2006年に前身のクレジットサービス「DCMX」が提供開始されたところからスタートしたNTTドコモのクレジットカード「dカード」。2024年11月に、ついに最上位カードとしてプラチナカード「dカード PLATINUM」の発行を開始しました。
携帯キャリア4社はクレジットカード事業にも力を入れており、楽天カードが2005年7月、au PAYカードが2014年10月、2015年にKCカードより譲渡されたYahoo! JAPANカードからスタートしたPayPayカードと、それぞれ異なる戦略でカード事業を打ち出しています。
今回は、最上位カードの発行に至った背景やその戦略についてドコモに話を聞きました。対応していただいたのは同社コンシューマサービスカンパニー クレジットサービス部長の鈴木貴久彦氏。クレジットサービス戦略担当の稲村彩花氏にも同席いただきました。
なお、dカード PLATINUMは「申し込みが予想を上回る状況」とのことで、Web申し込みが一時停止されていましたが、受付は再開されています。ただし、カードの発行・発送に通常よりも時間がかかっているとアナウンスされています。
3万円を切る年会費で幅広いユーザーにプラチナカードを
携帯事業にあとから参入した楽天グループは別として、dカードの歴史は携帯キャリアのなかでは最も古く、ゴールドカードの発行も2007年に遡ります。現在のdカードになったのは2016年と比較的最近ですが、長くレギュラーカードとゴールドカードの二本立てとなっていました。
そうしたなかで、dカード GOLDの会員数が1,000万を突破。「積極的に使ってもらっていて、ショッピング限度額が足りない、もっといい特典が欲しいという声が増えてきた」と鈴木氏は話します。
そうしたこともあり、2~3年前から「そろそろカード券種を増やした方がいい」という流れが社内でもあったそうです。券種としては若年層向けもありえるところですが、まずはラインナップとして上位の券種が必要という判断に至ったといいます。
ただ、ちまたには10万円を超える年会費のプラチナカードがありますが、そのレベルはドコモショップでコンサルティングしながら販売するという商品ではないという判断もあったそうです。その中で、「三井住友カード プラチナプリファード」や「楽天ブラックカード」といった年会費3万円台のカードがあってもいいのでは、という気づきを得たとのこと。
「プラチナカード」で求められる空港のプライオリティ・パス、グルメ優待、プラチナカードそのもののステータスといった魅力について、さらにある程度還元率を高めることで、「プラチナカードであれば年会費分の元を取れなくてもいい」というユーザーもいるのでは、とも考えたと鈴木氏。もちろん、年会費分のメリットがないと加入しない人もいるだろうことは想定しつつ、年会費を抑えて幅広いユーザーの手が届くプラチナカードを発行する意味があると判断したそうです。
こうした背景から制度設計をして「最短で出したのがこのタイミングだった」と鈴木氏。特に何らかのタイミングを狙ったわけではないそうです。
もともとdカードは、三井住友カードと連携してカード発行をしていましたが、そのシステムも刷新しており、既存カードもカード番号が変わる新カードへの移行を進めています。この新システムでカードを発行し、サービス提供が問題なく行えることを確認しながら移行を進めており、それが滞りなく進んでいることを確認してから投入したのが、今回のdカード PLATINUMだったわけです。
現時点ではまだ「旧システムのカードが圧倒的に多い」(鈴木氏)という状況ですが、今後は有効期限を迎えたカードが順次新カードに移行していくことになる見込み。現状では新旧ともに問題は発生していないそうです。
特典と年会費のバランス、努力の限界点
dカード PLATINUMの年会費は29,700円。ギリギリ3万円を下回る金額に抑えました。鈴木氏は、「3万円を一つの区切りにして、なんとか税込でその額を割り込めるような商品性にしたい」と説明。ドコモの携帯だけでなく電力や固定通信の契約もするようなヘビーユーザーだけでなく、例えば「マネックス証券のクレジットカード積立でこれだけ還元されるなら」という証券サービスをきっかけとした利用にも繋がるような設計にしたといいます。
ただ、dカード GOLDのように、携帯料金の支払いなどで「年会費以上のポイント還元」となるというよりも、プラチナのステータスを含めたカードとして位置づけたい考えです。
とはいえ、ポイント還元も強化されています。それがドコモの通信料金支払いにおける20%還元(入会初年度、2年目以降は前月の利用金額に応じて10~20%還元)で、これが「一番の産みの苦しみ」(鈴木氏)だったそうです。
当初は年会費を安くして10%還元とする案もあったそうですが、他社との差別化を考えると「10%は望まれていない」と判断。12%/13%という刻んだ還元も議論したそうですが、やはりそれお望まれていないとして、「期待を超えるようなインパクトがあって、ある程度手が届く金額帯の年会費」(鈴木氏)を狙ったといいます。
