神戸市が、市内の公共交通機関に対してクレジットカードのタッチ決済に対応するための補助事業を実施し、市内5事業者がクレジットカードのタッチ決済に対応することになりました。2024年春のサービス開始を予定しています。
鉄軌道/バス/ロープウェイといった異なる交通手段・異なる系列の事業者が一斉にタッチ決済を導入するのは全国初の事例。これによって、神戸市全体のタッチ決済対応の広まりが期待されます。この神戸市の取り組みのインパクトを考えてみました。
空港から六甲山までタッチ決済で移動
今回、神戸市の公共交通機関として、神戸新交通/神戸電鉄/六甲山観光/こうべ未来都市機構/みなと観光バスが補助事業への申請を行っています。対象となる路線は新交通のポートライナー、六甲山のケーブルカー/ロープウェイ、バス、有馬温泉のロープウェイなどで、関西国際空港や神戸空港から市内中心を経由し、六甲山や有馬温泉といった観光地へ至る神戸市全体が対象となります。
実施される補助事業は、市内事業者に対して導入費用の半額を補助するというもので、総額は2億円。今回の5事業者の申請額は6,680万円とのことです。導入するのはおなじみ、三井住友カードらが運営するstera transitです。
先述の5事業者以外の市内事業者には六甲ライナーがありますが、今回は特にインバウンドをターゲットにした事業であり、基本的に沿線住民向けである六甲ライナーは対象となっていないそうです。神戸市営地下鉄は補助金対象ではないものの、この補助事業と同時期にタッチ決済に対応予定。JR西日本などの大手私鉄は市内事業者でないことから補助の対象外、ということになっているそうです。
結果として、大手私鉄がタッチ決済に対応しないことで一部断絶があるものの、ルートによっては空港から有馬温泉や六甲山までクレジットカードのタッチ決済で乗車できるルートが確立できるようになります。
各事業者をみると、これまでポートライナーや神戸電鉄は交通系ICに対応していました。この2事業者では、年間乗車人員が4,800万人(2019年度)に上り、ICカードの利用率も7~8割と大多数を占めていました。
しかし、それ以外のロープウェイやバスなどは、年間でも17~57万人(同)程度で、一部PayPayの対応はあったものの、基本的には現金払いだったそうです。こうした状況下で、交通系IC対応はコスト的にも困難だったところ、クレジットカードのタッチ決済対応ならば比較的コストが抑えられ、さらに半額が補助されることから、各社が導入を決めた――というのが経緯のようです。
特に、神戸空港の国際化が決まったことでインバウンド拡大が期待できることもあって、神戸市では交通機関のタッチ決済対応を急務とみており、補助事業によって市内一帯の移動におけるキャッシュレス化を拡大したい考えです。
神戸新交通ではポートアイランド線全駅で対応している反面、神戸電鉄は有馬線谷上駅/有馬口駅/有馬温泉駅と一部駅での導入にとどまるなど、対応状況は事業者によって異なりますが、観光利用をカバーできるような対応となっているそうです。
交通機関だけでなく店舗もタッチ決済対応に?
今回の事業によって、コスト問題でタッチ決済対応に二の足を踏んでいたような小規模事業者も同時期にタッチ決済対応できるため、神戸市の取り組みは全国のモデルケースにもなりえます。今回の取り組みに参加する中では、年間乗車人員168,864人(2019年度)のみなと観光バス・坂バスが最小の規模ですが、同路線もタッチ決済に対応します。
神戸市営地下鉄を含めて市内の交通機関が一斉にタッチ対応することで、市内全体のタッチ決済対応に弾みがつくことも期待されます。三井住友カードは「神戸市が特段タッチ決済対応で遅れている印象はない」としていますが、例えば元町の中華街である南京町ではクレジットカード自体が使えない店舗もあります。クレジットカードは対応しているもののタッチ決済非対応という店舗も見かけました。
今後、インバウンドがさらに増加して観光客が増えると、クレジットカード利用がさらに拡大することが見込まれます。公共交通機関をタッチ決済で乗車してやってきた観光客にとっては、店舗などでタッチ決済が利用できないのは不便でしょう。実際、自分が海外に行ったことを考えると、タッチ決済が使えないとかなり不便です。
stera transitでは、観光客のクレジットカード利用促進を狙って、公共交通機関の乗車と付近の店舗での支払いをセットにして割り引くような施策も提供可能。「神戸空港からタッチ決済で乗車して市内に来た人が、同じクレジットカードで飲食や買い物をしたら10%引き」といったような割引施策が打ち出せます。市内交通のタッチ決済であればどの事業者を使っても一定の上限価格で打ち止め、という1日乗車券のようなプランも提供できます。
こうして市内の回遊性がさらに高まり、クレジットカード利用時の割引によって市内での購買拡大に繋がれば、店舗としてもクレジットカードのタッチ決済対応を進めるきっかけにもなりえます。
今回の事業はあくまでも神戸市の交通政策における補助施策であり、一般店舗のタッチ決済に対する補助などはありませんが、タッチ決済のニーズが増えれば、市の施策としてそうした取り組みを検討する可能性もあるでしょう。
事業者単独の取り組みでない、自治体内の交通機関におけるタッチ決済対応については一定のニーズがあると三井住友カードでも話しており、その点では、今回の神戸市の取り組みがきっかけとなり、他の地方へ波及する可能性についても期待されています。
神戸市でも、大手私鉄がカバーできておらず、大手私鉄の戦略次第で「市内全域をカバー」というわけにはいかないのですが、南海電鉄のように広く対応を進める私鉄もあり、自治体での対応が進めば、それに繋がる私鉄でも対応を検討するきっかけにもなるでしょう。
大阪・関西万博では、万博全体で約2,800万人、インバウンドで350万人が来場すると想定されており、神戸市でも多くの観光客を想定しています。クレジットカードのタッチ決済対応拡大に向けた1つのきっかけとなるか、神戸市の取り組みと今後の拡大が注目です。