始まったばかりの当連載。いったん第2回目の原稿を書き上げていたのですが、気になるニュースが入ってきたので、予定を変更してそのニュースを取り上げます。

12月23日に、河野太郎・デジタル大臣が会見で「クレジットカードとマイナンバーカードを連携させて手ぶら観光」という話をしていました。「クレジットカード」ではなく「マイナンバーカード」で決済、というのは現実的なのでしょうか。この疑問を考えてみたいと思います。

2022年12月23日の河野デジタル大臣の会見動画

「マイナンバーカードで決済」は難しい

デジタル庁によれば、“マイナンバーカードとクレジットカードの連携”に関して、一部の自治体で検討が進んでいるのは確かなようです。ただ、現状はまだあくまでも検討段階で、どのような仕組みで、どのようなサービスを提供できるかは、各自治体の検討結果次第とのこと。

  • マイナンバーカード

    マイナンバーカードの利活用拡大のため、いろいろと各自治体が知恵を絞っているようです

逆に言えば、国が何らかの仕組みを構築したりサービスを提供したりという方針ではないとしています。あくまで、マイナンバーカードの利用拡大のための方策を自治体が検討している段階です。

マイナンバーカードには、一意の情報が含まれています。一例を挙げれば、ICチップ内の利用者証明用電子証明書の発行番号(シリアル番号)。他にも、マイナンバーカード向けのマイキープラットフォームにおけるマイキーIDをICチップ内に保管して利用することもできます。これを使えば、“クレジットカードとマイナンバーカードの紐付け”自体は簡単に行えます。これが一番現実的な“マイナンバーカードとクレジットカードの連携”でしょう。

公共交通機関向けクラウドサービスのQUADRAC「Q-move」(公共交通機関向けのコンタクトレス決済プラットフォームである「stera transit」でも利用されています)では、クレジットカードで自動改札機を通った情報を取得して決済を行いつつ、後払いを生かして出場時に値引きをする、1日の決済額の上限を設定する(上限キャップ)といったことが可能です。こうしたクラウドサービスを使ってクレジットカード番号とマイナンバーカードの情報を紐付ければいいだけです。決済のたびにマイナンバーカードの情報を使う必要はなく、最初の紐付けで使われるだけです。こうすれば、「登録したクレジットカードが利用されたらその自治体の住民なので割引やポイント加算をする」といったような仕組みが構築できます。

ところが、今回河野大臣が話したのは「マイナンバーカードでの決済」です。買い物をするときにマイナンバーカードを使うと、紐付いたクレジットカードの情報が決済に使われる、という形でしょう。

紐付け自体は、前述のようにクラウドサービスで連携させれば可能ではあります。こうなると問題になるのが、決済端末にマイナンバーカードを読み込む機能が必要という点です。普通の店舗には、マイナンバーカードの読み取りに対応した端末は用意されていません。

クレジットカードの決済端末がマイナンバーカードの読み取りに対応すれば、端末の配布は必要なく、マイナンバーカードに対応できます。そういった端末がないわけではなく、例えばフライトコンサルティングの「Incredist Premium II」は、クレジットカード/電子マネーに対応した決済端末で、マイナンバーカードの読み取りも可能です。ただ、普通は各店舗でさまざまな決済端末が利用されているわけで、対応端末に置き換えるとなるとコストもかかりますし、加盟店開拓はそんなに簡単ではありません。

別の方法としては、マイナンバーカードのICチップ内にクレジットカード情報を保存すれば、マイナンバーカードを使いつつ、決済端末側がクレジットカードでの利用と見なして、既存端末でもそのまま利用できる可能性はあります。ただ、これもマイナンバーカードのICチップが国際カードブランドのルールに則っていて、EMV仕様(ICチップ搭載クレジットカードの統一規格)に準拠できれば、の話です。

EMV仕様に準拠していない場合、国際カードブランドの決済ができるかどうか不明ですし、ライアビリティシフトの関係で不正利用時の責任を加盟店側が持つことになり、補償がされなくなる可能性があります。クレジットカードがナンバーレスになってプライバシー情報を最小限にしている中で、顔写真もついたマイナンバーカードを利用するのはその流れに逆行しているとも言えそうです。

やはり、「マイナンバーカードで決済」というのは障害が大きく、自治体の一部店舗で実施するだけならともかく、継続性という点でも難しいでしょう。それならば、すでにある決済端末を活用できるクレジットカードを決済に使い、マイナンバーカードとクラウド連携をする方が現実的です。実際、群馬県前橋市では、マイナンバーカードと交通系ICカードを紐付けて、交通系ICカードでの支払いを割り引くサービスを提供しています。

マイナンバーカードを図書館利用券と連携させる自治体も増えており、同様に決済も行えるようにするということを考えているのかもしれませんが、さすがに難しいのではないかという印象です。

念のため付記しておくと、マイナンバーカードを利用したからといって、決済情報が国に流れるというのは考えにくいと思われます。そもそも、マイナンバーカードの利用情報がそのまま国に流れる設計にはなっておらず、国はカードの利用状況が把握できません。実際、マイナポイント事業でも国はその情報を把握していません(把握しているのは民間の決済事業者)。

どうしてもということであれば、国がクラウドサービスを準備してマイナンバーカードとクレジットカードの紐付けを行うことで、利用状況を確認できなくはないでしょう。ただ、今回の連携でも、自治体が主導して民間事業者のサービスを活用することになることは間違いないでしょうから、国や自治体の利用状況把握に繋がる心配はなさそうです。