年金や社会保険、労働法についての専門家である「社会保険労務士(社労士)」。社員を雇用する立場の企業にとっては、欠かせない存在です。社労士の業務内容は幅広く、また、行政機関に提出する特定の書類作成や手続きの代行には独占業務もあります。
人気の高い社労士ですが、その仕事内容とは具体的にどのようなものなのでしょうか。資格取得にはどの程度勉強が必要なのか、また、社労士としての働き方についてもまとめてみました。
社労士の仕事内容とは
社労士は、「社会保険労務士法」という法律に基づいた国家資格者です。企業の成長には「ヒト・モノ・カネ・情報」の4大要素が必要ですが、社労士は、そのうちの「ヒト」つまり人材に関して、人事や労務管理の面から精通する貴重な存在と言えます。
社労士の業務の中には、就業規則の作成や社会保険に関する書類の手続き代行といった業務がありますが、これらは社労士にしか認められていません。そのほか、企業に対して人事・労務管理のアドバイスを行うコンサルティング業務も社労士の仕事の一つです。社労士の主な仕事内容をまとめると、以下のようなものがあります。
労働・社会保険に関する手続き
企業で働く従業員の労働・社会保険(雇用保険、健康保険、厚生年金保険など)に関する書類を作成し、行政官庁(労働基準監督署、公共職業安定所、年金事務所など)に提出する手続きの代行は、社労士の重要な業務です。これらの労働・社会保険に適切に加入していないと、従業員が病気やケガになったり、失業や労災などの事態に陥ったりしたとき、必要な給付が受けられず不利益を被る恐れがあるからです。従業員が働きやすい職場作りだけでなく、コンプライアンス(法令順守)の観点からも欠かせません。
労働・社会保険に関する特定の書類作成や提出の代行は、社労士の「1号業務」と言い、社労士の独占業務です。そのほか、国からの各種助成金などの申請、活用の相談なども請け負います。
帳簿書類等の作成
就業規則、労働者名簿、賃金台帳など、法律に基づいて会社で備えておかなければならない帳簿書類等の作成を行うのも社労士の仕事です。これらは、社労士の「2号業務」で、こちらも独占業務となっています。
そのほか、労働環境に配慮した労使協定(36協定)の作成やその見直しの支援も行います。
人事・労務管理の相談や指導
人事・労務管理の観点から企業の相談に応じ、適切なアドバイスや指導を行うコンサルティング業務は社労士の「3号業務」です。優秀な人材の採用から、適切な賃金制度や労働時間の管理まで、それぞれの企業の実情に合わせて提案をします。従業員が生き生きと働き、良い人材が育つ職場作りのために、重要な業務です。
年金に関する相談業務
社労士は、唯一、公的年金に関する国家資格者として認められています。年金の受給資格や加入期間などを確認し、「いつからいくら年金を受け取ることができるのか」を回答する業務も社労士の仕事の一つです。たとえば、「街角の年金相談センター」では、日本年金機構からの委託を受け、社労士による年金の相談業務を行っています。
社労士の難易度はどのくらい?
独占業務もあり、将来が有望視される社労士の資格。取得するのは、どのくらい難しいのでしょうか。まず、社労士の受験資格は、学歴については「短期大学・高専卒以上」とされています。誰でも受けられる試験ではないうえ、毎年おおよそ4万人前後いる受験生のうち、合格するのは5~10%程度しかいません。ちなみに、2018年度の合格率は6.3%でした。
他の資格と比較すると、中小企業診断士や行政書士などと同程度の難易度となります。一般的には、試験範囲をしっかり勉強していれば、1年程度の学習期間で合格を目指せるようです。なお、社労士の試験は30代や40代の受験生が多く、仕事を続けながら受験する社会人も大勢います。女性からの人気も高く、合格者の約3割は女性と、国家資格の中でも特に高い割合となっています。
ちなみに、社労士の試験科目を大まかに分けると、「労働保険」と「社会保険」の2つのジャンルになります。出題形式は、選択式と択一式です。社労士試験に合格するには、各科目で基準点をクリアしなければならないため、苦手科目を作らずバランスよく勉強する必要がありそうです。
社労士の働き方とは
それでは、社労士はその資格を生かして、どのように働くことができるのでしょうか。社労士の働き方には、主に2通りあります。一つ目は、開業社労士として事務所を開き、独占業務や人事コンサルティングを行う方法です。もう一つは、勤務社労士として、社内の人事や総務で働いたり、社労士事務所などに勤めたりする方法です。
いずれにしても、社労士にしかできない業務が定められているうえ、社労士の数は企業の数に対して不足しており、需要の高い資格と言えそうです。また、企業の労働問題に対応するため、あらかじめ社労士を社内に置きたいと考える経営者も多く、就職や転職の際にも社労士資格が有利に働くことがあるでしょう。
魅力の多い社労士の仕事
社労士の知識は、従業員が企業に雇用されて退職するまでの間に必要な社会保険、年金の手続きを網羅しています。社労士の仕事上必須になるだけでなく、自身のライフプランにも生かすことができるでしょう。また、労働環境の向上に社労士の力は欠かせません。よりよい職場作りの役に立ちたいという人は、社労士を目指してみてはいかがでしょうか。
武藤貴子
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント
会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中。
イラスト=竹村おひたし