三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)/三井住友銀行/三井住友カードが、新しい金融サービス「Olive」を3月から開始します。金融業界、特にメガバンクとしては思い切ったサービスで、注目の新戦略です。Oliveカードの特徴やATMはどうなるかなど、現時点で分かっていることをまとめてみました。
モバイルサービス導入で店舗はどうなる?
Oliveは、三井住友銀行の個人口座をベースにした新サービスです。3月以降、同行では新規の個人口座開設はOliveになるそうで、紙の通帳がほしいといった一部の要望には既存の口座開設も受け付けますが、基本的にはフルデジタルの新口座になります。
とりあえず、既存ユーザーに関しては、強制的に紙の通帳廃止などの移行はしないとしています。
銀行口座開設から普段の取引、資産運用などのすべての取引はスマホアプリで完結。本支店の店舗に行く必要がないようにしています。携帯業界だと、NTTドコモのオンライン専用プランahamoのように、「店舗はあるけどサービスは基本的に全てオンラインで提供」という形です。
銀行口座を本店や支店の店舗で開設すると、いくつかの手続きは開設店舗に行かなければならなくなりますが、Oliveではそれがないので、どの本支店でも同じ手続きができます。とはいえ、どの店舗にも属さないと送金の宛先がなくなってしまうので、便宜的に店舗が割り当てられるそうです。
また、従来の銀行とネット専業銀行では、店舗サポートの有無が大きな違いでした。携帯業界の4大キャリアとMVNOのような関係でした。この点も、すべての取引がオンラインでできるようになるため、Oliveでは店舗の役割も変化していくことが想定されてます。「駅前の一等地に大きな店舗は不要になるかも」と言うのはSMBCグループの太田純社長。
リアル店舗に行く目的が絞られて、資産運用の相談、サービスやアプリの使い方相談といった利用が主になり、それに対応するには住宅街の方がいいかもしれないし、ショッピングモール内に設置したカウンターで十分かもしれない、というのが太田社長の描く店舗戦略です。
これまで銀行では、振込/入金/送金などの事務処理が多く、資産運用の相談のようなコンサルティングがなかなか行えなかったといいます。事務処理をデジタルに任せて、店舗はそうしたコンサルティング業務に力を入れていきたいようです。
Oliveでは銀行とカードが一体的に提供されるため、カードのサポートや勧誘も店舗で行われる可能性もありますが、銀行とカードは業法が異なるため、一体営業などがどこまでできるかは、今後検討していくそうです。
自動送金が無料になる - ATM手数料は?
メガバンクでありながらネット専業銀行と同じようにオンラインで完結するというのは、慣れている人にとっては歓迎。それに伴うサービスも魅力です。例えば毎月決まった額を送金する「自動送金」の手数料(従来は110円)を無料化。
さらに他行宛振込手数料は月3回まで無料化します。これまでは3万円未満385円、3万円以上550円が必要でしたが、自動送金の手数料無料化とセットで利用すると、定期的な他行宛の振込を月3回まで無料で行えるようになります。預金残高などによって回数は異なりますが、ネット専業銀行でも同様のサービスを提供しており、メガバンクが追いついた形です。10万円までなら無料で送金できる「ことら送金」もあるので、対応銀行はことら、それ以外は振込を使えば、3回でもそれほど問題はないように思います。
すでに共通化している三菱UFJ銀行の店舗外ATMを含めて、本支店のATM利用料は無料です。時間外でも無料で利用できる点は有利なポイントでしょう。とはいえ、コンビニATMの利用は有料です。これまで、三井住友銀行には「SMBCポイントパック」があり、資産残高などに応じてコンビニATMは最大月3回まで無料といった特典がありましたが、OliveではこのSMBCポイントパックが使えないため、コンビニATMは選択制の特典で月1回まで無料という形になりました。これは悩ましいところですが、現金をあまり下ろさないでキャッシュレス決済をする、という位置づけのOliveなので、この部分のコストを削減したいという意図もあるようです。
課題としては、今後の店舗の役割が変化することで、本店/支店/ATMがどれだけの数になっていくのか、という点でしょう。店舗が駅前一等地から住宅街に移転したとしても、現金を下ろすという意味では、駅前にあった方が便利ではあります。こういう場所は三菱UFJ銀行のATMに任せるというのは1つの考え方かもしれませんが、その辺りを含めて店舗戦略は今後の検討ということのようです。
ちなみに、Oliveではプラチナプリファード(年会費33,000円)を選ぶと選択制の特典が2つ選べますが、これでコンビニATM手数料1回無料を2つ選ぶことで、月2回まで無料にすることはできるとのことでした。
PCでも同じように利用できる?
