本連載では、これまでにも海外の公共交通機関におけるタッチ決済の現状を紹介してきました。今回はフランス・パリについて。パリは、日本のSuicaのような交通系ICカードも存在していますが、クレジットカードのタッチ決済には非対応という現状でした。
フランス・パリに飛行機で到着する場合、通常はシャルル・ド・ゴール空港を利用することになるでしょう。今回筆者がパリを訪問したのは2023年9月。市内に出るのにパリ市交通公団(RATP)が運営する郊外線のRERを使い、パリ市内では地下鉄やトラムを利用していました。空港からの移動では、空港内に券売機があるので、ここで切符を購入します。
パリは現在、クレジットカードのタッチ決済による公共交通機関への乗車に対応していません。そのため、まずはチケットの購入が必要になるわけです。今回は券売機で特に並ばずに済みましたが、これはタイミングなどにもよるでしょう。
購入は簡単で、「パリまでのチケット(Tickets to Paris)」を選ぶだけ。券売機はクレジットカードのタッチ決済にも対応しているので、スマートフォン/スマートウォッチのタッチでも購入できます。料金は11.45ユーロ(片道)でした。
パリはゾーン制なので、日本のように一駅ごとに料金が変わるということはなく、パリ中心部のゾーンまでの料金が11.45ユーロです。同じゾーン内であればどの駅で降りても構いません。紙のチケットなので、日本のように改札機に投入して乗り込みます。
ちなみにこの最初の空港駅でいきなりスリに狙われました。ここは警戒していたので撃退して事なきを得ましたが、スリの多い都市なので気をつけましょう。
いずれにしても乗り込んだら、後は市内に到着するのを待つだけ。先ほど購入した切符でパリ市内の地下鉄も乗車できるので、基本的にはそのまま乗り継いでホテルなどまで移動できます。
パリをはじめとした欧州の都市の場合、都市の中にある公共交通機関は1つの事業者が運営していることが多いため、乗り換えで追加料金が発生することはあまりありません。ゾーン内であれば、電車だけでなくバス/トラム/地下鉄なども乗り降りが可能です。
慣れれば分かりやすく、パリの場合は特に地下鉄やバス/トラムがおおむねゾーン1~3に収まっていることに加え、ゾーンを問わず単一料金(2.1ユーロ)なので、特に迷う必要はなさそうです。
主要観光地でいうとベルサイユ宮殿がゾーン4で、シャルル・ド・ゴール空港やディズニーランド・パリがゾーン5だったりするので、その辺りは注意が必要かもしれませんが、市内中心部を移動する限りは2.1ユーロのチケットを毎回購入すればいいでしょう。
とはいえ、毎回切符を購入するのも面倒ということで、欧州でよくある10回券/1日券などの企画券も用意されています。パリにはNavigoと呼ばれる日本のSuicaのようなカードがあり、改札機にタッチすることで乗車できます。居住者向けには後払い式の「Navigo Liberté +」もありますが、旅行者向けには1カ月/1週間/年間チケット、1日券/1~5日券などのチケットがあります。
もう1つの手段がスマホアプリを使う方法です。それが「Île-de-France(IDF) Mobilités」アプリです。イル・ド・フランス、つまりパリとその周辺エリアの行政区が運営する公式アプリとなっています。
これを使うことで、スマホ上でチケットを購入できるようになります。購入できるのは通常のチケットに加えて10回券など。1回券2.1ユーロが10回券だと16.9ユーロなのでお得に購入できます。
アプリ上に表示されるチケットの種類は限られています。アプリの説明を見る限り、IDF Mobilitésのサイトからアプリを起動して、1日券などを購入することもできるようなのですが、自分の環境では動作しませんでした。今回はきちんと検証する時間もなかったので、とりあえず10回券を購入し、毎回乗るたびに消費する形で利用していました。
購入したチケットはアプリに登録されるので、その状態で改札機のリーダーにタッチをすれば、モバイルSuicaのように乗降ができます。決済はアプリに登録したクレジットカードで行います。会員登録をするとクレジットカードを保存できるので、毎回購入する場合にもさほどの手間はありません。
改札機にタッチしたり、バスやトラムでは乗降口のリーダーにタッチしたりすることで乗車が可能。乗り込んだら目的地で降りるだけです。
タッチ決済に対応していないとはいえ、基本的にはそれほど難しくないのがパリなのですが、面倒なのは確か。スマホアプリもチケットの種類が充実していないのが難点で、1日券/3日券などが購入できると便利なところ。
やはり、会員登録も設定もなしに使えるクレジットカードのタッチ決済はやはり便利です。例えばNavigoの1日券は8.45ユーロで、1回券(2.1ユーロ)を5回買うのであれば1日券のほうが安くなります。クレジットカードのタッチ決済では、英ロンドンのように“1日8.45ユーロを上限とし、それ以降は徴収しない”という方法であれば、1日券を別途開発しなくても、クレジットカードのタッチ決済で同じことができます。
独自の交通系ICカードがあり、クレジットカードのタッチ決済には対応していないという点で、日本の東京圏にも似ている状況ですが、外国人でもスマホで簡単に購入できるなど、まだ日本よりも旅行者フレンドリーな仕組みではあるようです。
今後、パリにおけるクレジットカードのタッチ決済がどうなるかは未知数ですが、すでにNFCのタッチに対応したリーダーや改札機は設置されているので、今後の対応を期待したいところです。