こんにちは。写真家の桐島ナオです。この連載では猫を一眼デジタルカメラで撮影する際のコツや撮影時の設定、レンズ選びなどを含めてご紹介します。今回は読者さまからの質問「絞り優先モードで、動いている猫をブレないように撮影するには?」です。

まずはお悩み相談のメールのご紹介から!

「お恥ずかしい話ですが、家が少し散らかっています。もちろん、猫が自由に行動できるようにはしてますし、危ないものもきちんと猫の手が届かない場所に保管してあります。でも収納がへたっぴなので、猫を家で撮影すると、背景のゴチャゴチャ感がきれいに写ってしまいます。

ボカせばOKかなと思い、絞り優先モードでF値を小さくして撮影しているのですが……。絞り優先モードだとシャッタースピードが自在に変更できないので、猫が遊んでいるとブレブレになります。

ISO感度を6400にしても、猫じゃらしなどで遊ぶともうブレブレ……。光の量が足りないのはわかっていますが、いかんせん撮影できるのはいつも夜……。すごく困っています。どうすればいいでしょうか?」(原文ママ)

引き続き、読者さまからのお悩みにお答えしていきます。前回は夜間の撮影において「色」についてのお悩みでしたが今回は「背景のゴチャつき」と「ブレについて」の2つのお悩みです。

質問者さまのお写真はこちら。

「 F2.8 1/10 ISO1600 WB晴天  絞り優先モード」

「F3.0 1/40 ISO1600 WB晴天 絞り優先モード」

使用レンズは60mmマクロ。お部屋の中は少し暗いですね。背景をボカす為にF値を最小の2.8に設定し、絞り優先モードで撮影されています。

まずは背景ですが、普通のお家の中にあるものをボカすのはちょっと難しいですよね。広角レンズを使うと背景はあまりボケませんし、あまり望遠にしてしまうとお家の中では狭すぎます。また、遊んでいる所を撮るとどうしても全体が写ってしまいますね。

ここで、提案です。カメラ設定ではありませんが、お片づけが苦手な方は、撮影前に「お気に入りの布」で隠したいものを覆ってしまいましょう! カメラの電源を入れる前にお部屋の目立つ場所(目につくところ)を大きめの布でゆったりと覆ってあげます。それだけでも、ぐっと雰囲気が変わって来ますよ!

もしくは、カーテンや窓、ドアを背景に撮影する方法もあります。自由に動く猫を追いかけて撮影するスタイルだとちょっと難しいですが、猫じゃらしなどで遊びながら撮影する時はうまく誘導してあげると良いですね!

細かな設定をしていきます!

さて、撮影データをじっくりと見てみましょう。まずは撮影設定ですが「絞り優先」で撮影されていますね。絞り優先は、背景をボカす事を大きな役目としています。F値という数字を撮影者が設定し、シャッタースピードをカメラがオートで考えるモードです。ISOはご自身で設定されていて、1600になっていますね。

1枚目のお写真はシャッタースピードが1/10、2枚目のお写真は1/40です。被写体の猫さんはそれほど激しく動いている感じがしませんが、ブレてしまっていますね。これではじゃらしで動いた時にはほとんど写っていないということが想定されます。

それでは、暗い場所でじゃらし撮影をした筆者の写真とデータを見てみましょう。

「F1.4 1/80 ISO6400 WB3300K マニュアルモード」

灯りは天井のアートライトと、丸く大きなスタンドライト。かなり暗めの状況で、ねそべっている猫が紐にじゃれています。かなり暗かった為、ピントはオートでは合わずファインダーも暗くて見えない為、マニュアルフォーカス(MF)にして背面液晶をライブビューにして手で合わせています。

ピントは目に合わせていますが、猫パンチをしている手はブレてしまっていますね。ここで注目して欲しいのはシャッタースピードです。(2番目にある数字です)。

筆者が撮影した写真は、1/80でブレてしまっています。では、「ブレないようにするにはどうしたらいいか?」という質問の答えは「もっと早いシャッタースピードにする!」です。

質問者さまの設定では、カメラが勝手にシャッタスピードを決めてしまっているので、自分で決める事が出来ませんでした。きっと「背景をボカしたいから絞り優先にして撮影しよう!」と思われたのだと思います。しかしそれでは、動きを止めるために必要なシャッタースピードを設定する事が出来ないのです。

実際に猫が止まって写るシャッタースピードはいくつ??

