あまりの愛くるしさに一本取られた!
東京・世田谷の閑静な住宅街、駅からつづく遊歩道に、「水車小屋跡」という碑が建っている。昔はのどかな田園地帯だったに違いない。めめちゃんの家は、その水車小屋跡のすぐ先にあった。なんだか、ガールフレンドの家を初めて訪ねるみたいにドキドキして、玄関のベルを鳴らす。ドアが開いた。出迎えてくれた飼主のhanaさんにごあいさつしていると、後ろで何かが動いた。まさか! なんと、玄関奥の廊下の壁から、こちらを伺うように大きな瞳が覗いている。ブログや本で何度も見た、あの忘れられない顔。めめちゃんだ! めめちゃんの予想外のお出迎えに、大感激だ。
廊下に上がりながら「こんにちは」としゃがみこんで、めめちゃんにごあいさつする。突然の来訪者に、めめちゃんは興味津々らしい。あの大きなまん丸の瞳でこちらをじっと見つめている。それをいいことに、手を伸ばして頭を撫でてみる。逃げられるのを覚悟していたが、めめちゃんは廊下にうずくまり、なんと気持ちよさそうに撫でられてくれるではないか。いま出会ったばかりなのに、ずっと前から知っていたような。それどころか、差し出した手をペロペロと舐めまわしはじめた。あまりの愛くるしさに、早くも一本取られた感じだ。
めめちゃんの初めての本『めめぼん』(竹書房刊)が出たのは、2007年11月のこと。hanaさんが言う「ヨーダのような顔」をした「小さなタレ目猫」は、すでにブログ「ふくとごま」で人気者だったが、書店にその姿が並ぶと、一気にそのファン層を拡大した。かくいう私もその一人。『めめぼん』で初めてめめちゃんを見たときの強烈な印象は忘れられない。「これが猫?」、正直そう思った。我が家にも何匹か猫がいて、さらにたくさんの猫ちゃんたちと出会ってきたつもりだったが、こんな猫ちゃんは見たこともなかった。まるで地球外生物みたいな生きもの。しかも、その小ささが半端ではない。
「生まれたときは、85gだったんですよ」と、hanaさん。手のひらにすっぽりと収まる小ささだったという。「本の表紙でめめが入っていたのは、あの茶筒ですから」と、桜子さんが食器棚を指差した。桜子さんは、hanaさんの同居人。ブログでも本でも、写真撮影を担当している。その桜子さんの指差した先には、確かに本の表紙で見たピンク色の容器がある。コーヒーマグかと思っていたが、茶筒だった。その小さなことと言ったら、缶コーヒーをちょっと太めにしたくらい。あれに入っていたのか!? 足元を歩き回っている今のめめちゃんの大きさからは、想像もつかない。
めめちゃんの可愛さはエキゾチック種そのもの
めめちゃんは、エキゾチックという種類の猫ちゃんである。まん丸顔、顔に埋もれたようなペチャンコの鼻、丸い大きな目、ふっくらホッペや、モコモコの被毛、ムクムクとした太めの体といった、ぬいぐるみのようなキャラクターは、実はエキゾチックの典型的な特徴なのだ。それもそのはず、めめちゃんのパパはエキゾチックの猫界ではちょっと知られた有名猫。デルピエロ君というチャンピオン猫で、そのイケメンぶりに結婚申込が殺到、日本中にめめちゃんの兄弟が数え切れないほどいるそうだ。
エキゾチックなんていう猫は知らなかったという方も多いはず。それも無理はない。1950年代にアメリカで繁殖計画が始まった新顔だ。ペルシャ猫は好きだが、長毛の手入れがたいへんと作られた、いわば短毛のペルシャ猫なのだ。アメリカンショートヘアなどの短毛種の猫と交配されて、1960年代後半に今の姿に定まった。一名「パジャマ姿のペルシャ猫」。9,500年とも言われる人類と猫の長い歴史で、まだたった40年ほど前に現れた新しい猫なのである。
「めめは、とてもおっとりしていて、よく遊ぶんですよ」とhanaさんが言う。その言葉通り、突然の来訪者だというのに、めめちゃんはソファに寝そべってまったりとマイペースだ。飼い猫として理想的ともいえるエキゾチックの愛らしい性格は、ペルシャ猫からそのまま受け継がれたものだという。たしかに全く物怖じしない。カメラを向けると、きっちりとポーズを決める。一緒にいるだけで、なんとも癒される猫ちゃんだ。
