無人店舗や無人レジなど、さまざまな無人技術が広がっている中、住友商事が「タンスマ iPhone自動買取サービス」というサービスの実証をスタートしました。これはiPhoneの中古端末を、数分で査定して無人でも買い取りをしてくれる、というサービスです。住友商事の担当者に、どんなサービスなのか聞いてみました。
今回話を聞いたのは、同社のスマートサービス第一ユニット スマートデバイス事業チーム長の小谷豪彦氏と、スマートサービス事業開発ユニット スマートデバイス事業チームサブリーダーの大石俊氏です。
福岡県内13カ所で実証実験中
もともと住友商事は、中古スマホのフリマ出品代行サービス「タンスマ」を提供しています。今回の無人買い取りサービスは、フリマに出品して購入を待つのではなく、自動でAIが査定して中古端末を買い取るため、その場で即座に買い取り価格が確定して、数日後には入金が行われる仕組みになっています。
現時点では福岡県内のディスカウントストア「ミスターマックス」の店舗やショッピングモールなど13カ所で実証実験中という状態。この実証実験は10月末まで行う予定です。
最初は都内で実証実験を行なおうとしたものの、設置コストの高さや設定したターゲット層に合わせると都内で分散しすぎてしまうといった懸念があり、よりコンパクトな福岡エリアでのテストになったとのこと。福岡は関東の1/10の人口規模ながら人口動態が似通っており、テストマーケティングがしやすい土地なので選択したということでした。
ちなみに、都内でも住友商事の本社内には回収機が設置されており、社員が持ち込んで買い取りできるようになっているそうです。
実証実験の目的としてまずニーズの掘り起こしがあります。現在の携帯キャリアの端末販売手法だと、残価設定型の分割支払いで2年後に端末を返却する代わりに残価の支払いを免除してもらうというパターンが主流です。
このやり方だとキャリアの元に中古端末を集約する形になるため、手元に端末が残らないというユーザーが多くなりますが、結果的に4年間の分割払いを選択して、手元に端末が残る人も一定数はいます。
その場合でも端末を下取りに出すなどして買い換えることは可能ですが、画像などの各種データの移行が面倒なので残しておく、家族に譲るといったパターンもあります。そういった結果、一定数のスマホが家庭内に眠っていることになります。
この眠っているスマホ、タンス預金ならぬ「タンススマホ」は年間900~1,000万台規模になり、現在までの累計では3億台になると住友商事では試算しています。そのうち、iPhoneの比率は40%前後と考えられるそうです。
こうした死蔵されている中古端末に関しては、2022年に伊藤忠商事がコンビニエンスストアで1,000円相当のクーポンと引き換えに端末を回収する事業の実証を行なおうとしたのですが、これは端末を問わず受け入れようとしたこともあって持ち込みが殺到し、開始直後に中止となりました。
小谷氏も「面白いエポックメイキングな試み」とこの試みを評価していましたが、この実証が中止となったことを受け、改めて住友商事では端末をきちんと公正に査定する仕組みが必要だったという判断に至りました。そのうえで、無人でAIによる査定とすることで、より手軽に中古iPhoneを回収できるようになると見込んでいます。
今回の「タンスマ」用の機材は、AHS DEVICEの回収機を採用。同社は中国で中古端末の回収・再販を行っており、年間3,000万台という実績があるため、査定のためのデータを豊富に持っている点を評価しているそうです。
「タンスマ」以外にも、同様の回収機を設置しているところはあるそうですが、すでに中古買い取りを行っている店舗で査定を省人化する目的で設置されているのが基本のようです。つまり、すでに中古端末を売りに来ている人をターゲットとしているわけです。
それに対して「タンスマ」では、日常的に訪れるスーパーなどに回収機を設置し、買い物目的で来店した人がそれに気付いて次の機会に売りに来る……というように、回収機の設置により気づきを促して誘導することを狙っているというのが大きな違いのようです。
実際の利用方法
それでは「タンスマ」の回収機で買い取りを行う手順をみていきましょう。
実際の査定では、機種や容量、カラー、キャリアなどを指定すると、まず買い取り上限額や平均買い取り価格が表示されるので、それを踏まえて査定を行います。
回収機のケーブルに接続すると端末の状態が確認され、その後は回収機とWi-Fiで接続します。
Wi-Fi接続後は、回収機の指定位置にスマートフォンを置きます。これで外観のチェックが行われます。しばらくするとゴトンという音がしますが、これは中で端末を裏返しているとのこと。
内部にはカメラが4つついていて、外観全体のチェックが行われます。その後、AIが外観の傷のチェックやバッテリーの状態、ネットワーク利用制限などを確認していきます。
そして最終的に査定項目が画面上に表示されます。減額査定があるとその項目は赤く表示され、なぜこの買い取り価格になったのかが明示的に分かるようになっています。
画面上に表示された査定金額を確認し、問題なければ買い取りを確定します。確定するとLINEの公式アカウントへのQRコードが表示され、アカウントを友だち登録して本人確認した上でLINE Payや銀行口座に振り込む……という形になるそうです。
ただし既報のとおり、LINE Payは2025年4月いっぱいでサービスが終了することになっており、それに先立って2024年12月下旬には送金サービスが終了する予定になっています。「タンスマ」の実証実験は10月末までなのでひとまずはカバーできますが、そのまま本サービスが開始した場合は問題になるため、現在はPayPayの利用について確認しているところだといいます。
いずれにしても、実際の査定自体は10分ほど。買い取りを確定するとそのまま端末は回収されるので、あとはLINEから振込の設定を行うことになります。
下取りか、買い取りか
今回はあくまで実証実験ということですが、ある程度の成果が見えたれば本格展開も検討するといいます。Androidスマートフォンへの対応も検討しているそうですが、まずはiPhoneの買い取りが成立しないと事業としては成り立たないとのことで、それが実現すればAndroidにも対応していきたいという考えだそうです。
現状では、iPhone 5から査定に対応しています。こうした古い端末も海外の一部ではニーズがあるそうで、日本だけでなく海外にも展開できるところが強みでしょう。また、回収機のディスプレイに広告物を表示することもできるそうで、スーパーやショッピングモール内に設置してその広告を表示することを想定しているそうです。
1カ月で1台の回収機につき30台程度は回収したい、というのが住友商事の目標。5月以降は毎日買い取りができている傾向だそうで、認知度の向上に伴って利用が伸びているとのこと。
中古買い取りが一般化すると、新機種の購入時に下取りに出すという使い方をする人も増えそうですが、「タンスマ」だと一般的な下取りよりは高い金額での買い取り価格になり、現金での支払いになるというメリットがあると言います。
そもそも「毎年iPhoneの新機種が出るたびに中古買い取りを利用して新機種に買い換えている」といった玄人層はメインのターゲットではなく、下取りや中古買い取りについてあまり認知していないようなユーザー層がターゲット。iPhone 5以上と、比較的古い機種も対象にしているのは、それも理由のひとつになっています。
「タンスマ」が本格的な事業として展開できるかどうかは10月末までの成果を見なければなりませんが、それなりに長期の取り組みをしてみないと成果は分からないのではないかと感じました。最近では端末価格も高騰しており、キャリアやメーカーの下取り、中古ショップの買い取り、そしてこの「タンスマ」と、ユーザーとしては複数の手段を比較してお得に機種変更を目指すのが良さそうです。