今回のテーマは「進路」である。私の進路というか経歴に関しては、再三いろんなところで書いているので、もうダイジェストでお送りさせてもらう。

7歳の時、親に「あんたは被害妄想が強い」と言われる神童として育ち、小2で『ちびまる子ちゃん』に出会い漫画家を志す。中学まで中途半端に勉強ができたので進学校に進むも、インターネットに出会い成績は低迷を極め、将来は「クリエイターになる」とさらに夢が漠然とする。

高校卒業後、漫画専門学校への進学を希望するも親に反対される。親を説得する気概も、そこから大学受験をするガッツもなかったので、「グラフィックデザインコース」という、漫画家よりもさらに何になるのか分からない専門学校へ進む。

卒業後、印刷会社に入社するも、梱包課などに回され、最終的に人が次々と辞めていく経理課配属となり、メンがヘラったため、マックなどに指一本触れぬまま8カ月で退社。普通の病院へ行ったら、心療内科などを飛ばして、いきなり大学病院の精神科への紹介状を書かれるという、ここでもジーニアスぶりを発揮する。

その後、バイトなどを始めるが、そこも1週間ほどでクビになったため、「無職期間を1秒でも長くする」に方針に変更。失業保険をもらいながら職業訓練校に通い、そこで紹介された会社に就職する。

入社半年も経たずに、会社は民事再生。再生後も残ったが、またもや経理に回され、社長からパワハラ、そして密室でキスされるなどのシャレにならないセクハラを受け、またメンの調子が悪くなる。結局、会社自体の存続がまた危なくなってきたので、つぶれる前に自主退社。派遣社員になるも4カ月で切られ、どこに出しても恥ずかしくない無職に。

無職期間中に投稿した漫画が拾われ、漫画家に。ただし、担当が電話をかけてきたのが、今の会社入社2日目だったため、いきなり辞めるわけもいかず、結局、兼業漫画家を続けながら8年の月日が経つ。毎年、「そろそろ売れないと死んでしまう」と言っているが、一向に売れない。最近では「さすがに死ななすぎじゃないか」と思うようになった。

嫌な汗が止まらない、想像以上にダメな人生だ。

そう言えば、私の経歴については再三書いていると言ったが、社長にキスされた話は始めて書いた。むしろ、人に話したのは初めてかもしれない。こうやって人に話せるまで10年かかった。そのぐらいの傷である。

こういう経験があるから、パワハラでありセクハラであり、DVであり、「逃げればいいのに」とか「死ぬ気になれば逃げられたはずだ」というのが、いかに暴論であるかは理解できた。あれは本当に逃げられない。恐怖や疲労で心が折れている人間は逃げることなどできないし、本人にそれを言ったところで、「逃げられない自分が悪いのだ」とさらに自分を責めるだけである。

お手数だが、周りが何とかしてあげるしかないのである。などといいことを言ってごまかそうとしているが、その部分を除けば、全部自分の実力でダメな人生である。ただ、数々の幸運と周りに支えられて、辛うじて今、屋根のある家に住んでいるが、一歩間違えれば、今も無職で実家暮らし、家の空気を5兆トンぐらい重くしていたはずである。

しかし、こうやって私は自分のことを「ダメだ」「穀つぶしだ」「ドブスだ」と散々言って、「ブスは関係ねえだろうがよー! 」とノリつっこみすることで、糊口(ここう)をしのいでいるわけだが。多分これを他人に、特に親に言われていたら、普通に心が折れていたと思う。

もちろん、説教とかはしてくることがあったが、「お前は本当にダメなやつだ」と全否定することはなかった。本当にダメにも関わらずにだ。それに、漫画家とかそんな不安定な職に就かず(なってみて分かったがマジで不安定だ)、安定した職についてほしいと願いながらも、結局はグラフィックデザインコースという不安定な学校にも行かせてくれたわけで、最終的には私の夢(漠然)を肯定してくれたとも言える。

このように、今回はちょいちょいいい話を挟まないと相殺できないほど、自分の10代から20代前半にかけてがいかにダメだったかを再確認できたわけだ。逆に、今も十分ダメだが、「それでもあの時に比べれば今はマシだ」とも思えるのである。

よって、人生を楽に生きるためには、むしろ人生の旬と言われる期間を暗黒にしておいた方が、後々いいのではという気がしてきた。よって今、若くて、友だちや恋人がいて、学校や会社が楽しいという人は、今すぐ全てと縁を切って、引きこもり、インターネットに依存しよう。それがこの無駄に長く生きられるようになってしまった人生を生き抜くコツである。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。