シャッタースピードがどれくらいの数字ならば、猫じゃらしで遊ぶ猫をブレずに撮影できるのでしょうか? 検証してみましょう。

「F5.0 1/500 ISO400 WB4350K色被り補正+5 マニュアルモード」

昼間の撮影ですが、この写真のシャッタースピードに注目してください。1/500です。ピント位置は目ですが、手元も紐もブレていませんね。

猫の動くスピードや被写体との距離感にもよりますが、一般的に、「動きの速いもの」の動きを止めるには1/500以上のシャッタースピードが必要です。

「F5.0 1/250 ISO400 WB4350K色被り補正+5 マニュアルモード」

シャッタースピードを1段遅くしてみました。被写体がブレてしまっているのが分かると思います。1/500では止まって写す事が出来ましたが、1/250では止まらなかった、ということが分かります。

夜の暗めの室内で1/500のシャッタースピードを設定することは、ほとんどの場合難しいです。さらに、絞り優先モードでは自分でシャッタースピードを決める事が出来ません。

質問者さまの環境と機材で「絞り優先オートで背景をボカして動きを止める!」ことは非常に難題ということがわかります。

ルールを決めてマニュアルモードを使ってみよう!

「F1.8 1/400 ISO3200 WB3950K色被り補正-7 マニュアルモード」

「絞り優先モードでは、シャッタースピードを決められないからブレてしまう。シャッタースピード優先モードでは、F値を決められないから背景がボケない」。

この矛盾をどうやって越えるか。答えは「ルールを決めるマニュアルモード」にチャレンジしてみる、です。

自分で「絞り値」「シャッタースピード」「ISO」を全て決めるマニュアルモードは、「難しい!」「プロが使うモード」と敬遠されがちですが、全てを同時に考える必要はありません。今回は「ルールを決めるマニュアルモード」をお教えします。

まず「F値を最小」に設定します。今回の質問者さまの場合は、F2.8です。次に「ISOを許容出来る範囲で大きな数字」に設定します。3200~6400程度でOKです。

最後に「露出計」を見てみましょう。メモリがたくさんあるものか、機種によってはプラスマイナスの数字が表示されます。背面液晶に出てくるものでも良いですし、ファインダーの中にシャッター半押しでも表示されます。

「シャッタースピードダイアル(ボタン)を動かすと露出計(赤枠内)のメモリが動きます」

F値は決めたまま、ISOも決めたままの状態で、カメラを被写体に向けて(ここが重要です)、シャッタースピードのみを自分で変えてみましょう。液晶画面を操作するとカメラが床を向いてしまうので、ご注意ください。必ず撮りたい被写体の方向を向けてください。

シャッタースピードを変えると露出計が動くので、まずは露出計の真ん中に合わせてください。それが「適正露出」。つまりオートと同じです。シャッタースピードだけを変えてみて、露出計をプラスの方へ動かしたりマイナスの方へしてみたりして、明るさとシャッタースピードの加減を変えてみてください。

そうすることで、自分でシャッタースピードを見る事が出来るので、被写体が止まるか、止まらないかが分かると思います!

カメラとレンズの組み合わせで出来る事と、出来ない事があります

「F1.4 1/80 ISO5000 WB3300K色被り補正-15 マニュアルモード」

一眼レフカメラもミラーレスカメラも、きちんと理解して使いこなせば、相応に応えてくれます。しかしながら、機能以上の事は出来ません。腕や知識ではカバーしきれない事もたくさんあります。

質問者さんのレンズの最小F値2.8と、カメラの最大ISO6400という設定では今の明るさのお部屋で「じゃらしで遊んでいる猫を止めて撮影すること」は設定上ほぼ出来ません。

では、撮れないのか!?というと、そうではありません。環境を変える事が出来ます。お部屋のライトはそのままに、明るいテーブルランプを2つほど。お部屋の真ん中か左右に離して置いてください。そうするだけで、ぐっと明るく撮影する事が出来ます。

「F1.8 1/30 ISO6400 WB3350K色被り補正-9 マニュアルモード」

写真撮影はカメラの設定だけでなく、被写体への配慮や環境づくりも含めた上での「撮影」です。カメラを知ることもとても大切ですが、是非お部屋の明るさも一工夫してみてくださいね。

そして、とっておきの日には明るい時間に思いっきり遊んであげる写真が撮影出来るといいですね!

「F1.8 1/15 ISO6400 WB3350K色被り補正-16 マニュアルモード」

後半の暗い写真は、このくらいの明るさの場所で撮影していました。(ほぼ目でみた明るさに近くなるように撮影しています)

夜の撮影、特に動く猫を撮る事はとても難しいですが、是非挑戦してみてくださいね!

(写真は全て東京キャットガーディアンにて撮影いたしました)

次回予告

次回も引き続き読者の方からのご相談に回答します。質問は、「シャッタースピード優先モードで猫を撮影するとすごく暗くなる……! 背景もボケない……! でも猫じゃらしで遊ぶ猫をピタリと止めて撮影したい!」です。

具体的な写真の説明を交えてご紹介していきます。

著者プロフィール

桐島ナオ
写真と詩を組み合わせた物語写真を中心に発表している写真家。植物と猫とカフェが大好き。PhotoCafe写真教室の講師もしています。公式HPはこちらから。

*桐島ナオ主催の保護猫カフェ月イチ撮影会 ネコサツ!*はこちらから。