Oliveは、三井住友銀行/三井住友カード/SBI証券の口座を、1つのID(SMBC ID)で連携して表示できます。基本的にはスマホアプリを想定したサービスのため、PCのブラウザでアクセスしても同じサービスは利用できないようです。
SMBC IDによるログイン自体がOlive(スマホアプリ)でしかできず、銀行/カードの一括での住所変更登録などの手続き、マルチナンバーレスカードの操作、SBI証券/保険の利用なども、アプリのみの機能とのことです。
筆者はPCの前にいることが多く、銀行サイトもPCで使うことが多いため、ちょっと残念なところではあります。ただ、既存のアカウントは残り、三井住友銀行/三井住友カードそれぞれのサイトにログインすることはできます。
アプリは三井住友銀行アプリと三井住友カードのVpassアプリが併存します。Oliveアカウント(SMBC ID)を連携させれば、両アプリのどちらを使っても同じOliveにアクセスできるようになります。三井住友銀行/三井住友カードのアカウントで、それぞれのアプリにログインすることも、同様に可能です。
正直、セキュリティ的にはアカウントが分散するのはあまりいい印象はありません。生体認証はあるものの、FIDOのパスワードレス認証(できればパスキー)は導入してほしいところではあります。SMBC IDのみでパスキーになるのが、安全性と利便性を両立した仕組みだとは思いますが、金融機関だとパスキーは難しいかもしれません。
ちなみに、三井住友カードのVpassアプリでは、5月にもSBI証券のミニアプリが組み込まれ、Vpassアプリ内からSBI証券の取引がシームレスに行えるようになるそうです。
サブスクも支払えるOliveカード
Oliveの口座を開設すると送られてくるキャッシュカードは、(満18歳以上で審査が通れば)クレジットカード機能も搭載されています。キャッシュカード/デビットカード/クレジットカード/ポイント払い用カードが一体となったカードです。
最大の特徴は、スマホアプリで用途を切り替えられる「フレキシブルペイ」という機能です。クレジット、デビット、ポイント払いの3つの支払い方法をアプリで簡単に切り替えられ、即座に該当する支払い方法で決済ができます。Visaとの共同開発で、当面は三井住友カードの専有サービスになるようです。
普段はデビットモードで口座残高から即座に支払いをしつつ、高額な支払いやデビットカードが使えない一部の加盟店でのみクレジットモードにする、といった使い方ができます。
とはいえ、今までもApple PayやGoogle Payでは、クレジットカード/デビットカード(従来のSMBCデビットはApple Pay非対応)/ポイント払いをそれぞれ登録して支払いに使えたので、どちらを使うかという違いだけとも言えなくありません。
今までそれぞれの用途で物理カードを使い分けていた人にとっては特に便利でしょう。また、Apple Pay/Google Payへの登録も1つのカードで済むというメリットはあるかもしれません。
Oliveのメリットは、デビットカードでありながら、公共料金や定額課金のサブスクリプションサービスのようにクレジットカードでないと登録できない支払いでは、自動的にクレジットモードにで利用でき、カードを使い分ける必要がないというところです。決済する瞬間にデビットモードになっていても、自動的にクレジットモードで決済をしてくれるそうです。逆に言えば、デビットモードにしていてもこのときは必ずクレジットモードになる形です。
ただ、ガソリンスタンドなどのようにデビットカードに対応していないような加盟店だと、アプリで設定した支払いモードでのオーソリゼーションが発生するため、デビットモードで決済できない場合があるようです。このあたり、自動切り替えができるというのですが、そもそもガソリンスタンドなどの仕組みの問題とも言えます。
いずれにしてもオーソリゼーションに失敗したらクレジットモードに切り替えれば使えるというのは安心材料です(物理的に別のクレジットカードを使った方が早いかもしれませんが)。
両A面のナンバーレスカード、カードにサインも不要
デザイン面では、クレジットカード番号/セキュリティコード/署名欄などがないナンバーレス・サインパネルレス仕様という点が特徴ですが、さらに「両A面」という裏面がないデザインとなっています。
(便宜上の)裏面には氏名のアルファベット表記があるほか、発行時に口座番号の記載を設定できますが、基本的にそれ以外はロゴのみでほとんど記載がなく、スッキリとした外観になっています。
クレジットカードの磁気ストライプは内部に埋め込まれているそうで、必要に応じて決済は可能です。とはいえ、昨今は基本的にタッチまたはICの支払いになるでしょう。ATM用の磁気ストライプはないため、ATM利用時はIC対応ATMを利用するしかないようです。
なおサインパネルレスについてですが、三井住友カードの規約では、加盟店が店頭でサインを求める場合にカード署名欄の署名とサインを照合する必要はなく、売上票などに署名をしてもらうだけで問題ありません。
SBI証券との連携は変わらず
三井住友カードとSBI証券は、これまでも投信積立でVポイントが貯まるクレカ積立のサービスなどを提供してきました。プラチナプリファードで5%、プラチナで2%、ゴールドで1%、ナンバーレス(NL)カードで0.5%のポイントが付与されます。
