今回のテーマは「路面電車」である。路面電車が走っている県などメチャクチャ限られているであろうに、このテーマは一体何なのか。

しかも私がその数少ない県在住かと言うとそんなことは全然ない、下手をしたら「一度も乗ったことがない路面電車への思いを2,000字綴る」という事態になりかねない、これは事件だ。

だが、幸いにも路面電車には乗ったことがある、我が県にはないが、隣県の広島にはあるからだ。

しかし、隣と言ってもそう頻繁に行くわけでもない、そもそも部屋からも滅多に出ないのだ、となりの県など南アフリカに等しい。よって前に広島へ行ったのも数年前になる。それも仕事でだ。

某雑誌の企画で「Perfume特集」があり、Perfumeの出身地広島を取材し、漫画にするという仕事が私に来たのだ。

清々しいほどに「一番近い奴」という理由で選ばれたとしか思えない。確かにホテル手配とかを考えたら、日帰りで取材出来る奴を呼ぶのが一番安くすむ。

そんな激安作家が、あの超有名ユニットPerfumeの仕事なんかして良いのか、と思うかもしれないが、Perfumeが有名になったのは東京に来てからなので、広島時代はほぼ無名なのである。

よって、広島には言うほどPerfumeの軌跡は残っていない、あったとしても「Perfumeがライブのフライヤーを300枚配って3人しか来なかったという伝説の場所」など、激渋エピソードばかりだ、ある意味私にふさわしい仕事なのだ。

それに「デビューした瞬間から売れた」みたいな話を延々取材させられていたら、私は路面電車を人身事故的な意味で止めたと思うので、これぐらい塩が効いた話ばかりで逆に良かったのだと思う。

そんなPerfumeの軌跡を追うというより、Perfumeが落としたパン屑の砂をよく落として食う、みたいな取材だったのだが、Perfumeの出身校である「広島アクターズスクール」の取材は面白かった。

実際に、少年少女たちがダンスや歌のレッスンをしているところを見せてもらったのだが、「全員スクールカースト上位」という感じで実に眩しかった。

習い事は数あれど、その中で「アクターズスクール」を選ぶご家庭とは一体どういったところなのか、唯一許してもらった習い事が「そろばん」の小生には皆目見当もつかない。

アクターズスクールの授業料も見せてもらったところ、べらぼうに高いわけでもないが、安いわけでもない、それなりに上流家庭のお子様たちが揃っているのだろう、

もしそうでない家が子供に一攫千金を夢見て無理して通わせているのであれば辛すぎるので、ぜひそうあってほしい。

しかしアクターズスクール内にもカーストはあり、出来が良い子は上級グループに入れたりと、在校中からすでに実力社会が始まっているという。

将来、芸能界に入るかどうかは別として、小中学生からこういった施設に通わされたら、すごくメンタルが強くなるか、二度と立ち上がれなくなるかの二択な気がしてならない、通わされたのがそろばんで本当に良かった。

そのせいか、レッスンはどの子もすごく真面目で非常に見応えがあったし、突如闖入してきた我々にもみんな礼儀正しく挨拶をしてくれた、

普通なら通報か催涙スプレーが火を噴くところである、そういうところも教育されているのだろう。

子どもの精神年齢を高くしたいなら、アクターズスクールに入れてみるのもいいかもしれない。

だが、我々が最初に見たのは女子生徒のレッスンで、その後男子生徒のレッスンを見たのだが、女子の時とは一転してずいぶん「緩い」。

先生も「男子の方は割と和気藹々としている」と言っていた、それは「女子は殺伐としている」と言っているようなものだが、確かに初見でも「男女に気合いの差」があるのは見て取れた。

アクターズスクールだけの特色なのかもしれないが、やはり「女の戦は男より早く始まる」という印象だ。

高校生ぐらいになると、能力ではなく、容姿やコミュ力と言った所謂「イケてる」人間が目立つようになるが、中学校ぐらいまでは、足が速いというだけでモテたりする世界だし、当然アクターズスクールに通い、ダンスや歌が出来る、というのも一目置かれる要素になるだろう。

しかし、私が中学生の時アクターズスクールに通っていたら、おそらくそれが負の方向へ行っていたと思う。

何せ今で言う「陰キャ」である、それがアクターズスクールに通っているというのは、ジャイアン級の理不尽さで言えば「カレー沢のくせに生意気」であり、滑稽ですらあると思う。また、そのスクールに同じクラスのイケてる女子でもいたら目も当てられない。

それでも、ダンスや歌が好きならいいのだが、アクターズスクールにも「親の意向」で通っている子がいないわけではないだろう。

習い事というのは、子どもの能力を伸ばすが、さらに凹ませることもあるのだ、少なくとも子ども自身が興味を持っていることをやらせるべきだろう。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。