漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
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今回のテーマは「公衆電話」だ。

携帯電話の普及でめっきり姿を消した公衆電話である。調べたところ、私の家から最寄りの公衆電話までは27.3kmあるようだ、もはや小旅行ぐらいの距離がある。

若人の中には公衆電話と言われてもパッとビジュアルが思いつかない人もいるかもしれない。公衆電話とは、街中にあるピッコロさんみたいな色をした電話のことである。

ピッコロさんがわからない奴にはこれ以上説明する気はない、ニンテンドースイッチでもやっていろ。

たしかに公衆電話の数は減った、しかし今後もなくなることはないだろう。

何故なら、オール電化でも停電したときにはガスが必要なように、旧式のもの、アナログなものが必要な局面、というのは必ずあるからだ。

どれだけ技術が発達しても「問題を解決するには、こいつをぶん殴るのが一番早い」というシーンがなくならないのと同じである。

特に公衆電話は、災害など有事の際でも通信制限がされず繋がりやすくなっているそうだ、いざという時なくてはならない代物なのだ。

今後も、公衆電話に代わるものが出てくるか、我々が「こいつ……脳内に直接?!」という能力に目覚めない限りはなくなることはないだろう。

つまり、「これひとつあれば何でもできる」という最新機器だけを持っている人間、というのは本物の切れ者ではない。

最新機器を持ちつつも、それが使い物にならなくなったとき用の矢文や鳩を懐に忍ばせているのが真の危機管理に長けたデキる奴である。

ちなみに、有事の際に備えすぎてカバンがパンパンになっているのはデキない奴だ。

家に何も食うものがないとき、実家でもらったメーカー不明の「おかき」が突然輝き出すように、平素は時代遅れの公衆電話も、有事の際は救命級の働きを見せるのである。

しかし、公衆電話パイセンがどれだけポテンシャルを秘めていても、それを使う人間がボンクラすぎて、全く輝かない、という事態もあるようだ。

まず、ピッコロさんも知らないようなキッズたちは、当然ピッコロさん色をした公衆電話も使ったことがないので、そもそも使い方がわからないのだ。

これだから、ピッコロさんを知らない子どもたちは、と思ったが、大人も最近はスマホに頼り切っているため「自宅の電話番号すら覚えていない」場合が多いらしい。

そうなると結局、スマホの電話帳が見られなければ電話をかけられないので、スマホが使えなければ詰むのだ。

電話帳も、固定電話を持たない家が増えているので徐々に意味をなさなくなってきている。

やはり真のリスクヘッジを考えるなら、電子機器だけではなくアナログのアドレス帳も持っておいた方が良い。

もしくはメメントみたいに自宅の電話番号ぐらい体に彫っておくべきだろう。

よって、授業で子どもに公衆電話の使い方を教える学校もあるようだ。

ぜひ子どもだけと言わず、大人にも再度教えてやってほしい、昭和生まれだからといって公衆電話が使いこなせると思ったら大間違いだ。

また、公衆電話は、硬貨やテレホンカードを使って電話をかけるシステムだ。

電子マネー化が急速に進む昨今である、公衆電話はあっても「10円を持ってない」ということも十分あり得るし、「今持ってない、という意味ではなく、本当に持ってない」ということも良くある。

電子決済できる公衆電話もあるようだが、最近電子マネーや〇〇ペイが無限増殖しているので、対応の電子決済が使えないということもあるだろう。

しかしテレホンカードとなると、いよいよ持っている人間が少ない。

中途半端に使ったQUOカードを財布に5枚ぐらい常備している私でさえ、さすがにテレカは持っていない。

いざという時のためには、コンドームだけではなくテレカも財布に忍ばせておいた方が良いということだ。

前者は、予期せぬ生命の誕生を防ぐものであり、後者は命が失われるのを防ぐかもしれないものだ、バランスも非常に良い。

しかし、防災グッズを買おう買おうと思いながら、未だに買っていないように、なかなか起きるかどうかわからないものに備えるのは腰が重いものだ。

よって、界隈はもっとグッズとして「テレカ」を作るべきではないだろうか。

界隈というのは、私で言えばもちろん「二次元のイケメン界隈」である。他にもアイドルとかヅカとか熱心なファンがいる世界なら何でもいい。

オタクというのは推しが印刷されていれば、人生10回分のクリアファイルを買う生物である。使う、使わないは関係ないのだ。

よって、テレカも出せば絶対買うし、それで緊急時に役に立つなら一石二鳥だ。

アクリルキーホルダーも良いが、アクリルは災害時、煮て食うことはできない。

ぜひ「乾パン」とか、そっち方面の商品を充実させてほしい。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。