「日本最大の無人店舗ネットワーク」ともいうべき飲料の自動販売機。拡大路線が一息ついて、冷凍食品のような飲料以外の自販機も増えています。それでも最大規模となる飲料の自販機は、100万台以上が日本の津々浦々に設置されています。
台数、1台あたりの売上ともに減少傾向にある中、自販機界の2大巨頭である日本コカ・コーラとサントリーに話を聞いてみると、お互いの戦略の違いが浮き彫りになりました。
前回のコカ・コーラ編に続く今回はサントリー編。お話を聞いたのは、サントリー食品インターナショナル株式会社VM事業本部マーケティング部の森新氏です。
自販機+コミュニケーション
日本の自動販売機は、飲料が99%近くを占め、その台数も200万台を超えています。日本コカ・コーラとサントリーだけで100万台以上なので、両社で半数以上を占めています。ただ、市場規模が右肩下がりなのは事実で、これをどのように改善していくか、両社は様々な検討をしています。
サントリーでは、「商品力の強化」と「自販機の付加価値の向上」がキーワードとなっているとのこと。商品力に関しては、「お客様に支持される小売店」(森氏)を維持・強化していく商品を提供していきます。
新商品の投入だけでなく、AIを活用して、設置場所に応じた商品の選定や、デジタルプロモーションである「Touch! SUNTORY」キャンペーンも25万台程度の規模で展開しているそうです。「ここ数年で初めてかなり大きなチャレンジ」と森氏は言います。
「自販機は、近くて早くて、冷えているもしくは暖まっている」というのが価値であり、一般的な小売店に比べて、より利用者に近い場所でよりターゲティングがしやすい状態でサービス提供できる……という点が特徴だと森氏は説明します。「コンビニがこのエリアの20人のお客様のために出店できるかというと難しい」(森氏)ため、自販機だからこそできる事業があるというのが森氏の考えです。
加えて付加価値の方面では、特に法人顧客に対するサービス革新を提供することにチャレンジします。もともと法人向けに社内に設置されるような自販機は、「従業員の飲料購入の2割ぐらいしか利用されていなかった」と森氏。逆に言えば成長の余地が莫大とも言えます。
そこでサントリーのチャレンジがスタートしました。単純な例では、法人側が費用負担をして飲料自販機を無料化すれば利用頻度は跳ね上がるだろうと考えられます。そうした利用を促進するために研究開発を行い、特許件数も例年の1件程度だったのが4件、5件と増加。さらに、飲料を売る店舗としての自販機だけではないサービスの提供を目指しています。
森氏は、「健康/コミュニケーションなどの付加価値を提供する。自販機は基本的にジュースというモノを売っていますが、モノとコトを一緒に売る、これを1台の自販機で実現することをサービス自販機と呼んでいます」と話し、法人向けサービスの強化を図っていく戦略です。「多分、過去最大の転換点。無形物を売るというのはかなり新しいチャレンジ」と森氏は言います。
そういった背景から登場したのが2021年10月の「社長のおごり自販機」です。コロナ禍のさなか、企業のコミュニケーション不足を解消することを狙ったというサービスで、2人の社員が同時に社員証をかざすと飲み物が無料になる、という仕組みです。
代金は法人が負担する、つまり社長のおごり……ということです。社員同士が同時に飲料を購入することでコミュニケーションが活性化するということを狙ったそうで、森氏自身「よくこんな企画が通ったとよく言われます」と笑います。
しかし、2022年2月末までに問い合わせは300社以上と好調。名称のカスタマイズにも対応しており、「工場長のおごり自販機」「○○(個人名)のおごり自販機」なども展開できるそうです。同じサービスでも同じ見た目にならないという点で、これもユニークな点だと言います。当初は首都圏だけの展開だったのが、昨年5月からは全国でも展開。2022年は200社、23年には500社といった「アグレッシブな目標」(森氏)を立てています。
飲料自販機+食品
もう1つの新サービスが「食べ物が食べたいというニーズ」に対応する自販機。従来も、「置き菓子」のようなサービスを提供している事業者はありましたが、どのように決済をして代金を管理するかという課題もありました。
これに対して飲料自販機というのは「冷蔵庫と決済機能の足し算」(同)であり、決済機能だけを切り出せばセルフレジとして使えると考えたのだそうです。自販機自体、例えば飲料が30種類入れられる自販機であればボタン自体は36個あるため、使っていないボタンがあります。
その余ったボタンをセルフレジとして活用するというのが「ボスマート」です。飲料の配送に合わせてお菓子やカップ麺などの軽食類を持ち込み、購入時は自販機のボタンを押して代金を支払うという仕組みを採用しました。自販機自体にセルフレジプログラムをインストールすることで実現したそうです。
森氏は、「かなりインパクトのある特許のひとつではないか」と話し、これによって「多分、世界で日本が一番セルフレジがある国になる」と胸を張ります。セルフレジとして、現金でも、(機能が搭載されていれば)ICカードでも購入できますし、お釣りも出せます。
おごり自販機もボスマートも、「導入費、月額費も不要のサービス」であり、導入コストも最小化されています。現金管理も不要ですし、商品や代金の管理も、飲料の補充と同時に行われるので、手間もかかりません。設置されるオフィスの社員にとっては、外出して買い物をする必要もなくなります。
2021年にはテスト導入として8,000台が設置され、2022年には12,000台が目標。結果として、食品の売り上げが加わったことで、飲料と食品の売り上げは全体で約2割の増加となったそうです。
自販機+健康
最後のテーマが健康です。ガラス工場のように作業場の温度が常に高いような現場は数多くあります。そこで導入したのが「DAKARA給水所」という名の自販機。同時に、法人専用の「DAKARA PRO500ml」も開発して、1日2リットルを飲むような人でも糖分などが取りすぎないような設計をした熱中症対策飲料を投入しました。
DAKARA給水所には、専用カードをタッチする「インパネ」が設置されており、カードをタッチすると会社指定の商品であれば無料で飲むことができます。これを使うと、カードを使った情報を会社が管理することができるので、熱中症対策で適切に水分を取っていたことが見える化されます。
飲料自体も熱中症対策飲料として工夫しただけでなく、自販機自体も工夫したのが特徴です。2023年で100カ所(100台)の設置を目標にしているそうです。
今回はDAKARA給水所という形をとりましたが、仕組み自体は応用が利いて、ホテルなどのウェルカムドリンクや来客用の自販機などといった使い方も可能とのことです。
前回とりあげた日本コカ・コーラと今回とりあげたサントリーは、飲料自販機を進化させるという狙いは共通していますが、その方向性は異なります。コカ・コーラはネットワークが前提のサービスでキャッシュレスやユーザーの利便性向上など一般ユーザーの利用促進を狙います。ネットワークに関してはコストをあまりかけないような仕組みで、スマートフォンとBluetoothで接続するため、通信はスマートフォン側に任せるようになっています。
サントリーは法人市場を狙います。コンセプトを重視したサービスを投入することで、法人市場での存在感を高めて利用を促進する方針です。サービス自体はローカルで実行されるため単独で動作。キャッシュレス対応に関しては、ニーズが高まっているとことは認識しており、場所などの条件に応じて設置をしていく考えです。
キャッシュレス化の方面から攻めるコカ・コーラに対して、法人需要の拡大をサービス面で押さえようとするサントリー。どちらも、単純な自販機の拡大には限界があるため、利用頻度を高める方針は共通していますが、それぞれ異なる戦略を打ち出しています。自販機の世界は、今年も新たな進化を遂げそうです。