日本におけるキャッシュレス比率が3割を超え、世界に遅れながらも少しずつ増加しています。その原動力となったのは、PayPayをはじめとしたQRコード決済サービスですが、海外に目を向けると、欧米ではクレジットカードがキャッシュレスを牽引しています。
日本でもクレジットカードのタッチ決済が広まり始めていますが、欧米でもクレジットカードのタッチ決済広まったのはここ10年ほど。それまでは、日本ではFeliCaを使った電子マネーが普及していて、むしろ先進的でした。
ただ、それでも日本のキャッシュレス比率は伸び悩み、ドイツと並ぶ現金大国だったのですが、コード決済/タッチ決済の登場、コロナ禍といった複数の要因でキャッシュレス比率は拡大しています。
筆者がこの業界の取材を開始して10年ほどになります。モバイル業界を取材していたため、おサイフケータイのスタートも目にはしていましたが、決済を主軸に据えた取材を始めたのは最近。海外取材の中で、欧米と日本の違いを見て興味を持ったのが最初です。その当時、海外で決済に使うのはクレジットカードと現金で、特に公共交通機関はほぼ100%現金で切符を買っていました。
2011年2月にスペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress(MWC)では、「GALAXY S II」がNFC決済機能を内蔵。NTTドコモのブースでは、モバイルNFCに関する出展もありました。
この頃、例えばフランスOrangeが、ニースでモバイル非接触決済サービスを展開していました。Cityziと名付けられたサービスで、NFCを使ったクレジットカードの決済を可能にしています。日本では、EdyとSuicaのスタートが2001年、おサイフケータイのスタートが前述の通り2004年、クレジットカードを使うQUICPay/iDも2005年に登場しており、先行していました。しかもCityziは限定したエリアでしか使えませんでした。
2006年1月にはモバイルSuicaサービスが開始。2012年には、KDDIが日本で「モバイルNFCサービス」を発表。その後は今ひとつ声を聞きませんでしたが、2013年にはドコモが韓国でNFC決済に対応。2014年にはiD/PayPassとして、国内ではiD、海外ではNFCというサービスを開始。のちにAppleがiPhoneのApple PayでiDに対応するまで、唯一のサービスでした。筆者も海外ではお世話になったものです。のちにサービスの利用動向をドコモに確認したところ、かなり利用率の高いユーザーだったようです。
2013年になると、MWC会場でNFC決済機能を内蔵したスマホケースが配布され、バルセロナの街中でモバイルNFC決済を試せるようになりました。ただ、現地でも試せる店舗は限られており、クレジットカードのタッチ決済(コンタクトレス)は、店員に通じなかったこともありました。
Apple Payのスタートは2014年10月。米国でのスタートだったので、国内に入ってくるまでは2年の月日が必要でした。その間、欧州ではクレジットカードのタッチ決済が普及していきました。
英国がロンドン五輪のために交通系のタッチ決済対応に力を入れたのも手伝って、2012年以降、タッチ決済対応は欧州でかなり進展していました。特に、ハンディ型のPOS端末を使うことの多い小型店舗では、POSベンダーが端末をばらまくため、「実は対応している」という例が多かったのです。
ちなみに、2022年5月にはドイツで特定のPOS端末に不具合が発生して多くの店で決済ができなくなる事態が発生しました。恐らく、多くの店舗が同じ頃に配布された同じ端末を使っていたせいでしょう。かなり大規模にキャッシュレス決済ができないという問題が発生したようです。
いずれにしても、クレジットカード自体のタッチ決済対応より先にPOS側の準備が整っていたというのが欧州の状況でした。次第にカードもタッチ対応になり、欧州ではクレジットカードのタッチ決済が普及しました。気付けばコンタクトレスも普通に通じるようになり、最初は注目されたスマホでのタッチ決済も、Apple Pay効果で普通の光景になりました。
欧州では、鉄道のような公共交通機関でも、少しずつタッチ決済対応が増えてきました。タッチ決済だけで考えれば、Suica登場から10年以上という日本に軍配が上がりますが、クレジットカードでそのまま乗車できるというのがメリットです。
欧州でも特にキャッシュレス化が進展している北欧は、2018年に訪問しました。バーガースタンドでもキャッシュレス、個人のフリーマーケットでもキャッシュレス。キャッシュレスオンリーの店も普通にあり、進んでいることは分かりました。スウェーデンでは国の独自決済であるSwishが中心で、各国の事情が異なれば、キャッシュレス決済の広がりも異なることが分かります。
実際、米国はクレジットカードのタッチ決済対応が遅れていました。そもそもIC化が遅れていたので当然なのですが、Apple Payも登場するなど、サービスだけは充実。交通機関のApple Pay/Google Pay対応も進んでおり、急速に拡大している印象です。
こうしていくつかの国でキャッシュレス決済事情を取材してきたのですが、コロナ禍でそうした取材にも制限が出て、2020年2月以降、海外に行けていません。その間は、国内の取材を中心に進めてきました。
コロナ禍と国のキャッシュレス施策によって、日本でもキャッシュレスが進展しています。三井住友カードやVisaらが、交通機関のクレジットカード対応に力を入れていて、その関係で京都や福岡を訪問したり、ルパン三世Payを求めて北海道に渡ったり、ゆいレールのSuica対応を確認しに沖縄に向かったり、国内でも各地を取材しました。
東奔西走、日本の様々な場所で取材をしてきましたが、今後も日本各地、そして来年こそは世界のキャッシュレス事情を再び取材したいと考えています。そんな情報を、この連載でお届けできればと考えています。