メルペイのクレジットカード「メルカード」が、2022年12月の通常発行開始以来、9カ月で発行枚数が150万枚を超えました。発行枚数自体は非公表ですが、このままのペースだと1年で200万枚の発行を超える可能性もあって好調です。
その特徴として、若者、いわゆるZ世代にも訴求する機能を設けた点が挙げられます。前世代にとって便利な機能ですが、特に若者世代を想定している点が特徴です。実は同様の取り組みで成果を上げているクレジットカード会社もあります。それがナッジで、「推し活」という若者世代にも訴求する方向性が受けているようです。
成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ、クレジットカードの保有で親などの同意が不要になった点も、1つの流れとして影響しているでしょう(詳細は連載第8回をご参照ください)。
若者世代のキャッシュレス事情について、メルペイの山本真人CEO、ナッジ代表取締役の沖田貴史氏の話から考えてみたいと思います。
メルカードとナッジ、Z世代に人気のクレジットカード
メルペイは、QRコード決済やiDのスマホ決済、そして物理カードのメルカードと複数の決済手段を提供していますが、すべての決済の履歴や支払いのタイミングが共通化しています。つまり、どの決済手段を使っても、1つの履歴にまとまり、最終的な毎月の引き落とし(精算)も1回ですみます。
山本氏は、「日本人はクレジットカードにペインを感じている人が多い」という仮説を立てていたそうです。特にZ世代は「サプライズを嫌い、失敗をなるべく避けたい傾向がある」という調査結果を示し、「支払い(精算)が思っていたより高額になった」ことに対する不満があるといいます。
メルペイでは、ユーザーが普段から見ている「メルカリ」アプリで、利用履歴を随時確認できるようになっていて、日々のクレジットカードの残高を確認できます。さらに、メルカリの売上金を使って精算できるという点が大きな特徴です。「不要になったものを売ったお金で、支払いそのものをなくせる。かなりZ世代の使い方にマッチしています」と山本氏は指摘します。
こうした点は、ナッジの沖田氏も同様の説明をしています。メルカードは20歳以上に対しての発行ですが、ナッジはキャッシング機能がないことで、成年年齢引き下げに合わせて高校生を含む18歳以上の発行を可能にしており、より若者世代の利用も増えています。
こうした若者世代は口座引き落としに不安感持っていると、両氏ともに指摘します。一般的なクレジットカードは利用履歴がリアルタイムに逐次見られるわけではなく、明細が見づらいこともあって、どの時点でいくらの引き落としがあるか分かりづらいと考えられていて、使いすぎて引き落とし口座に資金が足りなくなることが不安だというわけです。
ナッジでは、利用履歴を分かりやすく確認できるようにして、口座振替だけでなく、任意のタイミングの振り込みでも返済できるようにしています。メルペイのように売上金を充当するというわけにはいきませんが、毎月指定の日付まで引き落としを待たなくても精算できるようになっています。
社会人のように、毎月同じ日にまとまった金額が振り込まれるわけではない若者の場合、自分の入金事情と一致しないクレジットカードの引き落としに不満があるわけです。ナッジはセブン銀行からの振り込みにも対応していますが、沖田氏によれば、これが馬鹿にならない数の利用があるそうです。若者世代には、アルバイト代が振り込まれたらセブン銀行から下ろしてそのまま一部を精算に使う……といった行動があるようです。
こうした点は、毎日アプリをチェックするメルペイのメリットが大きいところです。山本氏は、「Z世代はメルカリの商品を日々見ているし、出品しているときなら、売れているかどうか、メッセージがないかどうかをチェックしている」と話し、日常的にアプリにアクセスしているとしています。
しかも、「出せば売れると信じている」と山本氏は言います。不要なものは出品すれば何かしら売れるので、「物が売れる前に次の欲しい商品を買う」という行動もあるそうです。実際、Z世代の42.7%が、出品する前に何らかの買い物をしているそうで、メルカリに慣れ親しんでいる彼らにとっては、出品物が売れることはすでに前提になっているそうです。
そして売上は購入代金(クレジットカードの利用料金)に充当することで支払いを減らすのだといいます。その中で利用履歴を確認できるので、「使いすぎ」というサプライズもないわけです。
ちなみにメルカードの利用層は、メルカリの年齢層とほぼ同等だといいます。メルカリは10~20代が36%、30代が22%、40代が19%、50代以上が23%となっており、メルカードを利用できるのは20歳以上とはいえ、若者層が多いことには変わりありません。
もちろん、メルカリでの出品をしている人がメルカードを利用する比率が顕著に高いといいます。これはメルカリ内での利用でポイント還元率が高いことも影響しているでしょう。結果として、メルカードを持っている人の出品も増えているそうです。メルカードの申し込み時点では購入の比率の高かった人が、カード保有後は出品が増えているとのこと。
ただし、「売上金を使ったメルカードの精算は3分の1程度で、一概に売上金を精算に使う人ばかりではない」と山本氏。それでも、「売上金があることを前提に何かを買う、という行動への結びつきがある」といいます。売上がなかったらその商品は買わなかった、ということで、山本氏は「売れることと買う行動が繋がっている」と説明します。
欧米では、若者に人気の決済手段としてBNPL(後払い)サービスが普及していますが、日本ではそれほど普及していません。クレジットカード保有における文化の違いもあるので、一概に海外の決済サービスが日本にも適しているかどうかは難しいところです。日本では15歳以上のデビットカード、18歳以上のクレジットカードと、いずれも作成しやすいので、BNPLを選択する必要がないという面もあります。
そうした点からも、ナッジはキャッシング機能をなくし、スタート時の利用限度額を少なめにするなど、安心/安全面も重視。AI与信を採用しているメルペイもそうした点は気にして設計をしています。
メルカリと違い、ナッジのアプリは若者世代が頻繁にアクセスするものでもないのですが、それに対してナッジはファンミーティングを開催して、Z世代のユーザーの声を集めてサービスを改善。学生によるプロモーションといった工夫に加えて、「推し活」に力を入れている点が特徴です。
ナッジの場合、スポーツチームやアスリート、アーティストなどの「推し」の専用カードを発行し、発行したユーザーには動画やNFTなどの特典が提供されます。カードを利用するとその手数料からナッジがポイントを推しに還元するので、カードを使っているだけで推し活ができるという機能を備えています。
この機能がしっかり受けているようで、2022年には100クラブを突破。ナッジユーザーは平均で3日に1回カードを使っていて、これは20代男女平均の1.6倍にあたるそうです。大学生を主にターゲットに、幅広いデザインを選べるカードも発行して、若者への訴求を図っています。
両社に共通しているのは、見やすい利用履歴、カード利用のリアルタイム通知、いつでも精算できる使い勝手など、安心面を重視した設計といった点。これがZ世代には支持をされているようです。余裕があるときに逐次クレジットカードの利用代金を精算し、安心したいという気持ちは分かりますし、収入のタイミングが一定しないという点で、筆者のようなフリーランスなどにも通じるところはありそうです。
日本ではクレジットカードといえばポイント還元が重視され、その点では全年代とも重視する傾向が高いのですが、年代によって微妙にその重視する度合いも異なるため、単にポイントだけでなく、様々なユーザーに向けたサービス設計が必要なのでしょう。逆に言えばメルペイもナッジも、より幅広い層にアピールできるかが、さらなる拡大に必要となると思われます。