今回のテーマは「日課」である。
無職になってから早4か月、当初はとんでもなく堕落するものと予想されたが、意外なことに毎日朝起きて夜寝るという規則正しい堕落をしている。

まず起床時間だが、夫が6時過ぎに起きるので私も一緒に起きる、夫の朝ゲキ強ぶりは目を見張るものがある。未だかつて夫が私より後に起きたところは見たことがないし、むしろ夫が起きるから私も朝が来たことに気付いて起きるのだ。
もし夫が朝死んでたら、私はそのまま昼まで寝ると思う。

その後、夫の弁当と朝食作り、洗濯物を干したりなどするのだが、問題はその後である。正直それらのことはそんなに時間がかからない、朝やるべきことが終わった後、夫が出社するまでゆうに1時間はあるのだ。

その1時間、二度寝をブチかますのを我慢できない。
二度寝自体は悪いと思っていない、むしろ朝に好きなだけ寝ないのなら貴様はなんのために固定給と社会保険、厚生年金を失ったんだ、という話だ。すべてを犠牲にして得た唯一の物と言ってもいい。

しかし、逆に考えて、今から会社に行こうかという時に、配偶者が布団に戻っていったらどう思うだろうか、その二度寝をエターナル寝にしてやろうかと思うだろう。

せめて、夫が家を出るまでは起きておくべきだ、せめて、まぶたと額に目を書いて突っ立っておくぐらいすべきだ、とはわかっている。

だがこの1時間が耐えられないのである。

おそらく6時半から7時半というのは、人間が一番寝なきゃいけない時間に違いない、この時間帯に1分起きているごとに1年寿命が縮むのを感じる。もはや寝ざるを得ない。

気付くと、会社に行く支度をしている夫を残して、予言を終えた老亀のように布団に戻ってしまう。

むしろ夫は、出社まで1時間もあって何をするというのか。
朝の1時間といったら、淫夢を3本立てで見られるぐらい上質な眠りを約束された時間である。

夫がその1時間で何をしているかは、寝ているので正直よくわからないが、たまに「フローリングを掃除するコロコロ」の音が聞こえてきたりするので「掃除」とかしているのだろう。会社に行くというブルーに「掃除」というブルーをぶつけて相殺しているのだろうか。

夫も私と同じく「じっとしていられない性分」だ。2人で出かけても、私が2秒ほど空の青さに気を取られた隙に夫は姿を消している。

しかし、夫は「じっとしてられないから掃除しよう」と思うのに対し、私は「じっとしてられないからティッシュを細かくちぎってそこら辺に撒こう」と思うタイプなのだ。

じっとしてられないタイプにも、有益なことをしようとする奴と、無益を極めようとする奴がいるのである。

そんなわけで、毎朝オフトゥンの中で夫を見送るのが日課になっている、閑静な住宅街の早朝に殺人事件が起きる日も遠くない。

しかし、そのまま昼まで寝るわけではない、8時半には起きる。
普通に「朝起きている」の部類だと思うが、何せ田舎というのはすべてが「早く初めて早く終わる」ので「8時半始業(8時に朝礼が始まる)」という会社も珍しくない。

「8時半」というのは、起床時間としては「すべてを諦める時間」なのである。

それから先は、今まで1,2時間でやっていた仕事をサガミオリジナルレベルまで薄く引き伸ばして行い、気付いたら夜になっているので、あとは成果に比べてデカすぎる徒労感を抱き枕代わりにして寝る。

これを毎日、何のイレギュラーもなく行っている。「マインスイーパの興が乗りすぎて、午前2時まで起きてしまった」という日もなければ、逆に「昼まで寝てしまったことはわかるが、まぶたが目ヤニで溶接されているので正確には何時かわからん」という日もなく。柳沢教授の如く時間厳守で堕落している。

もうひとつ日課があるとすれば「毎日1時間ステッパーを踏む」だ。
そのステッパーは数年前にダイエット目的で買って放置されていたものである、無職になったのを機に「新しいのを買おう」とならなかったのは目覚ましい成長だ。

しかし、この日課は運動のためというよりも「1時間ステッパーを踏んだのであとは1ミリも動かなくていい」ということにするためにやっている感がある。
事実、これ以外はほとんど動かない。

だが、その1時間の運動も誰かに課せられたわけではない、ただ自分が気分よく堕落するためにやっていることだ。こちらも、家を空ける時以外は毎日欠かさずやっている。

意外と自分はストイックなんじゃないかと思う。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。