決済/金融の仕組みというのは国によって大きく異なり、文化も制度も違うので一概に評価はできません。欧米とは異なる点の多い日本のキャッシュレス事情ですが、お隣、韓国のキャッシュレス事情もなかなか特殊です。
韓国Samsungが7月下旬、ハイエンドスマートフォン「Galaxy Z Fold5」や「Galaxy Z Flip5」などを発表しましたが、その発表イベント「Unpacked 2023」に参加するために韓国を訪問した際に、現地の事情を見てきました。
世界有数のクレジットカード比率の韓国
もともと、韓国はキャッシュレス決済比率の高い国です。経済産業省によれば2015年で89.1%と、世界でも突出していました(ただし、これはコーポレートカードが多いためとも言われています)。
キャッシュレス決済の主力となっているのはクレジットカードやデビットカードですが、最近はKakao PayやNaver Payといった新興の決済サービスも登場しており、電話番号だけで送金できるTOSS Payといったサービスもあります。このTOSS Payのような送金サービスは、個人店などで使われているようです。
ただ、このTOSS PayやKakao Payなどは、基本的に韓国在住者向けのサービスです。そうなると、やはり海外旅行者としてはクレジットカードの利用がメインになります。
クレジットカードの普及率は高いので、多くの店舗でクレジットカードの利用が可能でした。クレジットカードが普及したのは、韓国政府の政策が理由です。1997年のアジア通貨危機に際してクレジットカードを推進するようになった韓国政府ですが、その背景には脱税防止や消費活性化といった理由もあったようです。「上限30万円で年間クレジットカード利用額の20%の所得控除」「宝くじの権利付与」「店舗でのクレジットカード取り扱い義務づけ」といった施策があったそうで、これによって一気にクレジットカード利用が拡大したようです。
電子マネーとしてTmoneyも存在しています。これは交通系ICとして、地下鉄やバスなどで利用でき、モバイルにも対応。スマートフォンアプリをインストールしてクレジットカードチャージや改札での利用が可能です。コンビニエンスストアなどの対応店舗でも利用できて便利なのですが、クレジットカードチャージでは手数料が必要となります。
タッチ決済対応が遅れる韓国
1999年以降、一気に拡大した韓国のクレジットカード対応ですが、世界的に見てもかなり早いペースでした。結果として、韓国ではその後のシステムの刷新が遅れました。先進国ではありがちなのですが、他国に比べて早く導入したシステムは、より進化したシステムが後から登場して時代遅れになってしまいがちなのです。
韓国の場合はそれがクレジットカードで起きました。そもそもICチップ対応も遅れていた韓国では、EMVコンタクトレス、つまり「クレジットカードのタッチ決済」への対応が遅れています。
欧州ではハンディ型の決済端末が多く、スピーディに置き換えが進みました。米国はIC化が遅れた分、一気にIC化、タッチ決済対応が進みました。それに対して、韓国ではタッチ決済対応があまり進展していません。
実際に店頭の端末を見る限り、IC化はおおむね完了しているイメージですが、タッチ決済は一部店舗にとどまっています。コンビニエンスストアやホテルなど、大きな加盟店が主な対応店舗のようです。小規模店舗ではタッチ決済対応をほとんど見かけず、多くはICまでの対応でした。
結果として、Apple PayやGoogleウォレットのスマホ決済にも非対応です。スマホ決済はタッチ決済と同じ仕組みなので、タッチ決済対応店であればそのまま使えるのですが、そもそも対応店が少ないのです。
最近は、Apple Payのおかげでタッチ決済対応も広がっているようで、店頭のアクセプタンスマークで「Apple Pay」を探すのが一番分かりやすいようです。
また、現地のユーザーであればSamsung Payが使えます。Samsung Payの特殊な機能として「MST」(いわゆる磁気ストライプ)に対応した機能があります。韓国で決済の様子を眺めていると、数人に一人ぐらいのペースで、決済端末の磁気ストライプをスワイプする場所にスマホをかざしている人を見かけます。Samsung Payの利用者でしょう。
決済の様子を見ていると、クレジットカードを決済端末に差し込んで接触IC決済をしている人がほとんどです。Zero Payのような政府主導のQRコード決済もありますが、あまり使っている人は見かけません。だいたい何らかのプラスチックカードかSamsung Payを使っているようでした。
全般的なタッチ決済の対応が進んでいないことから、交通機関のタッチ決済対応も遅れています。基本的にはTmoneyを使うことで問題はなく、外国人旅行者もICカードを購入できますが、チャージは現金。そのため、スマホアプリを使うことでクレジットカードチャージが可能になります。ただし、この「Mobile Korea Tour Card」アプリはAndroidのみの対応で、カード発行手数料やチャージごとに3.2%の手数料が必要になるので、それなりにコストがかかります。
日本では、外国人旅行者がSuicaのような交通系ICを利用しようとすると、海外モデルでもFeliCaに対応するiPhoneぐらいしか端末の選択肢はないでしょう。韓国の場合は逆にAndroidのみとなるようです。
ただ、例えばソウル市内に張り巡らされた地下鉄網は低価格。初乗りは1,250ウォン(135円)で、数駅を乗っても降車時に100ウォン追加されるぐらいですから、コスパは良いようです。
市内ではクレジットカードを使っていてカード利用が拒否されたことはありませんでしたが、同行した日本人記者の中にはカード利用が弾かれた人もいたようです。海外ではたまにあることですが、韓国に限らず複数枚のカードを持っておくと安心できます。
いずれにしても、「クレジットカード天国」の韓国ですが、タッチ決済が広まっておらず、Apple PayやGoogleウォレットなど、スマートフォンやスマートウォッチを使った決済もできないというのは不便なところ。
ただ、基本的にはクレジットカードが使えるという点は便利です。日本の一部店舗のように「現金のみ」や「PayPayなどのコード決済のみ」だと外国人旅行者は手間がかかります。それに比べれば、おおむねクレジットカードが使えるようなので、あまり心配はなさそうです。
今後、韓国でどのようにタッチ決済が広まるか、公共交通機関でのタッチ決済対応に進展するのか、興味深いところです。