未熟児・仮死状態での奇跡の誕生
今でこそこんなに大きくやんちゃに育っためめちゃんだが、その誕生話は涙無くしては聞けない。2007年5月末、予定日がすでに5日過ぎていた。だが、赤ちゃんが生まれてくる気配はない。hanaさんは思い余って朝早く病院へ。そこで思わぬ事態が展開する。それまでレントゲンで2匹と言われていた赤ちゃんが、ほんとうは3匹だと判明したのだ。ペルシャ猫のエキスパートと言われる院長先生に初めて診てもらったおかげだった。しかも、1匹はかなり大きくて逆子だという。頭が大きいから自然分娩での出産は無理だとの診断だ。出産できたとしても、1匹は犠牲になる可能性が高い。急遽、帝王切開による出産が決まった。
「もし、あの時病院に行っていなかったら……」と、hanaさんは振りかえる。午後だったら院長先生に会えなくて、出産は取り返しのつかない事態になっていたかもしれないのだ。夜の9時を回って出産が始まった。hanaさんと桜子さんも立会いが許可されて、分娩室に入った。緊張の一瞬。最初に取り上げたのは、大きなブルーの赤ちゃん。逆子と言われた子だ。体重100gもある。2番目は、薄いクリーム色の三毛で60gしかない。最後に三毛の子が取り上げられた。わずか80g。これが、hanaさんと桜子さんのめめちゃんとの最初の出会いだった。
最初の子以外は、2匹とも未熟児だ。しかも3匹とも羊水を飲みこんでしまい、仮死状態。産声も上げない。お医者さまたちによって、必死の蘇生術が施される。仔猫たちの口から羊水をすべて吸い出し、丹念な心臓マッサージ。hanaさんも桜子さんもただ祈るような気持ちで見守った。どれほど時間が経っただろう。かすかに「キューン」と鳴く声がした。助かった! 分娩室に安堵の空気が流れた。hanaさんは、もっとも感動した瞬間だと、今も思い出す。こうして、めめちゃんはじめ3匹の仔猫がhanaさんと桜子さんの家にやってきた。
そして、めめちゃんだけが残った
一番大きなブルーは、「大」と名付けられた。60gしかなかった子は、「豆」。そして、最後に取り上げた三毛が「めめ」。hanaさんと桜子さんは、寝る間も惜しんで3匹の仔猫の面倒をみた。ところが…。3日目に、一番成長のよかった大ちゃんが突然危篤状態になり、そのまま逝ってしまった。二人はなぜと呆然となったが、遺伝的なもので手の施しようがなかった。hanaさんは、悲しみをこらえてブログに大ちゃんが「虹の橋を渡りました」と報告した。さらにその翌日には、一番小さかった豆ちゃんが大ちゃんの後を追うように旅立った。結局、めめちゃんだけが残った。
純血種、中でもエキゾチックは育てるのがとてもむずかしいといわれる。そのことはhanaさんもわかっていて、3匹の仔猫が厳しい状況になることも覚悟していた。しかし、現実に死を突きつけられると……。辛くて悲しくて、涙がとまらなかった。でも、めめちゃんがいる。また二人の奮闘がはじまった。とにかくエキゾチックは目が離せない。下痢が続いたかと思えば、便秘になる。食欲も心配だ。1週間の壁、10日の壁、30日の壁……、祈るような気持ちでひとつずつ乗り越え、そのたびに胸を撫で下ろしたという。
あの日から一年。2008年5月29日、めめちゃんは1歳の誕生日を迎えた。「早く大きくなって」と祈るように育てたhanaさんと桜子さんの思いが通じたのか、虹の橋を渡った大ちゃんと豆ちゃんが見守っていてくれるからか、めめちゃんは病気もせずすくすくと大きく育った。そればかりではない。この一年の間にブログで人気を集め、本も出版されて、すっかり有名猫ちゃんだ。一年前「早く大きくなれ」と祈る気持ちを綴っていたhanaさんは、この日のブログにこう記した。「めめ、おめでとう1歳。大きくなってくれて、そして病気せずにいてくれて感謝」。めめは、誕生祝に贈られた好物のささみをお腹いっぱい食べて、ぐっすり眠った。(つづく)
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