漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
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今回のテーマは「虫刺され」だ。
今年の夏は、ほとんど虫というか、蚊に刺されなかった。理由はもう言わなくてもわかると思うが、部屋から出なかったからだ。
あらためて「部屋から出ない」ことの万能性に震える。
今あなたが感じている不調の9割は部屋から出たことにより起こっているのではないだろうか? 一度生活を見直してみてはどうか。
つまり、部屋の中に蚊がいない限りは刺されることはない。
私の部屋は意外なことにまだ虫は湧いていないのだ、もしくは、湧いたが、汚さに耐えられず死滅したのだろう。
もしかしたら、刺されなくなったのは加齢も関係しているのかもしれない。
しかし、昔から「蚊に刺されやすい人」の話はあるが、その基準はイマイチ判然としていない。若い方が刺されるという説もあれば、不健康な人の方が刺されるという説もある
レジ袋を猫ちゃんと間違えて追いかけてしまう我々と違い、なぜ蚊はあんなに的確に人間を狙って飛んで来られるのか、レジ袋の血を吸おうとしている蚊は未だかつて見たことがない。
蚊が感知するのは主に、「二酸化酸素」「臭い」そして「熱」らしい。
一番強く感知するのは二酸化炭素で、10メートルぐらい離れていてもわかるそうだ。人間が10メートル離れて感知できるものなんて、スーパー玉出ぐらいのものなのに、大したものである。
つまり、二酸化炭素を排出しなければ、蚊は寄ってこないはずなのだ。
しかし二酸化炭素を出さないというのは「死」を意味する気がする。死んだら蚊は寄ってこなくなるかもしれないが、今度は別の虫が寄ってくる可能性があるので、お勧めはできない。
次に臭いだが、蚊は臭いによって、人間などの吸血対象生物かどうかを判断するようだ、よって汗かきの方が刺されやすいという。
二酸化炭素を発していても、臭いで血を吸うべき生物ではないと判断した場合は諦めたりするらしい。
つまり、人間でも洗っていない犬の臭いを発している人は刺されない可能性がある。
最後に熱だが、蚊は大体、人間の体温~40度ぐらいの熱を感知するという。つまり体温がないか、逆に50度ぐらいあれば刺されないのだ。
だがこれも多分死んでいるので、お勧めはできない。
体温が高い人ほど刺されやすいが、猛暑で、気温が体温と同じかそれ以上になると、蚊は人間を感知できなくなるので逆に刺されないそうだ。
つまり、多少の差はあれ、生きている限りは割と刺される、ということであり、必勝法は「死」だ。
あまりお勧めはできないが、死んでも蚊に刺されたくないという人は「死」を検討してみるのも良いだろう。
蚊で一番腹立たしいことといえば、寝ている時、耳元で囁く蚊だ。もはやCV緑川光ぐらいでなければ許されない。
しかし、寝ている時というのは眠いはずである。
よって、蚊がいるとわかったからには仕留めるまで寝られない派と、布団かぶってそのまま寝る派に分かれると思う。
私と夫はそこが決裂している。
私は、血を3分の2ぐらい吸われない限りは、面倒なのでそのまま寝ようとするが、夫は見つけたからには倒さないと寝られない派である。
よって部屋に蚊がいると、何時であろうとも、電気をつけて起床、討伐するまで眠れない。
夫は蚊だけではなく、基本的に気になったものを放置できぬ性質である。
先日早朝、台所で、Gの姿が発見された、Gというのはもちろん「ゴリラ」だ。夫は捕まえようとしたが、ゴリラはそのゴリラらしい俊敏さで、あっという間に家具の隙間に逃げ込んでしまった。
私は、何事も己の視界から消えた時点で「最初から何もなかった」ことにするのだが、夫はその後もしばらくゴリラを探し、その5分後には「今週末バルサンで一掃作戦をしよう」という計画を立て始めた。
見たものは解決しないと気が済まないのである。
その後、夫は会社に行ったが、帰ってきて第一声が「ゴリラはどうなった? 」だった。私だったらもう忘れている。
神経質な気もするが、人としてはこちらの方が正しい。問題を見て見ぬふりするから、ミニゴリラがキングコングになるのである。
しかし、私のこの、問題から目をそらす能力は、今の仕事に不可欠な「才能」だと思っている。
今の仕事というのはもちろん、作家業とかではなく、本業の「無職」だ。「現実」から目をそらす能力がなければ、とても「無職」は務まらないのである。
これがなかったら今頃は外で働いており、蚊にも刺されていただろう。