今回のテーマは「初売り」である。

ここ数年、購買意欲が、ソシャゲのガチャかコンビニの菓子、あとはパブロソぐらいにしか湧かない。

つまり、JPEGとクソの原料にしか金を使っていないので、まったく何も形には残っていないが金だけは減っているという状態である。

  • 初売り

菓子はともかくJPEGのほうは物理的に形がないだけで宝と言ってもいいのだが、ガチャの結果によっては、クソ以下の物が出てくる上、金もバッチリ消えているのでさらに危険とも言える。

だが、その心もパブロソを飲むと不思議と慰められる。

このように、実に合理的な金の使い方をしているのだが、昔は人並みに服や化粧品を買うのが好きで、初売りにも参加していた。

21歳の正月には、元旦から車を3時間以上走らせて、ちょっと都会の初売りにまで行ったぐらいだ。

なんでそんなに元気だったかというと、無職だったからである。

我ながらいつも無職だな、と思うが、その時は新卒で勤めた会社を8カ月で辞めたばかりであり、無職としてもフレッシュマンだった、だから正月早々、高速道路に乗る元気もあったのだ。

その時に比べ、今はすっかり中堅無職である。

夢だけ乗せて軽自動車を走らせたあの頃のような若さはない、しかし逆に言うと職がない者としての貫禄、落ち着きが出てきたため、今は「お前はわざわざ正月に出かけなくたって永遠に休みじゃねえか」と言えるのだ。

だがあの時は、それがわからなかった。同じ初売りは二度と来ないと思っていたし、まさか15年後も無職だとは思わなかった。

その時、なぜわざわざそんな遠くまで行ったかというと、ハマっているブランドがあったのである。

そのブランドは、「初デートで着ていったら引かれる服」の上位に常にランクインしている「和柄」であり、それもオシャレ和柄なので着るとかなり目立つ。

これは私のファッション黒歴史の中でも関ヶ原の戦いに位置する、特筆すべき黒歴史だったのだが、前にも書いた通り、私はいま服をまったく買わず、夏の間は、自分の漫画のキャラが描かれたキャラTでやり過ごした人間である。

よって、この期間は、最もオシャレだった、むしろ黄金期なのではと再評価され始めた。

歴史も研究が進むことにより新たな解釈が生まれる、それと同じである。

ともかく、好きな服を着て幸せだった時のことまで「黒歴史」と言ってしまったら、人生は闇夜の黒牛になってしまう。人はそこまで他人の珍妙な姿など覚えていない、いや覚えていないということにしたい、結局、思い出を黒歴史にしてしまうのは自分自身だ。

黒歴史改め、黄金期絶頂の私は、ハマっているブランドが初売りをやり、さらに福袋も売ると聞いて、新年早々、現場に馳せ参じたのである。

しかし、盲点があった。

金がないのである。

もちろん、まったく金がないわけではない、ないのに来たなら、さすが8か月でメンをヘラって会社を辞めただけある、全然良くなってない、帰って寝るべきだ。

口座には金はあった、だが引き出していなかったのだ、現地で引き出せばいいやと思っていたのだ。

しかし、3時間車を走らせてきた場所は県外である、つまり自分の持っている地方銀行のカードで元旦から金を引き出せるATMなどなかったのだ。

元旦という、本来なら全国民が休んでいてしかるべき日に、当然のように金が引き出せると思っている、何という驕り高ぶりであろうか、こういう輩がいるから、休むべき時に休めない人が出てしまうのだ、ちくしょうお前はいつもそうだ、誰もお前を愛さない。

そんな15年前の自己批判は置いておいて、当時の私は悩んだ、財布には若干の現金があったが、初売りをエンジョイするには心もとない、何とか金を調達できないかと考えた。

そこで私が足を踏み入れたのは「消費者金融」だった。

安易に「若さって怖い」とは言いたくないが、マジで怖い。

銀行は閉まっていても、何故かここは開いている気がしたのだ。消費者金融とは大体、人と顔を合わせずに金を借りられるのが売りである。

その店舗も無人であったが、私はそこに置いてある用紙に自分の個人情報を書き込み始めた。

しかし、書いている途中で幸いにも「何をやっているんだ」と目が覚めた。ここで本当に金を借りていたら、満場一致の黒歴史である。

それに、借金カードというのは、1度作ったらそれを貯金と勘違いして使うようになるという、もしここで1度でも借りていたら、今頃私はどこかの法律事務所の世話になっていたかもしれない。

結局3時間も車を走らせて、手持ち分しか買い物ができなかったのだが、それはそれで満足していたような気がする。

いろんな意味であの時の情熱はもう戻らない。

ただ、消費者金融の門をくぐる可能性は、情熱の有無に限らず今後もある気はする。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。