筆者は2023年に、中国・深セン、香港、韓国ソウル、英ロンドン、蘭アムステルダム、ポーランド・ワルシャワ、仏パリ、独ケルン、独フランクフルト、スイス・ベルン……とさまざまな国を巡りました。

  • ベルン市街

    スイス・ベルンにあるベルン大聖堂からベルン市街を見下ろす

当連載でもワルシャワ(第20回)、香港・ロンドン・アムステルダムまとめて(第23回)、ソウル(第28回)、深セン(第32回)、パリ(第35回)といった具合にそれぞれの土地のキャッシュレス事情を取り上げてきました。深センでは鉄道に乗車はしませんでしたが、改札の様子を見た動画を撮影しています。

というわけで、ここでは残るドイツやスイスの公共交通機関におけるクレジットカードのタッチ決済の状況を紹介していきます。

  • フランクフルト中央駅

    フランクフルト中央駅。ドイツの鉄道駅らしいイメージです

信用乗車とキャッシュレスは相性が悪い?

ドイツでは、無人店舗やスマートストアを探してフルダ、ケルン、フランクフルトを訪問しました。

  • フランクフルト近郊の都市フルダ

    フランクフルト近郊の都市フルダ

  • tegut... teo

    フルダにたくさんあった無人店舗「tegut... teo」。クレジットカードのタッチやアプリで入店し、店内のセルフレジで購入する商品を読み込んで退店するタイプ

いずれも公共交通機関でのタッチ決済には非対応でした。ドイツはもともと、日本と同様にキャッシュレス決済が出遅れていた国です。そのため、公共交通機関でのタッチ決済が進展していないのは予想通りでした。

  • フルダ駅

    地味なフルダ駅。このままホームまで進んで乗車できる信用乗車。タッチ決済も何も、そもそも改札がありません

ケルンでは、コロナ禍前には現金のみ対応だったビアホールがキャッシュレス決済に対応したりはしていたものの、ローカルの有名店はいまだに現金オンリーだったりして、キャッシュレス化は進んでもまだまだ不十分という印象でした。

  • ケルンのビアホール「fruh」

    ケルンのビアホール「fruh」。この連載の第1回で取り上げたお店です

  • 「fruh」で使われていたハンディ端末

    「fruh」では店員がハンディ端末で決済を行うようになっていました

  • Gaststätte Lommerzheimのポークチョップ

    ケルンにある、分厚いポークチョップで人気(らしい)お店「Gaststätte Lommerzheim」。このお店は現金のみ

  • 現金のみの掲示

    「カードは使えない、現金のみ!」の掲示

  • ケルン大聖堂

    こちらはおなじみケルン大聖堂

  • ケルン大聖堂の寄付受付

    ケルン大聖堂は寄付がクレジットカードになっていました。ドイツでもキャッシュレスが進展していることをうかがわせます

ドイツでは基本的にはクレジットカードが使えるのですが、例えばフランクフルトでは、ホテルのコインランドリーは現金のみ。それは仕方ないとして、宿泊したホテルがおなじみ東横インだったのでしゃぶしゃぶを食べたのですが、バーカウンターで注文したときは現金のみと言われ、「現金がない」と言ったらホテルフロントでカード決済ができたという感じで、油断できません。

公共交通機関は基本的には紙の切符でした。ドイツは一般的に信用乗車の国で改札はなく、検札が回ってくるので切符を見せて確認する形です。駆け込み乗車もできてしまうものの、切符がないと罰金が重いのできちんと購入すべきところ。

今回、フランクフルトからフルダは1時間ほどの旅程なので高速鉄道のICEを使いましたが、切符購入には手間がかかります。券売機では行き先の駅をきちんと指定して、出発時間を指定して、(必要ならば)座席を指定して……という新幹線の予約のような作業が必要です。

市内交通の場合はゾーン制なので、目的の場所がゾーンに含まれるかどうか確認できれば1日交通券などを買うという手もあります。ケルンではツーリスト向けの1日交通券権(紙のチケット)を購入しました。ただ、複数のエリアを転々とするのでなければ、毎回買う方が安上がりという可能性もあります。

このあたり、やはりロンドンの上限キャップ制にメリットを感じます。ロンドンでは、クレジットカードのタッチ決済で乗車ができて、1日の上限金額以上は課金されないので、1日乗車券で悩む必要もありません。ゾーンで悩む必要もありませんが、気付かずにゾーン外に出て思わぬ電車賃になるというケースはありえます。ただ、利便性の高さでは圧倒的にクレジットカードのタッチ決済に軍配が上がります。

スイスは、ヌーシャテルや首都ベルン、ジュネーブの移動をしましたが、こちらもタッチ決済には非対応。券売機で切符を購入しようとしましたが、駅名が分かりづらいので、結局窓口で購入。片言の英語で駅名がうまく通じず、危うく別の目的地の切符を購入することになるところでした。

  • ヌーシャテルの湖畔

    取材で訪問したヌーシャテルの湖畔

  • ヌーシャテルを走るトラム

    ヌーシャテルを走るトラム

スイスも基本的には信用乗車のようで改札はなく、検札が来たら切符を見せるという形になるようです(今回は検札に遭遇しませんでした)。

  • ヌーシャテル駅

    ヌーシャテル駅。信用乗車なのでそのままホームまでこれてしまいます

こうした経験を経ていると、やはりタッチ決済で乗車できるのは便利。ただ、クレジットカードのタッチ決済は入退場でタッチが必要になるため、信用乗車と相性が良くないとは思います。

  • ベルンのトラム

    細い道をトラムが走るベルン

  • チューリッヒのトラム

    スイスはトラムをよく見かけました。これはチューリッヒ

実際、オランダではもともと信用乗車を行っていたようですが、クレジットカードのタッチ決済対応で簡易的な改札を設けている駅もありました。信用乗車の国でも、例えばドイツ・ベルリンでは乗車時に切符に乗車日を示す刻印を打つ必要があり、それを応用すればタッチ決済対応は難しくないように思えます。

  • チューリッヒのトラムの券売機

    チューリッヒのトラムの券売機

欧州の場合、簡単に国をまたいだ移動ができてしまうため、タッチ決済でICEに乗車してお隣の国まで、というような乗り方は難しいところ。日本だと新幹線でJR東日本エリアからJR東海エリア/JR西日本エリアへ移動する場合の面倒に似ているのかもしれません。

日本では、クレジットカードのタッチ決済導入における課題として他社鉄道が乗り入れる相互直通の問題があります。欧州では国境を越えての相互直通が問題となるため、当面は都市内の公共交通機関での利用にとどまりそうです。

  • ユーロスター

    パリから走るユーロスターでケルンまで陸路移動できます。これはもともとThalysと呼ばれていた高速鉄道です

各国でタッチ決済対応改札機が導入されれば、原理的には国をまたいだタッチ決済乗車も可能ですが、オンラインで購入した電子チケットをクレジットカードに紐付けて検札のハンディ端末にタッチする、といったSuicaで新幹線に乗るようなパターンが簡単でしょう。

そういった仕組みはすでにあるのかもしれませんが、現時点では筆者は見たことがありません。現状でもスマートフォンの画面を見せたりQRコードを読み取ったりというパターンはありますが、スマホのタッチが一番簡単なので、色々なところで登場することを期待したいところです。