、何か釈然としないまま始まり、同じ食品でも持ち帰りなら必需品で8%だが、その場で食べたら外食として10%になるという、面倒くさいとしか言いようがない状況も生まれてしまった。

その結果、持ち帰りと偽って支払いをし、そのままイートインで食ってしまう「イートイン脱税」が横行するのではと言われ、そしてそれを取り締まる、店とは全く関係のない正義の人「イートイン警察」がはびこるのではないか、と危惧されていた。

しかし全て安土桃山時代ぐらい昔の話である。

コロナという前代未聞の出来事が起き「飯は全部持ち帰って食うしかない」という状況になってしまった。

イートイン脱税どころか、既に世の中は「自粛警察とはなんだったのか」と問われるフェーズに入ってきている。

とにかく世の話題というのは移ろいやすい。

どんなにデカい出来事が起きても数カ月後には「そういえばあれは何だったんだ」となっている可能性が高いので、憂い過ぎるのも時間の無駄である。

そんな、問題や批判が多かった消費税10%を少しでも良きこと風にするために同時に行われたのが「キャッシュレス還元制度」である。

その名の通り、支払いをクレジットや電子マネーなどキャッシュレス決済にすれば、数%の還元がされるという制度だ。

施行された当初はあちこちに「キャッシュレス還元」というのぼりがたち、まるで増税がお得であるような雰囲気になっていたが、もちろんそんなことはない。

ただし、キャッシュレス還元を利用するかしないかで、失う金の量に差がつくのは確かである。

キャッシュレス還元は、増税で下がった国民のテンションを上げる目的もあったと思うが、紙フェチ過ぎていつまでも現金離れできない日本を、キャッシュレスに移行させる目的もあったと思う。

確かにキャッシュレス還元目当てで支払いをキャッシュレス決済に変えた人も多いだろうし、還元が終わってからも使い続けるという人も少なくはないはずだ。

私も大体の支払いは電子マネーかクレジットカードを使用するようになった。

キャッシュレス決済の良いところは、自分が記録したり覚えていなくても、何に使ったかある程度記録が残るという点である。

金というのは、自分の知らない内になくなっていることで有名だが、何故なくなったか突き止められないことが多いため、不正利用されたのでは、誰かに盗られたのではと、疑心暗鬼になってしまうことがしばしばだ。

しかしキャッシュレス決済の場合は、どこで使ったかぐらいの記録が残るため、その記録を見れば「全部覚えがある」ということがわかるため、無駄に他人を疑わずに済む。

また、ズボラな人間の財布というのは常に小銭でパンパンであり、立方体に近い形になってしまうのだが、キャッシュレス決済により、レシートでパンパンになるだけで済むようになった。

しかしズボラな人間なら、電子になったことにより、金を使っているという実感がなくなり、さらに、キャッシュレス還元など無意味なぐらい無駄遣いをするのではないかと思うかもしれない。

それは一理あるのだが、キャッシュレス決済でも、クレカなど後払いのものもあれば、チャージした金額だけ使えるという形もある。

つまり、無駄遣いしないために現金を千円だけ持ち歩くのと同じように、決まった額だけチャージしてそれ以上は使わないという方法も取れる。

だが所詮どのツールを選ぶのもルールを決めるのも自分である以上、無駄に使おうと思えばいくらでも使えてしまう。

自信がない人間は、ツールを変えるのではなく「お母さんに毎日千円もらう」など「管理者」を変えるのが一番である。