マイナンバーやマイナンバーカードにまつわる複数の問題が発生しているなか、マイナンバーに関する情報誤りなどを検証する政府のマイナンバー情報総点検本部の第5回会合が開催されました。
おおむね総点検が完了したことで、マイナンバーの紐付け誤りなどの数が出揃いました(確認中のものもあります)。対象となったのは紐付けが適切でなかった332の自治体と1労働基準監督署で、個別データの点検対象は実に8,208万件。
これだけのデータが改めて精査されたことで、怪我の功名というか、潜在的な問題の解消にもつながり、今後の行政分野のDX化の進展に繋がることを期待したいところです。
0.01%の紐付けミス
マイナンバー情報総点検本部の資料によれば、点検対象の中で本人確認作業が終了した件数は8,206万件、99.9%に達しています。
そのうち、健康保険種情報は1,571万件のうり1,142件(0.007%)で紐付け誤りが判明しました。全体としては0.002~0.380%という程度の紐付け誤りで、割合の最少は5,622万件中の1,186件(公金受取口座情報)や507万件中の119件(共済年金情報)、最大は263件中の1件(労働者災害補償給付情報)といった具合。トータルでは8,208万件中8,351件(0.010%)の誤りでした。
多いか少ないかで言えば少ない数です。もちろん誤りは少なければ少ない方がよいですし、システム化できていれば減らせた数ではあります。とはいえ、「紐付け誤りはゼロでないと許さない」というのは考え方次第でしょうが、各事務を担当する行政機関は、手間のかかる作業をミスも少なく実行してきたという印象です(マイナンバーをなくせばいいという話は別議論なので今回は言及しません)。
紐付け誤りが発生した原因は、逆説的ですが「マイナンバーがないから」です。マイナンバーを提出しない、または提出されたマイナンバーが間違っていた、そして家族のマイナンバーと取り違えた、というもの。マイナンバーが正しく提出されていれば、紐付け自体は効率的に実行できます。むしろ自動化できる部分なので、間違いは最小化できるはずです。
世の中のオンラインサービスに加入してみると分かりますが、多くのサービスで住所・氏名・生年月日・性別という基本4情報を登録します。個人を区別するには4情報があった方が確実だからです(性別で「その他・回答しない」という選択肢があるような場合もありますが、「その他・回答しない」という回答データが存在します)。
民間企業のサービスですらこういった情報が必要なのですから、行政機関が個人を同定するには同様の情報が必要でしょう。それにも関わらず、マイナンバーがなく、基本4情報に足りない2情報だけの状態でJ-LIS照会を行ったことで紐付けを誤ってしまった、ということのようです。
マイナンバーさえあれば、究極的には名前さえなくても正確な紐付けができます。つまり、「マイナンバーの紐付け誤りをゼロに近づけようとすればするほどマイナンバーの重要性が増してくる」ということになります。
健康保険証自体に誤りも
象徴的なのは、総点検の中で判明した「健康保険証の誤り」です。「マイナンバーとの紐付け誤り」ではなく、健康保険証に登録された情報自体が間違っていた、というものです。
紐付け誤りに端を発して、マイナンバーカードと健康保険証の一体化(マイナ保険証)による既存健康保険証の廃止に不安の声が上がっています。そうした状況を踏まえて厚生労働省は、健康保険証の詳細な検証を実施。住民基本台帳の情報と突き合せてのデータ確認が行われました。
ご存知の通り、住民基本台帳は「住民票」を扱う行政機関の基本データです。その住基台帳は健康保険証のベースになっているので、当然一致している――はずなのですが、不一致が139万件以上も発見されました。
「健康保険証の情報が誤っている」というわけで、この不一致したデータに関して、先行して確認した5保険者146万加入(不一致データ数は少数)における紐付け誤りは17件(0.001%)でした。ちなみに、双子が4組8件、家族内取り違いが2組4件あったそうです。
健康保険証情報の紐付け誤りの確認では、約1,571万件が点検対象で1,142件の紐付け誤りが発見されました。このうち、不一致データ139万件からは450件の紐付け誤りが発生したとみられています。
逆に言うと健康保険証情報自体、つまり紐付ける情報が誤っているのに正しいマイナンバーを紐付けた例が139万件あり、450件だけ間違ってしまった、という結果です。情報の誤り自体は純粋な届出間違いから、例えば「髙橋(はしごだか)」と「高橋」の違い、住所の表記揺れ、住民票の住所と保険者に申請する居住地の住所違い、などがあったようです。
いずれにしても、こうした違いが紐付け誤りにも繋がりますし、今後のDX化にも悪影響があります。
オンラインならマイナンバーカードをスマートフォンにタッチして読み取ったマイナンバーや基本4情報を提出する、窓口なら読み取り機にタッチして提出する、という手法であれば、提出側も紐付け側も誤りを最小化できるでしょう。
マイナンバーカードの仕組みとして券面入力補助APがあり、これを活用すればこうしたことは可能なはずです。実際、「マイナンバー登録のデジタル化」として、スマートフォンによってカードからマイナンバーを読み取って登録する手法が検討されています。
ただ、12月15日からスタートした「顔認証のみ」のマイナンバーカードだと、スマートフォン経由は難しく、恐らく窓口でないとデジタルでの提出ができなくなるので、スマートフォンを活用したい場合はその辺りも踏まえて「顔認証マイナンバーカード」を選択した方がいいでしょう。
いずれにしても、紐付け誤りだけでなく健康保険証の情報誤りも修正されたということで、今後の行政DX化のベースがようやく揃ってきました。いったん紐付けられれば、今後住所変更の場合も住民票届出でマイナ保険証の住所は自動的に変更されるなど、DX化に繋がっていきます。
MMD研究所の調査ではマイナンバーカードの保険証利用をしている人が17.1%で、2021年は5.4%だったため順調に増加しているようです。
即座に利用が増えるものでもないですし、まだサービス内容やUI、UX面では課題があるので、一気に普及することはないでしょうが、ベースとなるカード発行枚数は累計9,700万を超え、普及率は78.8%と「日本で一番普及した身分証明書」になり、データ紐付けも正確になりました。
初回の紐付けとして様々な問題が出てきましたが、データがクリアになったので行政のDX化に向けて一歩前進した形です。他の問題点もありますので、ひとまずマイナンバーとマイナンバーカードの取り組みには今後も注目です。