「ここが努力の限界点、到達点だった」と鈴木氏は振り返ります。
クレジットカードでは数十万円クラスの年会費という商品もあります。dカード PLATINUMでは、プラチナのステータスやプライオリティ・パスを持ってみたいといったニーズに対して応えられる商品を目指しつつ、同社の前田義晃社長が「会員3ケタ万を目指したい」との目標を掲げたとおり、「広いお客様に届くスペックにしたかった」と鈴木氏は話します。
なお、dカード PLATINUMの特典であるプライオリティ・パスは、「年間10回までの利用」という回数制限が設けられています。他社も多くは回数制限を設けたり、レストランとラウンジで利用を分けたり、制限を設けることが一般的になってきました。
ただ、dカード PLATINUMでは、「ラウンジが混んでいるのでレストランに行く、といったお客様もいるので、両方使えないとプライオリティ・パスの意味がなくなる」(鈴木氏)ことから、レストランも利用できるようにして、さらに「調査をして、10回使えればほとんどの人は大丈夫」という判断で回数制限を設定したそうです。
マネックス証券でドコモユーザー以外も大幅還元
そんなdカード PLATINUMを利用するにあたって、最大の還元である20%を得るにはどうすればいいのでしょうか。これには「毎月20万円以上と、毎月10~20万円で閾値がある」と鈴木氏。
毎月20万円を使う人だと、翌月の還元率は20%になり、さらにマネックス証券のクレジットカード積立も3.1%還元になります。
実はdカード GOLDには年間利用特典として200万円のコースがありました(現在は廃止)。つまり、dカード GOLDの時点ですでに年間200万円を使うユーザーがいたということで、それに近い利用頻度の人であれば月間20万円を使う人も一定数いると判断したようです。
これに加えて、複数のカードを使い分けている人がカードをまとめることで月間20万円を超えるケースも出てくるとみており、こうした利用者が集められれば、前田社長の「3桁万」という会員目標は達成できると鈴木氏は見ています。「途方もない風呂敷を(前田社長が)広げたというより、頑張れば到達できる目標」だと鈴木氏はいいます。
さらに、マネックス証券向けの最大3.1%還元というのも強力です。NISAの場合で初年度100円3ポイント+1,000円1ポイントの還元なので、10万円の積立をするとそれだけでカード年会費を超える還元になります。
2年目以降は月間ショッピング利用額が10万円未満であれば1.1%還元、10~20万円未満であれば2.1%還元、20万円以上で3.1%還元になります。ショッピングの還元は100円1ポイントなので、仮に9万円だとすると900ポイント。10万円積立時の還元率は1.1%なので1,100ポイントになり、合計2,000ポイント。1年だと24,000ポイントになる計算です。
これが10万円のショッピング利用額だと、ショッピングの還元額は1,000ポイントですが、10万円積立時の還元は2,100ポイントで合計3,100ポイントになり、1年で37,200ポイント。月20万円であれば、さらにあっさり年会費を超えます。
逆にドコモの利用料金20%還元は、積立を除いてショッピング20万円以上の利用が必要なので、マネックス証券の積立も行うと10万円がプラスされた毎月30万円という利用額になります。
生活費のほとんどをdカード PLATINUM(+d払い)でまかなって、さらに新NISAの積立もすると考えれば、(プラチナカードであることを考えれば)決して無理があるわけではないでしょう。
鈴木氏も、「マネックス証券の還元が引っかかりとなって興味をひければ」と期待を寄せます。マネックス証券の還元では利用回線による制限がないため、ドコモユーザーでなくても特典や還元でユーザーを拡大できる可能性もありそうです。
今後はJCBの可能性も?
今後について鈴木氏は、若年層向け、提携カード、コラボレーションカードなど、様々な検討を行っていると話していました。物理カードがないデジタルカードの可能性にも言及しています。さらに現在は国際ブランドがVisaとMastercardだけですが、JCBの採用に関しても、「歴史的な経緯で2つだけだった」(鈴木氏)とのことで、ユーザーのニーズに応じて検討したいとの考え。
プラチナカードらしく、年間利用特典も400万円までカバーして、利用額の多いユーザーも対応できるようにした上で、髙島屋などとも協議してラグジュアリーな特典を検討しているといいます。
ただ、やはり連携として銀行がない点はドコモの弱みでしょう。このあたりは、鈴木氏も「銀行は大事」と認めつつ、直接の担当でもないこともあって特段のコメントはありませんでした。
いずれにしても携帯3社のなかでは、プラチナカードで先んじたドコモのdカード PLATINUM。ユーザーがどのように反応するか、ドコモユーザー以外にも拡大できるのか、今後の動向が注目されます。