筆者は2019年11月、連休を利用してチェコとポーランドを訪れた。今回はその1回目として、チェコの首都・プラハを走る路面電車の楽しみ方を紹介したい。プラハは人口約130万人、中欧を代表する都市であり、市内を走る路面電車網は営業距離140km以上、車両数は900両以上にも及ぶ。

  • プラハの公共交通機関の主力であるプラハ市電(写真:マイナビニュース)

    プラハの公共交通機関の主力であるプラハ市電

プラハの地下鉄は3路線しかないこともあり、路面電車が主要な公共交通機関となっている。観光においても、路面電車に乗る機会は多いだろう。プラハ中心部の地図を見ると、路面電車が文字通り網の目のように走っていることがわかる。

プラハ市電の歴史は古く、馬車鉄道として開業したのは1875(明治8)年のこと。電化されたのは1891(明治24)年だ。以降、戦争や地下鉄開業による路線廃止はあったものの、現在に至るまで順調に路線網を伸ばしてきた。

■登場時のT3形「タトラカー」に乗車できる23系統

チェコの路面電車の特徴として、米国の技術を活用しつつ、国内産の車両を他国に輸出してきた点が挙げられる。

第二次世界大戦後、チェコのCKDタトラ社は米国とライセンス生産に関する契約を結び、最先端の路面電車「PCCカー」の技術を取り入れた。PCCカーの技術をベースに製造された路面電車が、名車「タトラカー」である。ちなみに、PCCカーは1930年代に米国で登場し、高加減速と低騒音を実現した路面電車としてあまりにも有名だ。

「タトラカー」で最も有名な車両が、丸型の車体を持つT3形。1960年から20年以上にわたって製造されたT3形は、当時のチェコスロバキアでの活躍にとどまらず、ソビエト連邦や東ドイツをはじめとする共産主義国にも輸出された。日本では土佐電気鉄道(現・とさでん交通)に譲渡されたが、本格的な営業運転に就くことなく廃車された。

  • レトロな姿のT3形「タトラカー」が使われる23系統

  • T3形の最後尾に運転台は設置されていない

プラハ市電に在籍するほとんどのT3形が、前面方向幕のLED化や中央部の低床化など、なにかしらの近代化改造を受けた。ただし、クラーロフカとズヴォナジュカを結ぶ23系統では、いまも登場時の姿をとどめるT3形に乗車可能だ。平日・土曜日ダイヤにおける23系統は30分間隔で運転されている。

外観は愛らしい丸型の車体と大きなパンタグラフが特徴。最後尾に運転台はなく、ループ線を使って方向転換する。23系統に使われるT3形は系統番号を記した看板を使用している。他の車両では使用されていないドア横の小さな系統板もあった。

  • プラスチックのシートが並ぶT3形の車内

  • 車内にある系統案内を記した看板

  • 車内にはT3形に関する解説文が掲示されている

  • 車内中央部には非接触型クレジットカード対応の自動券売機が設置されている

プラスチック製のクロスシートが並ぶ車内も登場時のまま。座席を改造したT3形も多いため、プラスチックむき出しの座席はむしろ新鮮に映る。車内の広告枠には、T3形を説明する解説書が掲載されている。同車には冷房装置はなく、夏期になると上部の小窓から風を取り込む必要がある。一方、車内中央部には非接触型(コンタクトレス)クレジットカード対応の自動券売機が設置されていた。

T3形はカルダン駆動のため、日本にある旧型の路面電車のような「グォーン」という吊掛け駆動の音は聞こえない。原則として、軌道内は自動車の侵入が禁じられているため、街の中心部であってもスムーズに走る。23系統は地下鉄C号線と接続するイーペーパヴロヴァーで多くの地元客を乗せると、国民劇場を通り、作曲家スメタナで有名なヴルタヴァ川を渡る。筆者はマロストランスケー・ナームニェスティーで下車した。

■日本では珍しいガントレット(単複線)を見る

23系統が通るマロストランスカー・ナームニェスティー~マロストランスカー間には、日本であまり見られない「ガントレット」がある。

  • 複数の線路が重なり合っているガントレット

  • ガントレット付近では電車の行き違いシーンが見られる

ガントレットは「単複線」という意味で、2つの線路が少しずれた形で重なり合っている。トンネル内は事実上「単線」になっており、マロストランスカー方では電車のすれ違い待ちも見られる。ガントレットを通過するのは22系統と23系統、レトロトラム41系統など。乗車時はよほど意識しないとガントレットには気づかない。

■第二次世界大戦以前の車両が走るレトロトラム41系統

ガントレットを通過する区間もあるレトロトラム41系統は、一般観光客にもおすすめしたい路線。プラハ市交通博物館横にあるヴォゾヴナ・ストジェショヴィツェ~ホレショヴィツェ間で運行される観光電車となっている。運行は土休日のみ、冬期は運休する。料金は35コルナだが、24時間乗車券は利用できない。

  • 第二次世界大戦以前に登場した2172号

  • 車内の床は木製でレトロな雰囲気が漂う

  • 古めかしい制服を着た女性車掌がパンチで切符を切る

  • 発車時は紐を引っ張って鈴を鳴らす

筆者が乗車した車両は、1920年代末期に製造された2軸単車の2172号だった。車内は床やいすが木製になっており、レトロな雰囲気が伝わってくる。運転士の他に車掌が乗務し、第二次世界大戦前に使用されたと思われる制服を着用。切符は車掌から購入し、昔ながらのパンチで切符を切る。

車掌は発車合図を送る際、吊り革の上部にある紐を引っ張って鈴を鳴らす。もちろん車内自動放送などなく、停留所に近づくと車掌が声を張り上げ、到着する停留所名を伝えていた。

  • 扉は常時開放の状態だった

  • ヴルタヴァ川をわたる41系統。右手には国民劇場が見える

  • ホレショヴィツェに到着した41系統

電車が走り始めると、「グォーン」という吊掛け音も相まって懐かしい気分になるが、2軸単車特有の揺れのせいもあり、乗り心地は決して快適とは言えない。また、車内の扉が開放されていたのも興味深かった。41系統は国民劇場やヴァーツラフ広場などの主要観光地を経由するので、観光の足としても十分に利用できる。

最後に、プラハ市電を楽しむコツをお伝えしたい。それは非接触型クレジットカードを使い、路面電車の他に地下鉄やバスにも乗車できる24時間乗車券を購入することだ。先述した通り、車内に発券機は設置されているものの、非接触型クレジットカードしか利用できない。旅行前にクレジットカード発行会社に連絡し、非接触クレジットカードに切り替えておくことをおすすめする。