今回のテーマは「カフェ」である。
先日、「カレー沢コラボカフェ」なるものを、渋谷という親の仇みたいな土地で一週間ほどやったのだが、それを経緯から説明すると大河になってしまうので、ここでその話はやめておく。

ただ「コラボカフェ」はやってみたかったので、実現できて本当に良かった。

しかし、「コラボカフェやりてえ」と、そういう鳴き声なのかというぐらい言っていた割に、私はカフェーというものにあまり行かない。

もっと言うなら外食自体ほとんど行かないし、さらに言うなら人間のいるところに行かない。

特に物を食うとき、他の人間というのは邪魔でしかない、何故なら周りに人がいる状態だと、椅子の上に体育座りしてペペロソチーノをすすったりできないからだ。

人前で飯を食う、というのは「最低でも服を着ていなければいけない」ということだ。
「これ以外楽しみがない」と言っても過言ではない「食事」という行為にまでそんな「縛り」を入れてしまうのは、自由じゃないし、救われてもない。

よって私は、飯というものは自分の家で、1人で、暴虐の限りを尽くしながら食いたいのだ。

食い終わった跡がイヤイヤ期の2歳児が大暴れしたみたいになっていることもあるが、自分の家だし、自分で片づければいいだけの話だ。

それを繰り返した結果、床が腐るという事態にもなったが、それでも自分の家だからいいのである。
これが、人様の飲食店となるとそうはいかないし、オシャレなカフェーとなると尚更だ。

さらに私は、カフェーで何をしたらいいかがわからぬ。
牛丼屋とかなら、主な目的は空腹を満たすことだから、一心不乱に食って出ればいいとわかるのだが、おそらくカフェーはそういうテーマで入る場所ではないような気がする。

今だったら、カフェーのオシャレフードを写真に撮ってインスタにあげる、という目的もあるかもしれないが、私はインスタをしてないし、写真を撮ろうとしたときにはもう皿に飯がない、という現象が3回に2回は起こる。

インスタをする人は、目の前に美味そうな飯があっても飛びかかるのではなく、まず写真を何枚も撮るのだから、理性の塊すぎて感服する。

また、カフェーというのは、パンケーキをカフェモカで流し込んで3分でガラガラガラッと出ていく場所ではないだろうし、おそらく引き戸でもないだろう。

カフェーとは、ゆっくりするところだと思うのだ。

この「ゆっくり」というのが至難の業なのだ、私はとにかく落ち着きがないので、じっとさせようと思ったら100キロぐらい歩かせるか、水に浸けるなどして「動けない状態」にするしかない。

今ならスマホがあるので、カフェーでも退屈することはないかもしれないが、スマホでやることと言ったらもちろんソシャゲの周回である。

だったら家でよくないか、となってしまう。

しかも、ソシャゲとてロード時間であるとかの「間」が発生する、その間どうしたらいいのかわからない、これが家だったら、その間パソコンで10回はエゴサができる。

正直、わざわざ服まで着てカフェーに行っても、家より不自由なだけなのである。
カフェーが悪いわけではない、家が最高すぎるのだ。

そのため、1人で「今日はカフェーにでも行ってみるか」などと思うことはまずないのだが、仕事の打ち合わせでカフェーに行くことも年に2回ぐらいはある。

しかし、私はコミュ障である、誰と会っても大体話が盛り上がらない。
コミュ障にとって辛いのは「沈黙」だ、相手が一方的に喋ってくれるほうがまだ助かる、コミュ障は自分が喋らない上に、人の話を聞いてないことが多いのだが、沈黙が続くと上の空にもなりづらい。

よって、相手にどうでもいい話をさせておいて、自分は思う存分上の空になるのがベストな打ち合わせなのだ。

編集者というのはコミュ力モンスターなので、大体ベストな打ち合わせが出来るのだが、たまに、何故か私の意見を聞こうとする奴がいる、何故ないものを出させようとするのか疑問だ。

そういうときは「沈黙」が発生してしまう。

そんなときに何をしてしまうかというと、無駄に飲み物を飲んでしまう、
じっとできないので、とりあえず目の前にある物をいじってしまうのだ、それがカフェーだと飲み物なので、自ずとそれを大量に飲むことになる。

その結果、「ろくに喋らない上にメチャクチャトイレに行く打ち合わせ」になってしまうのだ。
特にカフェーだと、コーヒーを選んでしまいがちなので利尿作用で余計に行ってしまう。

自分はカフェーとは相性が悪いと思う、部屋で飲む水道水(ロック)が最高だ。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。