今回のテーマは「出前」である。

もう至る所で何兆回も言っているが、私の一番好きなディナースタイルは「自室でペペロソチーノを食べながらギャンブルの借金とかで困っている人のブログを見る」だ。

つまりぺぺロソは「米」であり、他人の不幸は「おかず」である。

  • 出前

ちなみに新年早々ドルが下がり、FX界ではかなり上質の「おかず」が提供されたと聞いているので、あとでタッパーを持って見に行こうと思う。

しかしこのディナーの肝は、おかずの質ではない。場所が「自室」という点だ。たとえ目の前で、他人がFXで有り金を全部溶かして見せてくれようとも、そこが自室でなければ、砂を食っているのと同じなのである。

その点で言えば「出前」というのは、自分で作る手間がなく、美味い物を自室で食えるという画期的システムなはずだ。

しかし私は出前を頼んだことがない。

夫が不在で夕食を作る必要がない時でも、出前は頼まず、わざわざコンビニ等に食料を調達しに行ってそれを自室で食うというスタイルを取っている。

おそらく私は「食事」という行為に一切余人の介入を許したくないのだと思う。

食べる時に他人の存在がないことはマストだ。そこに人が1人いるだけで、椅子の上で体育座りして食事するというデスノートスタイルがとれなくなる、あれをメチャ人前でやるLはやはり天才だが変人だなと思う。

そしてLは人前でひたすら甘いものばっかり食ったり、それジャリジャリするだろというぐらいコーヒーに砂糖を入れたりしているが、あれも出来ない、奇食の人間の中にはその奇食姿を人に見られると死ぬ人間がいるのだ。

私は一時期、365日中300日はペペロソチーノを食べており、それも一食につき2~3人前食べていたので、連続して見るとけっこう異様な姿だったと思う。

しかしこれだけペペロソを食っている私だが、人前で食うことはほとんどない、たとえパスタ屋に行っても「じゃあこの平麺のやつ」などペペロソ以外のしゃらくさいものを頼んでしまう。

つまり好きなものであればあるほど人と関わらず食いたいのだ。

例えば、神のスイーツとしておなじみの福岡銘菓「通りもん」をもらった時でも「ヤッター」とその場で食ったりはしない。「巣に戻ってから食おう」と瞬時にポケットに入れるか、穴を掘って埋めておく。

しかし「人と関わりたくない」と言うなら、コンビニで食料を調達するのも出前を頼むのも同じではないか。万引きか、コンビニのゴミ箱から食料を調達していない限り、絶対に商品受け渡しの時「人との関わり」が発生してしまっている。

しかしコンビニと出前では大きな違いがある。「能動」か「受動」か、という点だ。

コンビニというのは、コンビニに行く、商品を選ぶ、会計をする、全てのアクションに自分が関わっている。

だが出前というのは、注文してから商品が届くまで「待ち」という「受け身」の時間があるのだ、つまり「他人の都合」が入ってしまっているのである。

その点コンビニは、店員が殴りかかってこない限りは、全ての工程を自分でコントロールできる。

よって、たとえ出前が人力ではなくドローンになって、アツアツのピザを庭にいる自分の額に落としてくれるシステムになり、一切人間と接しなくてよいことになっても私は出前を利用しないと思う。

つまり、食事という行為に一瞬たりとも「じっとしている時間を作りたくない」という3歳児マインドで出前を使わないのだが、実は宅配ピザには憧れを持っている。

私はペペロソチーノが好きなのだが、ピザも同じくらい好きなのだ、しかしパスタに比べるとコスパ面がイマイチなので、365日中300日食うのには向かない。

よってピザというのは、ハレの日の食べ物である、そんなハレの日に、ピザをデリバリーしちゃおうかな、という気にもならなくはない。

しかし、それは未だに実行に移されていない。何故なら、高いのだ。

出前だと1枚数千円はくだらないピザも、俺たちのローソソに行けば、能動的にワンコインで食える。そう思ったら、どうしても宅配ピザを頼む気にならない。

逆に言えば、どんな石油王が数千円払ってまでピザを自宅に持って来させようとするのかとずっと疑問だったのだが、あれはパーティなどでみんなとシェアすることが前提なので、ワリカンすればそんなに高くない、と言われた。

ピザを他人と分けて食わなきゃいけないぐらいなら、俺は1人でローソソのピザを1枚食う。

やはり出前というシステムは私と相性が悪いようだ。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。