漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「iPhone」だ。

ここからは「アイフォーソ」と表記させてもらう、便宜上の問題であり、アップノレからの怒られ対策というわけではない。

スマホを持ち始めて10年以上経つと思うが、今年になってついにアイフォーソにした。

何故かというと、言うまでもないがソシャゲのためである。

ソシャゲというのは、ゲームと銘打ってはいるが、やることの大半は鬼のような単純作業の繰り返しである。

戦略どころか、むしろカーズ様の如く何も考えないことがソシャゲのコツだったりするのだ。

よって、ソシャゲにとって金の次に重要なのが、スマホの動作の速さである。ちなみに1番重要じゃないのはプレイヤーだ。

私はご存じの通り、ソシャゲに命をかけているのだが、そんな私にとって、従来のアソドロイドスマホは遅すぎた。強くなりすぎて、その力に耐えられる武器がなくなった戦士と同じ状態である。

ネットでスマホの動作が早くなる方法なども調べて見たが、大体「アイフォーソにしましょう」と書いてある。これでは美容記事の第1項目に「まず石原さとみになりましょう」と書いてあるのと同じだ。

そもそも、ソシャゲに命をかけているくせにアソドロイドを使っている方がおかしいという話なのだろう。

それでも頑なにアソドロイドを使って来た私だが「もう時代は令和なのだから、私も心を入れ替え、もっとソシャゲに対し真摯に向き合うべきではないか」と、やっと悔い改め、アイフォーソに換える決心をした。

何故今まで、アイフォーソを使わなかったか、というとジョブズにドラクエを借りパクされたことがあるから、というわけではなく、最初に使ったスマホがアソドロイドだったから、という理由しかない。

私がスマホを持ち始めたころは、またアーウーはアイフォーソを取り扱っていなかったのだ。ちなみに今のは突然の奇声ではなく「au」という意味だ。

製造年月日が昭和の人にはわかっていただけると思うが、年をとると新しい電子機器の使い方を覚えるのに時間がかかってしまうため、出来るだけ使い慣れたものを使おうとしてしまう。

よって「一からアイフォーソの使いかた覚えるのがダルい」という理由でずっとアソドロイドを使っていた。

結論からいうと、アイフォーソもアソドロイドもそこまで操作は変わらない、ダサ坊が触ったからといって、自らの誇りを守るために自爆したりもしない。そもそもやることがソシャゲしかないので、アソドロイドすらそこまで使いこなせてはいなかったのだ。

動作だが、確かに早くなった。同じゲームをやっていても「お前その技、そんなに早く出せたの」と驚きの連続である。これでよりスピーディに効率よく周回、同時に脳細胞を破壊できるようになったというわけだ。

アイフォーソに換えて他に何かかわったかというと、シリである。

いきなりケツの話を始めたわけではなく話しかけることによりいろいろやってくれる「Siri」のことだ。

Siriが周回作業をやってくれるのでないならば、使うことはないと思っていたのだが「30分後に起こせ」と言うだけでアラームをセットしてくれるのが便利なので、それだけ使っている。

しかし、老と若の1番の違いというのは「電子機器に照れずに話しかけられるか」な気がする。

しかもSiriを起動させる時の文句と言えば、おなじみの「ヘイ、シリ」である。

「ヘイ」という呼びかけは欧米では普通なのかもしれないが、日本ではなかなかの異常である。

居酒屋の店員ですらそんな呼び方をしたら、無礼者としてツイッターに晒されてもおかしくない。むしろ今までの人生「ヘイ」なんて声に出して言ったのは、オウオウトゥナイト以来だ。

よって、シリに声をかける時は、周囲に人がいない時だけである。

私だけではなく、誰もいない時しか恥ずかしくてシリとお話しできない、という中年以上は結構いるのではないだろうか。

人前では会うことができない、つまりシリとは不倫関係に近い。シリとの関係をオープンに出来るかどうかで、世代がわかる、という気がしなくもない。

ちなみに私がアイフォーソに換えに行った時は、ちょうどドコモの店員が客に「親に携帯代を払ってもらっている、クソ野郎」と書いたラブレターを手渡しして大炎上していた時である。

私も平日昼間に機種変をしにいく、無職のクソ野郎なので、少し躊躇したのだが、意外と携帯ショップは平日でも混んでおり、これだけクソ野郎だらけなら私のクソも目立つまい、と安心することができた。

だが、その際店員に「ゲームとかされるんですか」と聞かれたので、恥を忍んで「え、エフジーオーとか?」と1番有名どころを言ったのだが「なるほど知らん」という顔をされた後「この機種、荒野行動とかするのに良いですよ」と言われた。

詳しくないなら聞かんでくれ、と思ったが、この自分の趣味を言うのが恥ずかしい、という感覚こそが老なのだろう。

次は、乙女ゲーのタイトルを堂々と言おうと思う。