2022年4月1日から、日本の成年年齢が20歳から18歳に変わりました。18歳/19歳ならば今まで法定代理人(親など)の同意が必要だった携帯電話やアパート、ローンの契約などが1人で行えるようになりました。

「クレジットカードの契約」も同様です。18歳から、親権者の同意がなくてもクレジットカードが持てるようになりました。

未成年のキャッシュレス利用はいまだ未開拓

日本のキャッシュレス利用率は向上していますが、今のところ「未成年」は取り残され気味です。現金が全てキャッシュレスに置き換わり、子供のお小遣いも電子になることがいいか悪いかは別にして、キャッシュレス利用率を上げるためには子供のキャッシュレス対応も必要になります。

キャッシュレス決済手段のうち、子供にも一般的に使われているのは電子マネーでしょう。特に交通系ICカードは公共交通機関の乗車でも利用するため、子供の利用が多いようです。2月10日に楽天ペイメントが東京・佃中学校で実施したキャッシュレス教育授業の際に聞いたところ、中学1年生だと「交通系ICカードは使っているけど、(買い物などの)決済には使っていない」という声が聞かれました。

  • 楽天ペイメントが実施した金融教育授業の様子

    楽天ペイメントが実施した金融教育授業の様子

2022年10月に日本証券業協会の金融経済教育を推進する研究会が取りまとめた「中学校(教員・生徒)における金融経済教育の実態調査報告書」によれば、中学3年生でも約半数が交通系ICカードを利用していました。

  • 中学3年生におけるキャッシュレス決済の利用状況

    中学3年生におけるキャッシュレス決済の利用状況。「中学校(教員・生徒)における金融経済教育の実態調査報告書」より

それに続くのはPayPayなどのコード決済。コード決済も基本的にはプリペイド(前払式)の支払手段のため、法的な位置づけとしては電子マネーと同じ。電子マネーと同様に未成年でも利用可能ですが、「スマートフォンがなくても利用できる」という点も含めて、交通系をはじめとしたICカードのほうが使われているようです。

大人にとってキャッシュレス決済の王道であるクレジットカードは中学生にとってなじみが薄いようで、楽天ペイメントのキャッシュレス教育授業では、キャッシュレス決済の種類を生徒に聞いた際に「クレジットカード」を挙げる生徒はいませんでした。

  • キャッシュレス決済の種類

    楽天ペイメントの授業ではキャッシュレス決済のひとつとしてクレジットカードも紹介していました

  • Felicaの内部をみられるようにした透明カード

    なお、この授業では電子マネーを中心に紹介していたため、FeliCaについても解説されていました。カード内部が見えるようにした特別な透明カードが手渡され、生徒は興味津々で見ていました

ただ、前述の中学3年生に関する報告書では、クレジットカードの利用者が4.4%いました。このあたりは少し謎ですが、実際にはクレジットカードを利用しているのではなく、例えば三井住友カードの「かぞくのおさいふ」のようなプリペイドカードを使っているのかもしれません。

いずれにしても、中学生はまだクレジットカードを保有することができません。通常クレジットカードは高校生を除く18歳以上でないと申し込みができないからです(家族カードもおおむね同じ制限です)。以前までは、18~19歳は未成年ということで、大学生でもカードの作成に親権者の同意が必要でした。これが成年年齢引き下げにより、18歳以上は同意なくクレジットカードが作れるようになりました。

ただ実は以前から、イオンカードは18歳の高校生でも卒業年の1~3月であればクレジットカードを申し込めましたし、セゾンカードも同じく2~3月であれば申し込めるようになっています。また、ナッジは18歳以上であれば高校生でも申し込めます。つまり高校生だからといってクレジットカードが持てないわけではありません。

フィンテック企業ナッジの沖田貴史社長によれば、この「18歳以上」「高校生以外」といった制限は以前からの自主的なルールで、親権者の同意があれば18歳未満でもクレジットカード作ることは可能でした。上記3社の場合、高校生がクレジットカードを作る場合はキャッシング機能を持たせないという対応をしています。

18歳未満でもクレジットカードを作れるようにするかどうかは各カード会社の判断ですが、遅れも指摘される日本の金融教育を考えると、すぐに未成年にクレジット作成を認めるのは時期尚早かもしれません。逆に言えば、そんな状況でも18歳以上になれば親権者の同意なくクレジットカードを作れるようになるので、きちんと自分で考えてカードの利用について判断しなければなりません。

