「次世代の提携クレジットカード」をうたうナッジと、決済プラットフォームなどのインフラを提供するTISが業務提携して、「ライト版クレジットカードプロセッシングサービス」を開始しました。この両社の協業がもとらすメリットとは何か、両社に話を聞きました。
数十万会員のクレジットカードが発行できる
ナッジは、自社でクレジットカードサービスを提供するベンチャーです。それに加えて「クラブ」と呼ばれる、いわゆる提携クレジットカードのような、企業/団体/アーティストなどのブランドのクレジットカードも発行できます。
すでに多くのスポーツチーム、芸能人・アーティスト、アニメ、自治体などが「クラブ」として参加して、それぞれのブランドのクレジットカードが発行されています。「推しを応援」という表現もされていますが、そのクラブのカードを使うことでカード利用額の一部がクラブに還元されるため、日頃の買い物などでクレジットカードを使うだけで「推し」に貢献できるという触れ込みです。
クラブ側が特典を用意している場合もあるので、利用者側もファンならではの楽しみが受け取れます。一般的なクレジットカードのようなポイントや還元はないのですが、新しい売り手と買い手の関係を構築できる仕組みといえるでしょう。
最大の特徴が、初期費用や運用費用が無料で、最少1枚からカードを発行できるという手軽さです。今までも、イオンのような小売事業者、JR東日本のような鉄道事業者、NTTドコモのような携帯事業者といった超大手の企業であれば、自社のクレジットカードを発行できましたが、それよりも小さな企業や団体、個人のアーティストでも発行できるクレジットカードの仕組みを提供しているのがナッジです。
逆にTISは、超大手の企業が提供するクレジットカードサービスの裏側を担ってきました。たとえば、前述したドコモのクレジットカードであるdカードは、TISが提供しているシステムです。
このdカード向けにTISが提供しているのが、まさに「クレジットカードプロセッシングサービス」です。クレジットカードのイシュア(発行会社)として必要な機能を提供しており、これを採用することで各社のニーズに応じたカード事業を展開できるようになります。
もともとTISはこうしたクレジットカード向けのサービスを提供してきましたが、「個別にカスタマイズして開発してきた」と言います。その開発による知見が蓄積されたことで、クレジットカードのシステムをSaaS的に提供するようになりました。結果として市場にある8割ほどのVisaデビットのシステムやTOYOTA Walletの裏側で、TISのシステムが稼働しているとのことです。
そうして提供されたのがTISの「PAYCIERGE」(ペイシュルジュ)サービスです。デビットカードやプリペイドカード、クレジットカードの発行、QR決済の導入など、ニーズに応じてサービスを提供するSaaS型のサービスとなっており、その1つのメニューがクレジットカードプロセッシングサービスです。
このクレジットカードプロセッシングは、クレジットカードに関するフルスペックのサービスを提供するというもので、ドコモのdカードのように大がかりな投資が必要である反面、一から金融/決済システムを構築する必要がないため、新興の決済事業者などが参入しやすくなります。新興のクレジットカード事業者でいえば、例えばメルペイのメルカードが成功例にありますが、こうした数百万以上の会員が狙えるような大規模な事業者に適したメニューです。
それに対して、今回TISとナッジが協業したのが、PAYCIERGEの1サービスとしての「ライト版クレジットカードプロセッシングサービス」です。フルのクレジットカード事業を展開するのは困難だけれど、一定のユーザー数が見込めるといったニーズに応えるサービスだとしています。
もともとナッジは、TISのPAYCIERGEの中からVisaネットワークへの接続機能を利用しているそうです。それ以外のUIやUXを含めた多くのカード事業向けの機能は独自に実装したものだと言います。
こうした機能の作り込みにはノウハウも必要で、そうした金融事業の基盤がない事業者でも、TIS側でもスマホでカードを発行していつでもスマホで残高を返済できるといったナッジの仕組みに注目していて、今回、提携してTISのメニューとしてサービスを構築したとのこと。
提供されるのは、ナッジと同様にスマホ完結型のUI・UX、自由な返済といった、比較的ユーザーの利用頻度の高いサービスや利便性を考慮した機能に絞ったサービスになります。
「フルサービスに対するライト版サービス」の位置付けですが、単純にフルのサービスを省略したのではなく、ナッジがサービスを構築するにあたってそぎ落として厳選した機能をライト版として提供するイメージです。
マイクロサービスとして構築されているため、機能の一部を追加したりカスタマイズしたりも可能で、例えばスマホアプリだけでなくPCからもWeb明細を取得できるようにしたい、といった個別のニーズにも応えられるそうです。
繰り返しになりますが、こうしたライト版サービスが適しているのは、一定の会員数が見込めるけれどもフルのクレジットカードサービスまでは対処できない、という規模の中堅事業者だと見込まれています。数十万規模の会員数になれば事業性が成り立つというのがライト版の位置づけだと、両社は言います。例えば地方で10数店舗を抱えるスーパーや、小規模の鉄道事業者などの規模感でしょうか。
地方のスーパーでは、オリジナル電子マネーを導入している事業者もあります。この場合、導入が容易で利用客側もポイントカードの延長線上で気軽に使えるので利用頻度が高いというメリットがあります。さらに基本的に残高をすべてそのスーパーで使うことになるため、キャッシュフローが事前に入るという特徴もあります。ただ、小規模でも導入しやすい反面、直接の利益が出る仕組みではありません。効率化やデータマーケティングに繋がる場合もありますが、利用も基本的には自社グループ内にとどまるため、外部利用のデータなどは得られません。
それに対してクレジットカードの場合、カード利用による手数料収入が増えるという点でメリットがあります。例えば丸井のエポスカードは、自社店舗での利用に比べて圧倒的に社外での取引が多いそうです。イオンカードはイオンでの利用は多いものの、使い始めるとそれ以外の場所でもイオンカードが使われるようになっているし、青山商事のAOYAMAカードも収益率は高いそうです。
そうした金融収益について、これまで一定規模が得られないので諦めていたような事業者でも、ライト版の登場で新たな収益源を狙うことができるというわけです。
ナッジのクラブは収益の点ではそこまで大規模にはなりませんが、リスクなく参加できるため、小規模でも安心できます。それに対して、金融事業として自ら主体的に取り組みたいが、大規模な会員数は見込めない――という事業者がチャレンジできるようになる、というのが今回の仕組みです。
これによって、よりライトなクレジットカード事業としてのナッジのクラブ、もう少し規模が大きい金融事業に本格参入できるライト版クレジットカードプロセッシング、そしてフルのクレジットカードプロセッシングという3種類のメニューが用意できることになり、ニーズに応じてそれぞれを提案できるようになりました。
このライト版クレジットカードプロセッシングサービスは、「地元で強い」「固定ファンがいる」というような事業者が、クレジットカード事業による新たな可能性を模索できる、そんな取り組みに成長するかもしれません。