流行に左右されず、いつの時代も人気の資格である「宅地建物取引士(宅建士)」。宅建士の資格があると、不動産業界だけでなく、幅広い業界への就職や転職で有利になると言われています。

宅建士は、不動産に関する法律知識を持った専門家として国家資格にも認定されていますが、具体的にはどのような資格で、合格するにはどのくらいの勉強が必要なのでしょうか。また、宅建士の資格を活かせる業界などについてもまとめてみました。

  • 人気で需要も高い「宅地建物取引士」とは? 難易度や仕事内容について解説

    2014年まで「宅地建物取引士」は「宅地建物取引主任者」でした

宅地建物取引士とは

宅建士は、「宅地建物取引業者」に必須の存在です。宅地建物取引業者とは、いわゆる不動産会社のことですが、不動産業を営む事務所では、従業員5人につき1人以上の割合で宅建士を置くことが「宅地建物取引業法」という法律で義務付けられているからです。

不動産の売買や賃貸を行うには、その物件について事前に知っておくべき内容を書面に表さなければなりません(重要事項の書面)。さらに、この書面に基づき、お客様に物件についての充分な説明を行うことが不可欠となります。

ただし、不動産の情報はとても複雑です。不動産会社がむやみに契約を結んでしまえば、お客様が予想外の損害を被ることにもなりかねません。こうした事態を避けるため、不動産の法律知識を持った宅建士が、お客様に重要事項を説明することになっているのです。この重要事項をお客様に説明できるのは、宅建士だけと決められています。

このように、有資格者でないと行えない業務が定められているため、不動産業界で働くなら宅建士はぜひ取得しておきたいものです。それ以上に、入社後に宅建研修が行われ、資格を取得するまで参加が義務付けられる会社もあるくらいですので、勤務先によっては必須の資格と言えるでしょう。

また、宅建士を取ると、毎月の給与に資格手当が加算されたり、資格取得祝い金がもらえたりすることもあります。資格手当は毎月1.5~5万円程度、祝い金は5~30万円程度が相場です。資格があるのとないのとでは給与に大きな差が生じますので、取得のモチベーションにつながりそうですね。

試験合格にはどのくらい勉強が必要?

不動産業界はもちろん、ほかの業界への就職・転職の際にも強いアドバンテージとなる宅建士の資格。

宅建試験(宅建士になるための資格試験)は、受験するための経歴や学歴等の制限が一切ないため、幅広い年代や業界の人が挑戦しています。ただし、宅建試験は簡単とは言えず、合格率は例年15~17%程度と低いことで知られています。

宅建試験は、2時間で50問を解く、全問マークシートの四肢択一方式です。試験科目は、重要事項の説明や37条書面(いわゆる契約書)に関する「宅建業法」、民法や借地借家法、不動産登記法などが出題される「民法等」、国土利用計画法、都市計画法、建築基準法、農地法などが出題される「法令上の制限」、税金や土地、建物など幅広く出題される「税金その他」の4科目となります。

試験をクリアするには、50点満点のうち31~36点程度が合格ライン。記述式の問題がないことから比較的回答しやすい試験となっていますが、法律に関しての理解や暗記が中心の内容となるため、繰り返しの勉強が必要でしょう。

学習期間は、3~6カ月ほどという人が多いよう。働きながらでも平日は2~3時間程度、休日はそれ以上の勉強時間を確保したいところです。なお、宅建士は他の法律系、不動産系、金融系資格とも相性が良いため、ダブルライセンスを狙ったり、宅建士からより難解な資格へステップアップしたりする方も大勢います。

まずは宅建試験の範囲をしっかりと身に着けておきたいですね。

宅建士の資格を仕事に活かすには

宅建試験は、実は、不動産業と直接関係のない業界の受験者が約8割にものぼるそうです。その理由として、不動産業界のみならず、金融機関、建築会社、保険会社、小売業、外食産業のほか、総合商社や会計事務所、一般企業などその資格を活かす業界や企業が多数あるためです。

たとえば、金融機関では住宅資金の融資や担保として不動産を扱うことがありますし、建築会社では、自社で建てた物件を販売する際に、宅建士が不可欠となります。また、小売業や外食産業では店舗立地が売り上げに直結するため、宅建士の資格で得られる不動産の知識が必要です。もちろん、不動産会社であれば、昇給などのキャリアアップに直結するでしょう。

このように、宅建士はさまざまな業界で需要がありますので、仕事の幅を広げるには強い武器になります。とくに不動産業界では、宅建士を持っていれば未経験者であっても転職が可能となるケースが珍しくありません。

そのため、若い世代以上に、40代、50代以降でセカンドキャリアのために取得する人も多くいるようです。

自分のためにもなる宅建士の知識

合格は簡単ではないものの、一度取得してしまえば、メリットの大きい宅建士の資格。さらに、自分自身のマイホーム購入時や個人資産の管理、運用に役立てるために資格を取得する人もいます。宅建士の知識を仕事にもプライベートにも存分に活かすことができれば、大変な受験勉強も大きな意味があると思えるかもしれませんね

武藤貴子

ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント

会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中。

イラスト=竹村おひたし