このたびのコロナ禍では、海外への出張が難しくなってしまい、結果として2020年2月以来、海外の決済事情をチェックすることができなくなっていました。
今回、オランダ・アムステルダムで開催される「Money20/20 Europe」というイベントを取材するために欧州に来ることができました。それにあわせて英国ロンドン、ポーランド・ワルシャワを訪れて、現地の事情をチェックしてきました。
各国それぞれで異なる無人店舗のニーズ
決済や金融というのは、各国の事情によって様々な違いがあります。それがいいとか悪いとかではなく、その国に適した形で適切な機能が提供されればいいわけです。
例えばイギリスの小売大手Tescoがロンドン市内にレジなし店舗を実験的に展開しています。これはインストールしたアプリで表示したQRコードでゲートを通過して入店し、手に取った商品をそのまま持ち出せば自動で決済される、というものです。
ハイテクではあるのですが、そもそもアプリのインストールでつまづいてしまい、日本アカウントからだとダウンロードができませんでした(App Store、Google Playのいずれも)。
これは基本的にイギリス国民向けのサービスという位置づけのためでしょう。今回は英国のプリペイドSIMカードを購入し、英国のIPアドレスからアカウントを作成することでダウンロードが可能になったので、それを使って試しました。
ポーランドの小売大手Zebkaは無人店舗「Zebka Nano」を展開。ワルシャワ市内にも数店舗あり、こちらも試してみましたが、アプリこそ簡単にインストールできたものの、言語はポーランド語のみ。クレジットカード情報登録時に日本の携帯番号だとSMSが届かず、上述の英国のプリペイドSIMカードに送信して事なきを得ました。
Zabka Nanoの場合、事前にアプリをインストールしなくても、入店時にカード情報を登録することで入店できますが、この場合も確認のためのSMS送信で日本の番号は登録できませんでした。
このように、ハイテクな無人、レジなし店舗とはいえ、実際にはローカルの利用に特化しています。海外の旅行者がふと立ち寄って買い物をするというような使い方は難しいのが実情です。
日本では、Touch To Go(TTG)がファミリーマートなどとともに各地に無人店舗を展開していますが、会員登録不要の「レジあり店舗」となっています。登録が不要で、レジにおいて多彩な支払手段に対応できるため、海外旅行者にもフレンドリーな仕組みといえます。
こうした自動化店舗というのは、Amazon Goのように会員登録が必要で、センシングによって購入商品を認識して、店舗から出ると同時にあらかじめ登録した決済手段で支払をする……というパターンが1つ。こうした仕組みをとる店舗では、実は無人店舗という点にこだわりがないことも多く、Amazonの技術を導入した英Sainsburyでも入口には店員がいました。ただ、どちらかというとシステムのチェック・サポート要員という感じでした。
Zabka Nanoは完全無人店舗。ただ、一度は入口のゲートの機械がハングアップしたため入場できず、もう一度は、商品を手に取ってそのまま退店し、決済が行われるはずが、「クレジットカードが支払いを拒否したので決済できない」との通知が来て、その直後にクレジットカード(デビットカード)の決済完了の通知が来ました。アプリ側は支払いの確認ができない状態が続き、結局アプリを使った店舗の入場はその後もできませんでした。
こうした仕組みでは決済がオンライン決済となるため、Zabka Nanoに限らず、クレジットカードによっては海外のオンライン決済としてブロックされてしまいます。特に海外オンライン決済に厳しい大手カード会社(イシュア)があるので、そうしたカードを登録しようとしたところ、手持ちのカードは全て会員登録段階で弾かれてしまいました。
今回、トラブルがなかったのはSainsbury。Amazon Goで培った技術のおかげか、日本人でもトラブルなく登録と買い物ができました。ただ、旅行者としてわざわざ登録してまで利用する必要性があるのかというと疑問もあります。
その点、ワルシャワのZabka Nanoは、「24時間365日」というのが売り文句です。ワルシャワでは日曜日に多くの店舗が閉まっていて、コンビニエンスストア的に各地にあるZabkaの店舗も営業していません。そんな中でZabka Nanoは日曜日も深夜もオープンしているので、必要なときに買い物ができるメリットがあります。
ただ、アプリの言語などハードルの高さは旅行者向けではありません。結局、こういったハイテク店舗が導入される背景には、ローカルのニーズがあるわけです。海外で新技術を使った店舗が生まれていても、国内に導入するには国内のニーズを正しく認識しなければ意味がありません。
日本ではTTGの技術を使ったファミリーマートが広く展開していますが、最終的にローカル決済になるので、クレジットカードでも弾かれることはまずありません。旅行者フレンドリーであるという点で、海外の自動化店舗よりも優れているように感じました。ただ、海外だと支払いをせずにゲートを突破するという問題の解決があって、それゆえに会員登録が必要になるのでしょう。
こうした点からも各国それぞれの事情があって、一概にどれが正解と言えないのが実情です。無人店舗やレジなし店舗といった様々な形態がありますが、今後も各国の取り組みを注目したいと思います。