今回のテーマは「宇宙」である。
担当がテーマ考えるの面倒くせえ状態なのが手に取るようにわかる、人間やたらスケールのデカいことを言い出したら思考停止のサインだ。

とても、いち無職が語っていいようなスケールのテーマとは思えないが、よく考えれば地球も宇宙の一部であり、そういった意味では地球人も宇宙人ということになる。

つまり私は無職の宇宙人だ。
弱そうである。こう考えると地球侵略にくる宇宙人というのは、多分地元で居場所がない連中であり「地球ならワンチャンある」と思ってやってきている、無目的でとりあえず東京に行く奴と何ら変わりないのかもしれない。

だが、地球にもセガールとか、ブルース・ウィリスとかステイサムがいるので、結局奴らは地球でも輝けないまま異星で一生を終えるのである。

その三者が今まで宇宙人と戦ったことがあるかは知らないが、戦ったらおそらく勝てるだろう。
逆に言えば、セガールたちは自ら火星とかに攻め入っても勝てる。

このように、大体勝てる奴はどこ行っても勝てるし、負ける奴は負けるのだが、だからと言って「どうせ、どこに行ってもダメだからここにいる」というのも良くない。

地球が地獄ならとりあえず火星に行ってみることも必要なのだ、もちろん火星も地獄という可能性も大いにあるが、それでも「地球よりマシな地獄」だったなら行った価値はある。

私も典型的、どこ行っても何やってもダメな奴であり、映画開始3分でステイサムにぶん殴られて死ぬタイプである。しかし、場所を転々としたおかげで、というか、そこにいられなくなって強制撤去されたケースがほとんどなのだが、それでも河岸を変え続けた結果、今の「無職」という天職と、「自分の部屋」という居場所を見つけることが出来たのだ。

もちろんこの天職は「職なのに続けるために金がいる」というデメリットがあるため、いつまで続けられるかはわからないが、正直ここまで向いている仕事にはもう出会えないと思うので、出来るだけ継続できるよう努力していきたい。

このように私が何かに対して「頑張って続けたい」などと思うのは生まれて初めてである。

こんな運命の出会いも、同じ場所に留まり続けたら、なかったかもしれないのだ。
しかし、私のように同じ場所に居座り続ける能力さえない場合は、強制的に場所を移動するしかなくなるので良いのだが、そこそこ出来る人ほど「今の仕事にも慣れてきているし」「一からやり直すのは不安だ」と身動きが取りづらくなるものである。

もちろん、一つのことを続けるというのも才能だし、素晴らしいことなのだが「ここ以外に私の居場所はない」と思って地獄に居座り続けるのは問題である、地獄に席なんかなくて良いのだ。

しかし世の中には他人にそういう呪いをかけようとする人もいる。
辞意を伝えたら「ここでダメならお前はどこに行っても通用しない」などと言ってくる奴である、そういう奴がいる時点で辞める理由として5億点満点なのだが、弱っている時にそう言われると「そうかも」と思ってしまうものである。

もちろん私のように、マジでどこ行っても通用しないケースもあるのだが、それは他人が決めることではない、そんな奴の言うことを聞いていたら、通用するかしないか試すことすらできないのだ。

どうせ通用しないなら、トライしてみて「マジで通用しなかった」と爆笑した方がいいだろう、またそこで通用しなくても、場所を変え続ければ最終的に「自分の部屋」という「俺がルール」の空間に到達できるのだから、どう考えても向いていない所からはさっさと出て行った方が良い。

よって、将来、一般人が宇宙に進出できる時代がきたとしても、絶対「地球でダメだったヤツが宇宙で通用するはずない」と言ってくる奴はいるだろう。

しかし「火星人から見れば美人」という可能性がある時点で、少なくとも地球よりは望みがある。

先日の某医大事件で「もう才のある女は海外行った方が早い」という意見も散見されたように、環境に自分を合わせたり、環境を改善したりしようとするより「場所を変えた方が早い」というケースは多く存在するのである。

もちろん、もっと自分に合った場所があると飛び回るより、一つの場所で粘った方が良い結果が出ることもあるので、自分探しの旅に出るのと、今の場所で自分を見つけるのと、どっちが正しいとは言い切れない。

そんな自分でも言い切れないことを他人が「お前の場所はここしかない」と言い切ること自体がおかしいのである。

これからどんどん選択肢も広がるだろうし、それこそ宇宙もその一つになるかもしれない、今のうちに月の土地を買っておいて、部屋を作り、そこから出ない、というのもありかもしれない。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。