漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
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今回のテーマは「自動販売機」だ。

私は、飲み物が好きである。飲み物が嫌いだと生命を維持するのが難しくなると思うので、みんな好む好まざるにかかわらず何らか飲んでいるとは思うが、私は特に好きである。

私は食事を1日1食しかとらない。

それでも会社員時代は、昼は1本満足バーと飲むヨーグルト(飲むヨー)を1日も休まずに食っていたが、無職になってからそれも食べなくなった。

別に働かざる者食うべからずとか思っているわけではない。

「働かずに食う飯が美味いか?」という煽りは、米や野菜を育ててくれた農家さん、なにより命を提供してくれた食物に対する冒とくである。

働こうが働くまいが飯は美味く食うのが、食への「感謝」というものだろう。

私は特に「食」をスペシャルな物と捉えているので、スペシャル度を高めるために、朝昼はあえて食わない。毎日「食」と「24時間ぶりの再会」をすることで感動を高めているのだ。

それに私は、良く言えば燃費が良く、悪く言えば消化が悪い。

昼間に固形物を腹に入れてしまうと、夜になってもそれが消化されず「大して腹も減ってないのに夕飯を食う」という、スペシャルであるはずの食が「惰性」になってしまうので、むしろ朝昼食わない方がちょうどよいのだ。

だからと言って、朝昼水しか飲んでいないわけではない、すごく濃く作ったココアを筆頭に、コンビニの飲むヨーやスムージーなど、好きな物を飲んでいる。

よって、そこまで空腹は感じないし、痩せることもない。むしろ夜たくさん食べるというのは一番太りやすいらしいので、かえって太るぐらいだ。

故に私は「飲み物費」が結構かかっているのだ、ココアやお茶を作って飲むことも多いが、それも消費量が半端ないし、なにより、市販の既成飲料が好きなのである。

一番好きなのは、飲むヨーなどの「チルドカップ飲料」だ。あれにストローを刺す瞬間というのはビール好きにおける「カシュッ」と同じである。

また、あれが冷蔵庫にあれば、朝起きる気にだってなるのだ。

ペットボトルや缶飲料も好きだ。

会社員時代は、出勤途中に自動販売機で缶コーヒーを買って飲むのが、日課であり楽しみだった。私にとって、市販飲料はペペロソチーノに並ぶ「生きがい」なのである。

もう一つは「パブロソ」だが、この話はあまりでかい声でできないので、小声で「用法には従っている」とだけ言っておく。

よって「家の隣に自動販売機があればどれだけ良いだろう」と思っているし、同時に「なくて良かった」とも思っている。

実は、実家にいたころは、本当に家のほぼ隣に自動販売機があり、毎日そこでコーラを飲んでいた。

あまりに私がコーラを買うので、すぐに売り切れになり、コーラがなくなるとファンタグレープを飲み、ファンタが飲みつくされるころ、補充されるという感じだった。

私がその自販機を支えていたパトロンだったのである。

非常に快適なアメリカのデブみたいな生活だったのだが、当然のごとく金がかかった。そもそも、自動販売機の飲み物というのは「コスパ」が悪いのだ。

しかし、私にとって飲み物は生きがいであり趣味である、趣味の世界に「コスパ」や「節約」を持ち出すことほど馬鹿らしいことはない。

節約するとしても、遠征費や、何とかプラスのチケット手数料がこの世から消滅するのを神に祈るぐらいで、ライブの物販や、コミケのDB(ドスケベブック)代をケチるのは「お前の人生不自由だな」としか言いようがないのだ。

自動販売機の飲み物というのは、大体スーパーで78円とかで売られている。しかし「そういうのじゃない」のだ。

スーパーで常温缶コーヒーをレジに並んで買うのと、自販機に小銭を入れて、ボタンを押して買うのとでは、ワクワク感が違う、その価値は130円以上なのだ。

だが、やはり金はかかる。

もし、一日中家にいる今、隣に自販機があったら、一体1日いくらつぎ込んでしまうのか、考えるだけで恐ろしい。

それに、もし家の隣に自動販売機があったら、スペシャル感が120円ぐらいに損なわれてしまうかもしれない。

趣味の世界に「節約」を取り入れるのもなんだが、「時短」を考えるのも野暮な気がする。

そもそも、私が朝昼食べないのも、夕飯というライブを最大限楽しむための「手間」である、そこを省いたら、楽しみも半減なのだ。

一度、コスパと買いに行く手間を考え、チルドカップ飲料を通販で大人買いしようかと思ったが、やはり「そういうのではない」のでやめた。

全てが、何かを楽しむための「ひと手間」と思えば、必要なことに思えてくる。

だが、何とかプラスの手数料だけは、おそらくその域に達することはない。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。