公共交通機関のキャッシュレス対応に変化が起きています。これまではSuicaなどの交通系ICが一般的でしたが、クレジットカードのタッチ決済をサポートする例が増えてきています。
拡大しているのは三井住友カードやVisaらが進めるstera transitですが、それ以外のソリューションを導入する事例も出てきました。前回は東急グループの東急トランセが採用したStarPayの事例でしたが、今回はJR東海バスとリクルートのAirペイQRを紹介します。
既存のiPhoneを決済端末に
AirペイQRを導入したのはJR東海バス。高速バスにおけるキャッシュレス対応として導入されています。AirペイQRは、リクルートのmPOSであるAirレジと連携する決済サービスです。複数のQRコード決済に対応しており、店側のiPhoneなどで利用者のQRコードを読み取って決済が行えます。
今回の採用のポイントは、iPhoneで使える点だった――とリクルートの決済プロダクトマネジメントユニット決済プロダクトマネジメント部部長の山本智永氏は話します。
もともとJR東海バスの高速バスでは、iPhoneを使った座席管理システムを導入しており、乗車時に運転手が乗客の座席を管理して、その場で現金を受け取るという仕組みでした。そのためキャッシュレス化をするにあたって、すでに導入されているiPhoneで決済できるAirペイQRが適していた、ということのようです。
三井住友カードなどによるstera transitは、基本的に据え置きの決済端末を利用します。同じバス業界では茨城交通の高速バスがstera transitを導入しており、タブレット型の端末を採用しましたが、現在のところ日本ではiPhoneを決済端末とする「Tap to Phone」(Tap to Mobile/Tap on Mobileなどとも言われます)のようなソリューションは利用できません。結果として、「iPhoneを決済端末として利用する」となると、カメラを使うQRコード決済しかなかったわけです。
JR東海バスの乗務員が、これまでのiPhoneでの操作から違和感なく決済操作もできることも重視されており、そうした点からもAirペイQRが選ばれたと山本氏は話します。
JR東海バスでは「キャッシュレスを推進したい」というニーズはあったのですが、座席管理で使うiPhoneだけで完結することを重視した結果、QRコード決済のみの対応となりました。加えて、JR東海バスとしては初期コストを抑えたいということもあり、既存の座席管理システムにそのまま追加できるAirペイQRが選ばれたそうです。
JR東海バスは高速バスを運行しています。空港発着便で他社バスと並行しているのですが、その場合乗車するバス会社によってキャッシュレス対応、非対応が分かれることになり、JR東海バスにはキャッシュレス対応が求められていました。とはいえ、交通系ICへの対応は機材導入などのコストが重く、そうした点もAirペイQR導入に繋がっているようです。
AirペイQRは中国のQRコード決済をサポートしている点もメリットです。JR東海バス側は導入にあたってとくにこの点を考慮していなかったそうですが、コロナ禍での制約が緩和され、中国からのインバウンドが今後回復するとみられていること、そしてインバウンドの観光客には家族旅行が多く単価が高くなることから、利用者の拡大が期待されるようになったそうです。
実際にAirペイQRによる決済がスタートして、現時点では大きな問題は発生していないといいます。とはいえ、まだ現金の利用率が高いそうで、QRコード決済の利用拡大が課題となっているようです。
現状、これまでの座席管理アプリとAirペイQRは連携していないため、座席を割り当ててからアプリを切り替えて支払を受け付けるという流れになっているとのことで、統合の要望はあるとのこと。
面白いところでは、同社の「Airメイト」も併用している点。これは複数店舗を抱えるチェーン店で各店舗の売上などを集計・管理できるツールなのですが、バス1台を1店舗に見立てて複数のバスの売り上げなどを集計し、管理できるようにしています。
ただ、現金での売り上げは別に集計・管理しているようなので、このあたりは今後さらなるDX化の余地がありそうです。
その意味では、今回のQRコード決済に加えてクレジットカード/電子マネーにも対応することは、乗客としてもバス側としても期待はしているところでしょう。現時点で、クレジットカードや電子マネーの対応には、どうしても前回の東急トランセが採用したStarPayのような専用端末が必要になるという課題があります。
iPhoneが国内でもTap to Phoneに対応して、さらにアップルがNFCをサードパーティに開放し、そしてリクルートなどの決済代行業者がそれに対応すれば、JR東海バスも座席管理アプリをインストールしたiPhoneでそのままタッチによる決済ができるので、それを導入することはありえるでしょう。
結果として、いかにコストを抑えて既存のワークフローを変えずにキャッシュレス対応をするかという点を重視したJR東海バスの選択が、AirペイQRの採用だったわけです。
前回のStarPayと同様、Airペイにも交通機関向けのメニューはありません。他の一般加盟店と同じメニューで、stera transitのように交通機関専用の機能があるわけではありません。そのため、決済手数料も他の加盟店と同様の設定になっているそうです。
Airペイだとハンディ端末も不要で初期費用が不要という点はメリットになり、月額固定費がかからないためキャッシュレス対応がより手軽になります。例えばメインユーザーは地域の高齢者で現金や敬老パスが主に使われるけど、たまの旅行者に対応したい――というコミュニティバスなどには有効かもしれません。
StarPayのようなハンディ端末を使う場合は、旅行者が多くて予約客だけでなく、その場で乗り込む客がいるような観光バスには向いているのではないでしょうか。路線バスの場合は、2タッチ(乗車時と降車時)で乗り込めて、運転手の負担も軽いstera transitの方が適しているでしょうし、このあたりは使い分けができそうです。
もともと新興国向けを想定されていたTap to Phoneのようなソリューションですが、日本での可能性を感じさせるのはこういったシーンです。Android向けであればすぐにでも実現可能ですが、iPhone向けにはアップルが機能を開放してくれないと動きようがありません。このあたりはアップル次第ということになってしまいますが、リクルート側でも機能が開放されればAirペイでの対応を検討するとしています。日本カードネットワークが実験していたTap on Mobileでは一部電子マネーにも対応しており、今後も要注目です。