全日本空輸(ANA)の決済サービス「ANA Pay」が一新されました。新しいANA Payは、単なる決済サービスではなく「ANA経済圏」の「血液」として位置づけられています。新しいANA Payはいったいどんなサービスなのでしょうか。

  • ANA Payのアプリ画面

    まずはiOS向けでスタートしたANA Pay

新ANA Payは何が新しいの?

コード決済サービスとしてスタートしたANA Payは、ANAグループの対象店舗などにおける決済で200円ごとに1マイルが貯まるというものでした。マイルを貯めるマイラーとしては気になるサービスですが、これまでJCBブランドのクレジットカードのみの対応で、VisaやMasterCardのANAカードですらチャージできない点がネックでした。

またチャージ元となるカードブランドが限られていたこともあって、利用者数は「10万人以下」だったそうです。やはり、カードブランドが限られる状態でサービスの拡充は難しいという判断でしょう。今回、JCBから三井住友カードに乗り換える形で、サービスを一気に刷新してきました。

今までできなかったことで、サービス一新によってできるようになったのは以下の通り。

  • クレジットカードのタッチ決済
  • iD決済
  • VisaやMasterCardなどの国際ブランドカードでの残高チャージ
  • マイルチャージ
  • セブン銀行ATMからの現金チャージ
  • Apple Payからのチャージ
  • チャージの選択肢の拡大

    1マイル1円相当でチャージが可能に。対応クレジットカードも大幅に拡大しました

  • マイルが貯まる

    もちろん利用に対してマイルも貯まります

  • ANAカードの利用

    ANAカードならさらにチャージにもマイルが貯まります。ANAカードでのお得さをアピールしつつ、他のカードでのチャージもカバーしています

支払い方法がコード決済からタッチ決済になり、チャージ元のバリエーションが拡充され、総じて利便性が向上しています。今まではアプリを起動してQRコードを表示していましたが、今後はVisaのタッチ決済またはiDを指定して、Apple Payのタッチ決済で支払いができます。

「QR(Smart Code)には対応しているけどクレジットカードは非対応」という加盟店がどれほどあるかは分かりませんが、単純な加盟店数だけで言えばタッチ決済対応の方が多いでしょう。クレジットカードのタッチ決済対応端末は180万台以上、iD対応決済端末は200万台以上とされています。

名称こそこれまでと同じANA Payですが、実態としては別サービスです。したがって、従来のコード決済版のANA Payの残高は移行されません。新ANA Payでもコード決済の機能は追加する予定とされていますが、残高が移行されないので、11月のサービス終了までに使い切るしかないようです。

  • ANA Pay(コード払い)は終了

    従来のコード払いのANA Payは終了

  • タッチ決済の利用イメージ

    タッチ決済で支払えるようになり、決済の手軽さとしては向上しています

チャージ元としてクレジットカードのバリエーションが格段に増えたのは大きなメリットです。何しろANAカード以外のカードからのチャージにも対応です。PayPayがPayPayカードに限定したのとは逆の動きと言ってもいいでしょう。

ANA Xの轟木一博社長は、「いったんはそれ(広くカードを受け付ける)でスタートして、お客様が使い勝手の良さを感じてくれて、マイルを含めて様々な経済活動に繋げてもらえれば、トータルではプラスになると判断している」と話します。逆に言えば、トータルでプラスにならなければ、カードを限定する可能性もあるわけです。

  • ANA Xの轟木一博社長

    ANA Xの轟木一博社長

少額マイルの使いみちができることでANAマイレージが魅力的に

一事業者が運営する決済サービスとしては、TOYOTA Walletが新たなANA Payに近いかもしれません。iD/QUICPay/QRコード決済に対応し、MasterCardのタッチ決済をサポートしており、iD決済の部分は同じく三井住友カードがシステムを構築しているため、このあたりは両者で共通している面もありそうです。

今後、新ANA PayにもQRコード決済が追加される予定ですが、恐らくはTOYOTA Walletと同様、支払手段としてタッチ決済とQRコードの2種類という設計になるのでしょう。チャージしたANA Payキャッシュ/マイルの残高の支払手段として、タッチ決済でもコード決済でも支払える、という仕組みになりそうです。

ひょっとするとTOYOTA Walletと同じように、コード決済は限定的な場所での利用にとどめ、ANA専門店や機内販売だけでコード決済を利用するというパターンもありえるかもしれません。