これはOliveでも同様です。還元率もプラチナプリファード/ゴールド/NLと同じ数字になります(クレジットモード)。ポイント投資などのサービスも使えるため、これまでの三井住友カードと同じサービスと考えて良さそうです。
この決済金額に対するポイント付与に加えて、以下のポイントアップの対象になるのもメリットです。
デビットカード利用でもポイントアップ
三井住友カードは、Vポイントに注力していますが、これはOliveでも同様に提供されます。キャッシュレス決済の利用を促進することがOliveの目的の1つなので、それに合わせた形でしょう。
基本の還元率は200円で1ポイント(0.5%)ですが、これに加えて様々なポイントアップ施策が用意されています。
- タッチ決済利用でプラス4.5%
- 家族ポイントの登録で最大プラス5%
- 三井住友銀行・Vpassアプリのいずれかに月1回以上ログインでプラス1%
- 特典選択のVポイントアッププログラム登録でプラス1%
- Oliveアカウント+三井住友銀行の住宅ローン残高ありでプラス1%
- SBI証券口座+Vポイントサービス登録+対象の取引(※)で最大プラス2%
※当月の投資信託の買付が1回以上でプラス0.5%、当月の国内株式/米国株式の取引が1回以上でプラス0.5%、三井住友カード/三井住友銀行仲介口座で当月末のNISA/つみたてNISA口座の保有資産評価額が30万円以上でプラス1%
という6種類のポイントアップがあり、合計最大15%になります。つまり、最大で200円30ポイントになるわけです。
ちなみに、プラチナプリファードの場合は通常ポイントが200円2ポイント(1%)、タッチ決済がプラス4%という違いがあり、さらに特典選択でVポイントアップを2つ選べば最大プラス2%になるため、合計では最大16%になります。
クレジットカードとデビットカードでは、ポイント還元率が異なるというのは一般的です。Oliveの場合、上記ポイントアップ施策の(1)と(2)がデビットモードでは非対応になります(最大5%分)。ただ、それ以外の(3)~(6)まではデビットモードでも加算されるため、「クレジットモードで最大15%(プラチナプリファードで最大16%)」、「デビットモードで最大5%(同7%)」ということになるようです。
(2)は指定のコンビニ・飲食店に限定されますし、(1)はタッチ決済のみです。そのため、クレジットモードでも最大還元になる場面は限定的です。特に確実に対象ではないオンライン決済/タッチ決済が使えない場合は、デビットモードで使っても還元率は変わりません。
利用シーンにもよりますが、コンビニ/飲食店でタッチ決済をする以外はデビットモードでもいいというのは、嬉しいところです。SMBCデビットはこれまで基本ポイントの0.5%のみだったので、還元率は10倍です(200円で4ポイント)。
とはいえ、なかなか最大還元にはならなそうです。私の場合、(1)でプラス4.5%、(2)でプラス1%(家族1人)、(3)でプラス1%、(4)でプラス1%、(6)でプラス1~2%ぐらいなので、クレジットモードで最大9.5%、デビットモードで最大4%ぐらいの還元になるのではないでしょうか。
デビットカードの利用拡大に繋がるか
日本では、妙にデビットカードの利用が低いことは課題の1つです。もともとJ-Debitという独自のデビットネットワークがあってあまり使い勝手のよくなかったことが、普及の妨げになっていたようにも感じています。
加えて、ポイント還元のニーズが強い日本では、還元率の低いデビットカードの利用が伸び悩んでいたのかもしれません。そうした中で、成人したらクレジットカードを作るという流れがあり、現金嗜好も強いので普段は現金/いざという時にクレジットカード、という使い分けになっていたように思います。子供は電子マネーの普及でカバーできていた面もあります。
しかし昨今、クレジットカードの利用が一般的になって、オンラインショッピングでも普通にクレジットカードが使われるようになっています。QRコード決済のチャージにもクレジットカードが使えるので、利用頻度は向上しています。
QRコード決済は銀行口座から直接チャージできるため、ある意味デビットカードのようにも使えますが、例えばPayPayであれば未成年の利用には法定代理人の同意が必要です。
デビットカードは、銀行口座さえ開設されていれば、中学生を除く15歳以上なら発行できます。Oliveも同様なので、中学校を卒業したら子供にデビットカードを持たせるというのは、金融教育の面でも良さそうです。
高校生を含む18歳未満の場合はクレジットモードが利用できないため、キャッシュカード/デビットカード/ポイント払いの三位一体カードとなりますが、デビットカードとしては使えますし、クレジットモードがなくSBI証券の特典が使えないことからポイント還元は少し下がるものの、それなりにポイントも貯まります。
クレジットカードの審査が落ちた場合でも三位一体カードになりますが、クレジットカードに近い感覚でデビットカードは使えます。クレジットモードが使える人が試しにデビットカードを使ってみたいという場合でも、アプリからデビットモードに切り替えるだけ。デビットカードは口座残高の範囲でしか使えないため、家計管理もしやすく使いすぎも防げるので、クレジットカードではなくデビットに移行する人もいるかもしれませんし、今まで現金だった人がデビットを使ってみようということになるかもしれません。
個人的には、Oliveによってデビットカードの利用拡大に繋がるのではないかと期待しています。