今回のテーマは「正月の過ごし方」である。
現在の私にとって、正月よりもまず年末の方が大切である。「プロ野球戦力外通告クビを宣告された男たち」を見なければならないからだ。むしろこれを見ないと1年が終わらない、永遠に2016年のままだ。
知らない人のために説明すると、文字通り球団からクビを宣告されたプロ野球選手が、野球を続けるか辞めるか、続けたくても続けられるのか。その葛藤を追ったドキュメンター番組である。
この番組は、他人の不幸ソムリエである私が自信を持って「星三つです!」と言える番組だ。登場する野球選手はみな程よく困っており、それでいて暗すぎない。そして大体その選手の嫁が出てくるため「突然夫が無職になる女の顔」をじっくり鑑賞できる、これは「FXで有り金全部溶かした顔」に匹敵する大トロである。
そういう私も、出版社から数えきれない戦力外通告を受けて連載が終わっている身なので、豚がソーセージの作り方を見て喜んでいるようなものなのだが、そんな私であるからこそ、この番組から勇気や元気をもらえると言ってもいい。
毎年この番組を録画していたのだが、二年ぐらい前から、我が家のDVDはぶっ壊れており、録画ができなくなった。そもそも、私がテレビを見るのはこの戦力外通告と、年始にある芸能人格付けチェック、あとSASUKEぐらいなので、新しい録画機能付きDVDプレイヤーの購入には踏み切れず「リアルタイムで見て網膜に焼き付ける」ことしかできなくなったため、この年末の戦力外通告鑑賞はより神聖なものとなった。
そんな戦力外通告の面白さを知らない子どもの時でもやはり年末年始は楽しいものだった。もちろん学校は休みだし、なによりお年玉がある。
何せ月の小遣いが1,500円である、正月はまたとない大金を得られるビッグチャンスだ。だが私にはここでもハンデがあった「親戚が致命的に少ない」のだ。
別に一族が何かに滅ぼされたとかというわけではなく、単純に少ない。まず、母上は一人っ子であり、父上の実家は遥か遠い新潟であるため、正月父方の親戚と会うことはない。
よって最悪、お年玉をくれるのは、ババア殿、父上、母上、というマジで3人だった。そこにババア殿の妹君などが加わることもあったが、大体トータル二万ぐらいが関の山だった。
しかし、いくらもらおうとも、子どもがもらったお年玉を全額使えると言うことはほぼない。大体「預かる」とか「貯めとく」とか言う名目で親に巻き上げられるものだ。
では、その巻き上げた金を、うちの親は何に使っていたかというと「マジで私のために貯めていた」。このように、私の親は至って真面目なボケ殺しである。
そんな私も三十をとうに過ぎ、お年玉をくれる人は誰もいなくなった、皆遠慮しているのだろうか、だとしたら気遣いは無用である。
しかし、くれる人はいなくなったと言うのに、今度はあげる子どもが現れるようになったのだ、全くバランスが取れていない。あげる方になって初めてわかることだが、お年玉というのはすごいシステムだ。正月というだけで、時として他人の子供に現ナマをあげなくてはならない。
一体どこのクソエンジニアがプログラムを組んでこんなクソシステムができたのか「このあらいを作ったのは誰か」と追及する時の海原雄山なみに元凶を突き止めたい心境だ。
もちろん、子どものころはそんなこと考えもせず、当たり前のようにお年玉をもらい、感謝してたかすらも怪しい。子どもは、親や大人がしてくれることを当然のように甘受していたが、大人になると「あれは相当嫌々やってたんだな」ということがわかる。
しかし当時、私にお年玉を与えた大人は別に、今奥歯に苦虫が挟まっています、という顔はしていなかった。その嫌々を顔に出さないのも大人というものなのだろう。
ここで一つ謝っておかなければならないことがある。いかにも「お年玉をあげる側になった」ようなことを書いたが、あれは嘘だ。
実はいうと、私はまだお年玉をあげたことがない、夫側には、甥と姪が総勢5人おり、子孫繁栄しているのだが、彼らへのお年玉は夫が出している、逆にカレー沢サイドは、私には子供はいないし、兄も未婚という絶滅の一途をたどっており、今でも私が一番若い。
私がイマイチ自立心に欠け、大人になり切れないのはこの「親戚間では永遠の末っ子」みたいなポジションが未だに続いているからかもしれない。なので、たまに夫側の甥や姪に会うと、大人として子供にどう接していいのか全然わからない。
気を抜くと、4歳の甥に対し敬語でしゃべってしまいそうな状態だ。
<作者プロフィール>
カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。
デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全三巻発売中。