とはいえ、TOYOTA Walletと大きく異なるのは、やはりマイルの存在があります。

航空会社のマイレージは、ポイント文化の先駆けとも言えるものです。これを決済に活用しようとするのは自然な流れですが、それが新生ANA Payでようやく可能になりました。

ANAのマイレージサービスにおいて提供されるマイルは、本来は電子マネーとしての役割を持たないため、そのままでは決済に利用できません。そこでANA Payでは、まずは「ANA Payマイル」としてマイルからチャージできる残高を新設。マイルとマネーを交換する形で、1マイル1円として決済に使えるようにしました。

  • 少額マイルの価値の向上

    1マイルから交換できるため、少ないマイルでも意味があるようになります

マイルでチャージできるのは1日最大1万マイル、1カ月5万マイルが上限で、残高も最大5万円分が上限となっています。貯まったマイルを一気にチャージして高額の買い物に使う、という使い方はできないようです。

  • チャージ上限

    チャージ上限。本人確認実施の有無で違いがあります

このマイルチャージは、これまでマイレージ会員にならなかった人もターゲットになります。「普段は飛行機に乗らない、乗ってもLCCという人が、ツアーでたまたまANAに乗った」――そんな場合に、例えば1,000マイルが付与されたとしても、それで今後飛行機のチケットに交換できるわけでもなく使いどころがないので、そもそもマイレージ会員にならないという例はこれまでも多かったようです。

  • 東京-沖縄間の往復利用で約1,500マイルがたまる

    ANAで東京-沖縄間を往復利用すると一人につき約1,500マイル、家族4人なら約6,000マイルになります

  • 東京-ハワイ間の往復利用で約4,000マイルがたまる

    国際線だとさらにマイルが貯まるようになります。ただ、いつも乗らないのでマイレージ会員にならない、という人が多いのも事実

しかし、ANAマイレージクラブの会員にならない選択をしていた人でも、ANA Payを使えば1,000円分の買い物ができるようになるわけです。旅先でちょっとコーヒーブレイクの支払いぐらいには使えそう。これならば会員登録をするという人も増えそうです。

  • ANAマイレージクラブの価値向上

    マイレージを日常の支払いで使えるようになるため、共通ポイントとしてユーザーに訴求できます

これによって、ANA経済圏への取り込みが図れます。今まで“陸マイラー”といえば日常のカード利用でマイルを貯めて飛行機に乗る人でしたが、マイルを貯めて日常の買い物をするという“陸マイラー”も今後はありえるわけです。

ANAもマイルが貯まるサービスを用意しており、これらを組み合わせればマイルが効率よく貯まります。これまでは、「それだけでは飛行機に乗れるほどマイルが貯まらない」という人を取り込めなかったのですが、日々の決済で無駄なくお得に支払うという使い方ができればユーザーも増えそうです。

  • ANA経済圏

    ANA経済圏で“陸マイラー”の活動の幅が広がる

できないことといえば、ANA Payには個人間送金や出金の機能がありません。マイルの贈与機能もありません。マイル贈与は、ANAのマイレージ戦略全体に影響する話ではありますが、轟木社長は「検討しなければならない」と話しています。

銀行口座からのチャージ機能については「半年以内に提供する」(轟木社長)とのことで、これはサービス開始に間に合わなかったということだそうです。

他にサービス開始に間に合わなかった機能としては、Android版の開発もあります。こちらは6月中に登場予定。アジャイル開発で進めているとのことで、順次サービスを拡充、改善していきたい考えです。

ANA Payはひとつの決済サービスではありますが、ANA経済圏における各サービスを繋いでいく「血液」だと轟木社長は話します。そのため、決済サービスとして「ガンガン儲ける」というよりも、どのように他のサービスに貢献できるかを重視します。

「赤字を垂れ流しても突っ走る」という考えでもないそうですが、当初はコスト先行しつつも、中長期的には決済事業だけでも黒字化を目指しつつ、ANA経済圏のさらなる強化でトータルの事業拡大を狙います。

ANA Payは初年度の取扱高として「さしあたり初年度の目標」(轟木社長)を100億円としていますが、「できれば1,000億円」(同)を目指して決済サービスとしても存在感を高めたいとしています。その結果としてANA経済圏をどこまで拡大できるか、そうした点も注目していきたいところです。