漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
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今回のテーマは「筋肉痛」である。

「俺、この会社辞めたら、筋肉ゴリラになるんだ」と、戦友(壁のシミ)に語っていた通り、無職になって時間ができたら、体を鍛えたいと思っていた。

しかし、無職になって約1年半、結果だけ言うと、未だに贅肉ダルマである。

ついでにせっかく死亡フラグを立てたのに、死んでもいない。

何故、そんな体たらくか、というと、無職になってできた時間の大半をソシャゲの周回に使っているからだと思う。

だったらせめて、親指の関節が6つに割れてほしいところなのだが、これも未だに2つしかない。

よって、運動どころか、たまに上京しただけで筋肉痛になる。

羽田空港内から脱出するだけで筋肉痛になるようになってからが、運動不足としては一人前なのだ。

そして、年をとると筋肉痛が1日遅れてやってくるというが、私はすでに2日後だ。

しかし2日経つと「筋肉痛が起こることをした記憶」すらなくなっているので「原因不明の痛み」として、無駄ロキソをキメてしまったりするのである。

何故、筋肉痛が起こるのかというと、実は未だに定かでないらしい。

しかし、現在では「急な運動で破損した筋肉繊維を修復する時の痛み」という説が有力のようだ。

つまり、私は、羽田空港内を歩くだけで、体中が破損しまくっているということである。

ガガンボだってもう少し頑丈なのではないか。

つまり、筋肉をつけたいなら、筋トレ、そして筋肉痛は避けて通れない、というわけだ。

しかし、時代は令和であり、私は無職の中年である。

私の現在地は関係ないが、これだけ「運動しないでやせる商品」が乱立している今、筋トレせずに筋肉ゴリラになる方法の1つや2つあるのではないか。

バイオハザードとかに出てくる、もはや筋肉しか残ってないクリーチャーだって「筋トレでこうなりました」というわけではないだろう。

とりあえず、合法かつ、アンブレラ社が絡んでない範囲で運動せずに筋肉をつける方法を調べてみたところ「EMS」という単語が引っかかった。

仕組みは各自「カスれググ」していただきたいが、簡単に言うと、筋肉をつけたい場所にこれを貼りつけて、スイッチを押せば、何もせずに鍛えられますよ、という器具だ。

そんな夢のようなマシンを見ても、私はすぐにアマる(アマゾンでポチる)ような真似はしなかった。

何故なら私はすでに、EMS器具を買ったことがあったからだ。

2日前の筋肉痛の原因を忘れるぐらいなのだから、数年前買ったEMSのことなど覚えているはずがない。

その時は、筋肉をつけるというより、ダイエット目的で買った。

しかし、それを腹に貼れば、何もせずに腹筋が鍛えられシェイプアップできるという原理は同じである。

だが、こういう「何もせずにやせられるグッズ」を買う人間の99%は、そのうち腹に貼りつけるのすら、だるくなり投げ出してしまう。

「腹に貼りつける」だって「何かする」のうちに入るのだから当然だ。

本当に何もせずにやせられると謳いたいなら「部屋に置くだけでやせられる」というレベルまで高めてもらわないと、宣伝に偽りありだろう。

よって、このEMSもすぐに飽きて使わなくなったのだが、その後、それが夫に見つかってしまった。

確かそのEMSは3万円ぐらいしたと思う。

ダイエットというのは、極論、食わなきゃ成功するものだ、理屈でいえば「食費の分だけプラス収益」になるはずである。

それにもかかわらず、何故か3万円も使った上、その3万円の成果が出ていないのは、見ればわかる。

よって「これは何だ」と聞かれた時、ダイエット器具とは言えなかった。

だが幸い、そのEMS器具は、低周波マッサージ器に良く似ていたので「マッサージ器だ」と言って事なきを得ることができた。

しかし、その後しばらく、夫がそのEMSを肩に貼りつけて使用する、という事態に陥った。

そういう効果がないとは言い切れないが、明らかに本来の用途ではない。

大体そのEMS器具だって、自分の金で買ったんだから、別に隠す必要もなかった。

今度、買って放りだした健康・美容器具が発見され「これは何だ」と問われたら、素直に「金をドブに捨てた」と答えることにしよう。

ちなみに最近、買ったのは「脱毛器」である。

時代は令和だし、俺も無職の中年なので、そろそろ指毛とおさらばした方が良いのではと思い、何故か増税後に思い切って買った。

まだ夫にはバレていないが、もしこれを「マッサージ器」と偽ってしまったら、夫は「己の肩毛を脱毛し続ける」ことになりかねない。

見つかったら、率直に脱毛器だと答え、ついでに「自分で自分のケツ毛に脱毛器を使うのは困難なので、あなたがやってくれないか」と頼もうかと思う。

何事も勢いが大事、死なばもろともである。