デビットカードでカード利用の練習

未成年のキャッシュレスのもう1つの可能性としてはデビットカードがあります。デビットカードは銀行口座に直結して、口座残高の範囲内で決済が行える銀行のサービスですから、子供の銀行口座があればデビットカードを作成できます。

  • 1枚のカードでデビットカードとクレジットカードを兼ねるOliveのカード

    前回紹介した三井住友銀行のOliveでは、3月のサービス開始以降、1枚のカードでデビットカードとクレジットカードが使い分けられるようになります

デビットカードはVisaなどの国際ブランドに対応しているため、クレジットカードと同様に広く利用できます。ガソリンスタンドやサブスクリプションサービスなど、一部の加盟店では使えない場合があるのですが、未成年ならば、特にサブスクリプションなどのサービスは親などが管理する方がいいかもしれず、かえって好都合かもしれません。

特に子供が幼い間にスマートフォンを与えているとき、親のクレジットカードを登録して子供がゲームやSNSのスタンプなどに課金してしまうというトラブルがあります。そうしたことのないよう、親が一定額をチャージして残高の範囲でしか使えないプリペイドカードを設定し、その上で子供にお金の使い方を教えるのはいい方法でしょう。

デビットカードを作れるようになった時点で、子供自身の銀行口座の残高が減ることでお金の使い方を知ることができるデビットカードを持たせるのは、悪くないアイデアかもしれません。

現在、デビットカードの作成には「中学生を除く15歳以上」という年齢制限を設定している銀行が多いのですが、これも自主規制です。りそな銀行のように「15歳以上」というだけの銀行もありますし、「第一生命NEOBANK」だと、仕組み上は親と同じ支店に子供用口座を申し込めば、0~14歳でもデビットカードが発行できるようです。

デビットカードは、使い方としてはクレジットカードとほとんど変わりませんが、銀行口座の残高以上の決済はできないので、クレジットカードよりも安心感があります。海外ではクレジットカードよりもデビットカードの方が使われているという国も多いのですが、日本では、デビットカードの決済金額が2021年度で2兆8,336億円(日本銀行調べ)、クレジットカードは81兆173億円(日本クレジット協会調べ)と大きな差があります。ちなみに電子マネーは5兆9,696億円(日本銀行調べ)でした。

  • キャッシュレス決済の金額動向

    キャッシュレス決済の金額動向。クレジットカードが圧倒的な比率になっています。グラフは日本銀行/日本クレジット協会のデータをもとに筆者作成

経済産業省がまとめた2021年のキャッシュレス比率を見ても、クレジットカードが27.7%に対してデビットカードは0.92%、電子マネーは2.0%、コード決済は1.8%でした(キャッシュレス決済全体では32.5%)。

このようにデビットカードの利用は現状少ないのですが、「自分の口座残高の範囲内で利用する」ということでカードの使い方を学ぶ教材として適しています。

前述のとおり一般的に15歳以上という制限がデビットカードにはありますが、アルバイトなどで「自分で稼いだお金」も管理できるようになる年齢層ではあるので、自分の残高の範囲内で使うという意識も高まるでしょう。そうした点では、少し成長してからの金融教育向けと言えるかもしれません。

海外では若者の間でBNPL(Buy Now Pay Later=後払い決済のこと)が広まり、日本でもBNPLのサービスは登場しています。基本的には後払いで、一般的なクレジットカードとは異なりいつでも返済できるというのが特徴ですが、サービスによっては返済時に固定の手数料が必ず発生するため注意が必要です。

前述のナッジの沖田社長は、信用情報機関に未登録のBNPLサービスの場合、加入者の借入実態が分からないため、多重債務者でも借入ができてしまう可能性を指摘しており、多額の借入はできないとはいえ現金化などの問題があると話しています。

こういった点からも、即時引き落としのデビットカードやプリペイドカードの方が若年者に使わせるには安心感があるでしょう。佃中学校の1年生たちは、キャッシュレスに対する知識はそれなりにあるようでしたが、クレジットカードの仕組み、そのメリットとデメリットなどはまだ学んでいないようで、このあたりは年齢に応じた教育を重ねる必要があると感じました。

  • キャッシュレスについて考える生徒たち

    楽天ペイメントの授業では、自分たちでキャッシュレスについて考えて発表するという場面もありました

授業後にインタビューに応えてくれた佃中学校の生徒は「現金の方が楽」と話していました。しかし今後、18歳でいきなりクレジットカードを使うよりは、電子マネー、デビットカードと段階を追って使いこなしを覚え、安全にキャッシュレスを使いこなしてほしいところです。そのための金融教育に対しては、関係団体のさらなる対応に期待したいところです。