漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
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今回のテーマは「渋滞」である。

これが掲載されるのがゴールデンウィーク真っ只中であるから、今まさに渋滞にはまっているという人もいるかもしれないが、私は間違いなく家にいるだろう。

連休に行楽地に向かうと渋滞するというのは、健康なのに働かないと餓死する、と同じぐらいわかり切ったことである。

しかし、私がそれをわかった上で働かないのと同じように、皆渋滞にはまることを承知で出かけるから渋滞はできるし、日本のGNPは下がるのだ。

だが「わざわざそんな時に外出しなくて良いのに」と言うのは、THE無職の発想である。「そんな時」にしか遠出できないのが、厚生年金に加入している奴の運命なのだ。

大体、日本人というのは、台風の時にも会社に行くような国民性なのだ。

諸外国には、日本人はさぞかし会社が好きか、よほど良いログインボーナスをもらっているに違いないと思われているだろうが、実際は全く好きではないし、聖晶石ももらえない。

そんな、困難を乗り越えてでも好きじゃない場所に行こうとする日本人である、行き先がディズニーランドとかなら障害があっても行くに決まっているのだ。

むしろ災害じゃない分、台風のなか会社に行くより楽なぐらいだ。

今、映画『デビルマン』を見て「何だこのクソ映画は」と言っても「見るほうが悪い」と言われるのと同じように、GW(ゴールデンウィーク)に外出して渋滞に巻き込まれるのも「出たほうが悪い」のだ。

つまり、わかった上で渋滞にはまっているのだから、怒るほうがおかしいということだ。

それでもイライラするのが渋滞というものである。

旅行というのは、どんな関係でも良いが、絆を深めよい思い出を作るための行為なはずだ。

それにもかかわらず「旅行中のケンカ率」というのはかなり高い、ケンカまでいかなくても「険悪なムード」が漂いがちである。

その原因は「もたつき」なことが多い。

旅行というのは、ひとり旅以外であれば、複数人が足並みを揃えて移動することである。よって誰かの行動のせいで工程が「もたつく」とイライラするのだ。

そして、渋滞というのはこれ以上ないもたつきであり、場合によっては旅行よりもたついている時間のほうが長くなってしまう。

そして、イラつくのは大体運転手からである。

同乗している者としては、命を預けている人間が徐々に正気を失っていく、という状況は苛立ち以前に怖い。

よって、運転してもらっているという負い目から、同乗者が運転手をワッショイワッショイするという構図になりがちなのだが、これで運転手がさらにおむずがってしまうと、ミッキーが10匹ぐらいいるディズニーランドが行き先であってもリカバーが難しくなってきてしまう。

たとえ運転手が人格者で「寝てても良いよ」と言われても、それを真に受けて良いのは小学3年生までだ。

こんな時、渋滞に強いのは仲間(ファミリー)である。

複数人で出かければ、常に誰かしゃべっているだろうし、場合によっては運転を代わることも可能だ。

逆に家族(ファミリー)になると、親父しか運転できない上に、親父の頭のエンジンが渋滞でかなり温まっていることにも気づけない未就学児が「ねえ~まだ~? 」を連発して、車内の空気がさらに薄くなってしまうことがある。

だが、一番ケンカしやすいのはカップルではないか。

一対一なので、渋滞では自ずと運転手の機嫌を同乗者が取り続ける構図になってしまうが、何せ1人なので話すことにも限界がある。そのうち「なんでこっちがこんなに気を使わなければいけないのだ」と逆にイライラしてしまい、スマホをいじりはじめ、さらに運転手がイライラするという、無限ムカつきゾーンに突入してしまう。

ただの痴話喧嘩なら禁じ手「もう帰る」が使えるが、何せ渋滞中なので、アクションに自信がなければ車を降りることはできない、イライラしたまま密室に2人でいることを余儀なくされるのだ。

だが「GW(ガッデムウィーク)に出かける」と決めた時点で渋滞にはまることはほぼ決定である。

それが嫌なら出かけないか、渋滞にイライラしないか、しかない。よって「渋滞でイライラしない方法」をググってみた。

まず大事なのは「諦め」だそうだ。

お前がどれだけ怒り狂ったところで、前方の車がモーセの如く真っ二つに裂けて、その間を進めるということはなく、むしろイライラすればするほど事故率が上がり、ますます到着しないばかりか、行き先が「彼岸」に急きょ変更になってしまう危険性がある。

つまり「目的地に早く着きたい」という気持ちを捨てない限り、Gはガッデムのままでありゴールデンにはなり得ない、ということだ。

他にも、最近は渋滞時に操作しなくても自動的に前の車を追尾する車があるから、それに乗ると良い、という意見もあった。

それは便利だが、そんな機能はそれなりのお車にしかついていないだろう。当然私のメーカー最安値の軽自動車にはついていない。

金持ちはケンカせず、貧乏人は狭い車内で死ぬまで殴り合うしかない、それが渋滞というものだ。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。