Revolutが日本でのサービスを強化しています。当連載でも第34回でその事業の背景を取り上げましたが、最近になって新サービスの提供もはじまっています。

今回は、今後の計画や戦略について、REVOLUT TECHNOLOGIES JAPAN代表取締役の巻口クリスティナ蓉子氏に話を聞きました。

  • 巻口クリスティナ蓉子氏

    REVOLUT TECHNOLOGIES JAPAN代表取締役の巻口クリスティナ蓉子氏

ラテン文字以外の初めての市場、日本

Revolutは2015年の創業以来、順調に事業を拡大し、時価総額は約3.6兆円規模になっています。グローバルではスマートフォンや物理カードを使った決済、外貨両替、ATM引き出し、貴金属取引、国内外送金、暗号資産取引、クーポンなどの金融サービスを提供しています。

全体の利用者は4,000万人。ビジネスアカウントは50万、月間トランザクションは5億、各種サービスの対応国は150カ国以上となっています。本国の英国に加え、欧州や米国、オーストラリアなどで事業を展開しています。

もともとネオバンクやチャレンジャーバンクと呼ばれる新興の金融サービス事業者でしたが、EU諸国では銀行免許を取得しており、オーストラリアでも銀行免許の申請をしていると巻口氏は説明します。やはり、欧州でも一定の信頼感を得るためには銀行免許が有効なようです。巻口氏は、日本でも銀行免許を取得したい意向を示しています。

サービス内容の面でも、日本では海外に比べて提供が遅れています。原因の1つとして巻口氏は言語的なバリアを上げます。日本はたいていの物事が日本語で完結してしまうために英語の必要性が諸外国に比べて薄く、日本語対応が必須になります。

「Revolutとして、ラテン文字(=アルファベット)を使わない最初のマーケットが日本です」と巻口氏。日本語でアプリやサービスを提供し、カスタマーサポートも準備しなければなりません。巻口氏は、こうした取り組みに3年間をかけたと話します。今では、ポーランドにあるというコールセンターで24時間365日のサポートを日本語で提供できるようになりました。

ちなみに、このコールセンターが置かれているクラフクで、日本向けに3人が雇用されているとのこと。日本と漫画が好きな従業員だそうです。

ジュニア向けや旅行保険、「みんなの銀行」との連携も

こうして体制を整えていたRevolutですが、連載第34回でも触れたように、2022年10月には金融庁からの業務改善命令が出されました。これは国内の体制作りが遅れていたことでマネーロンダリング対策が不十分だったとみなされたからです。

これに対しては、英国本社のCEOであるニコライ・ストロンスキー氏にも状況を報告し、巻口氏に対応が一任されたそうです。現在は体制を強化したことで処分は解除されており、体制作りが整ったところです。

そうした状況もあって、同社は今後日本国内でのサービスを強化していく方針です。

2023年10月に日本でのサービス提供3周年を迎え、まずは10%のキャッシュバックキャンペーンや「みんなの銀行」が提供する「Circle」との連携、HIS店舗での紹介パイロット施策、「みんなの銀行」とのタイアップキャンペーンといった利用拡大に向けた施策を矢継ぎ早に展開しています。

そして3月18日には「カスタマイズカードサービス」を開始しました。これは、無料のスタンダードプランにおいて、手描きのイラストや言葉を書き込んだ物理カードを発行できるサービスです。もともとプレミアム/メタルの有料プランで利用できたサービスでしたが、スタンダードプランでも手数料700円でカスタマイズ可能となりました。3月18日からは期間限定のカスタマイズカードキャンペーンにより、一定の条件を満たせば実質無料(手数料分をキャッシュバック)でカスタマイズカードが作成可能です。

  • カスタマイズカードのサンプル

    カスタマイズカードサービスでは、手書き文字などをプリントしてカードが発行でき、オリジナリティのあるカードが保有できます

次の戦略として巻口氏は「ジュニア向けサービス」を紹介します。グローバルでは「<18」という名称で、6歳~17歳向けに提供されているサービスです。子供専用の物理・デジタルのカードを発行して決済に利用できます。子供用アカウントで金銭を管理することができ、保護者がおこづかいを送金するなどして残高にチャージして利用します。

こうしたサービスはすでに英国を始めとする欧州や米国/豪州/シンガポールでの提供が行われており、日本でもこれまで提供を計画しつつ実現できていなかったサービスとのことで、今夏にも提供予定とのことです。

また新サービスというわけではありませんが、5月には「一部のクレジットカード・デビットカードでチャージ手数料を撤廃します」と巻口氏。この種の手数料は海外では低額に抑えられており、例えば「英国ではインターチェンジフィーがデビットカードで0.2%、クレジットカードで0.3%」という具合だそうです。それが日本では、業種業態によっても異なりますが2~3%近い数字になっており、Revolutではクレジットカード・デビットカードでのチャージに対して1.7%の手数料が課せられるようになっています。

ただし、これを解消するための取り組みを続けているとのことで、5月には一部のクレジットカード・デビットカードでのチャージ手数料が撤廃されることになったそうです。継続して他のカードにも拡大したい考えですが、それには「時間がかかります」と巻口氏。

  • 現在の手数料に関する規定。入金(チャージ)の際の1.7%の手数料について、「一部」のカードでまずは手数料を撤廃するとのこと。どのカードが対象になるかは後日発表するそうです,現在の手数料規定

夏のタイミングでは、さらに旅行保険のサービスも提供、ショッピング補償保険も提供を開始するそうです。これは有料プランのプレミアムとメタルに付帯する形での提供になるといいます。

同じく初夏には、「みんなの銀行」との連携を強化。更新系APIを使った直接連携に乗り出します。これによって、「みんなの銀行」の口座から、即時で手数料のかからないチャージが簡単にできるようになります。従来通り楽天銀行との連携もありますが、「みんなの銀行」で口座を持っていればより簡単にチャージできます。

他にも寄付サービスを夏をめどに提供する予定とのことで、様々なサービスを提供していく計画のようです。

日本特有の文化を理解し、新サービスを提供

前述の通り、Revolutとしては日本での提供にチャレンジがあります。言語的なチャレンジでいうと、アプリ内に翻訳の誤りが見つかっても、本国との変更対応で時間がかかる場合もあるそうです。

規制当局への対応も必要で、グローバルの機能を日本で提供するのに時間がかかる場合もあるといいます。各国に新サービスを展開するにあたって、日本に向けの開発に半年分のリソースを確保して、多少提供時期が遅れても展開できるよう取り組む方針になったと巻口氏は説明します。。

「本社も日本市場の難しさを理解するのに時間がかかりました」と巻口氏。CEOのニコライ・ストロンスキー氏も、来日した際に日本の商習慣や文化の違いを目の当たりにして、日本向けの対応が必要な点を理解してくれたとのこと。巻口氏はさらに日本向けのサービス提供に注力するとしており、今後も期待できそうです。