「キャッシュレス決済」と一口に言っても、その手段はさまざまだ。今回は、現在日本で利用可能な決済手段を紹介しつつ、そのメリットやデメリットをまとめていきたい。適材適所という言葉があるが、自身の生活圏や生活スタイル、目的に合わせて適宜使用するものを選択していくといいだろう。

キャッシュレス決済の基本は「カード」から

キャッシュレス決済における主な選択肢は「(物理的な)カード」か「スマートフォン(のアプリ)」の2つがあるが、まずは「クレジットカード」や「デビットカード」の活用をお勧めしたい。

クレジットカードにはAmerican Express、JCB、Mastercard、Visaといった国際ブランドのマークが付与されたものがあるが、こうしたブランドは国内外問わず利用できるため、さまざまな場面で重宝する。

キャッシュレス決済比率が低いと言われる日本だが、電子マネーなどを含むキャッシュレス決済手段のうち、その利用の大部分はクレジットカードだ。そのため、すでに利用できる店舗も含め、今後政府のキャッシュレス推進施策のなかで決済端末などを新規導入する店舗についてもまずはクレジットカード対応を優先するとみられ、「クレジットカードを持っていればなんとかなる」という状態になることが予想できる。

一方で、「クレジットカードは使いすぎてしまうことが不安」「審査に通るかどうか分からない」といった理由で利用を躊躇する人もいるだろう。その場合は、最近浮上しつつある選択肢として、欧米で広く利用されている「デビットカード」がある。

デビットカードは銀行口座直結で、決済時に即時引き落としとなるため残高がすぐに参照できる。また「ブランドデビット」と呼ばれるカードには、前述のような国際ブランドのマークがあらかじめ付与されており、例えばMastercardやVisaといった加盟店であれば国内外問わずそのまま利用できるのである。

カード型の選択肢としては、このほかに「プリペイドカード」と「電子マネー」が挙げられる。前者についてはスマホ決済と密接な関係がある。国際ブランド名義で発行される「ブランドプリペイド」は一種のギフトカード的なもので、あらかじめ残高として用意されている金額を相手に譲渡する目的で利用される。このプリペイドカード発行の仕組みを利用し、「スマートフォン上で残高をチャージし、それに紐付いたプリペイドカードを店舗決済で利用する」というサービスがある。

KDDIの「au WALLET プリペイド」やNTTドコモの「dカード プリペイド」などがその典型だが、最近ではスマートフォン決済のLINE PayがJCBのブランドを冠した「LINE Payカード(プリペイドカード)」を発行していたりする。スマートフォンの場合は、一般に店舗で導入されているクレジットカード決済端末の磁気読み取り機に対して直接支払う手段が存在しないため、事前に各スマホ決済のサービス内で残高を充填しておき、支払時に物理的なカードを使って決済を行う流れとなっている。

  • LINE Pay残高を使って支払いができるJCBブランドのチャージ式プリペイドカード「LINE Pay カード」

「電子マネー」についてはいくつか選択肢があるが、現在市場で広く利用可能なものは「交通系IC (SuicaやPASMOなど)」「楽天Edy」「nanaco」「WAON」の4種類だ。このほか、クレジットカードのようなあと払い式のサービスとして「iD」と「QUICPay」がある。どの店でどのサービスが使えるかは事前に把握しておく必要があるが、Apple Payでの支払い手段として選択されていることもあり、最近では「交通系IC」「iD」「QUICPay」のいずれかは使える確率が高い。

また、セブンイレブンでのnanaco、イオンでのWAONといったように、系列店舗での買い物には別途ポイントが付与され、よりお得になっているというケースもある。これら電子マネー機能がクレジットカードに含まれて発行されているケースもあり、こちらもよりお得にポイントが貯まるようになっている。JR東日本のViewカードのように、Suica残高が減少すると自動的に充填されるオートチャージのような機能を提供しているものもあるので、自身がよく訪問する店舗や利用形態に応じて適切なものを選ぼう。

「スマホ決済」とはどのようなものか

「スマホ決済」では物理的なカードを持ち歩く必要がなく、複数のカード情報を1つの端末内に保持したり、あるいは「アプリ」として決済サービスを導入したりすることで、用途に応じて適時適切なサービスを選んで使える点が大きなメリットだ。

一方で、前項の「プリペイドカード」の部分でも触れたが、スマホ決済においてはクレジットカードなどで一般的な「磁気ストライプを擦る」「ICチップ部分を挿入してPINコードを入力」といった支払い手段が利用できない。そのため、「クレジットカード利用できます」と掲示した多くの国内店舗では、サービスに紐付いたプリペイドカードを併用することで対応する必要がある。

こうした「接触型」の決済端末でスマホ決済は利用できないが、その代わりとなるのが「NFCという技術を使った非接触通信による決済」と「QRコード/バーコードを用いた決済」の2つだ。

配車サービスを提供する「Uber」やソフトバンクが国内展開している「DiDi」のように、事前に登録したクレジットカードなどの決済情報を使ってスマホアプリ内で支払いが完結する「アプリ決済」のような仕組みもあるが、これはインターネット上でオンラインショッピングする際の決済の仕組みを対面での決済に応用したものである。

今回はこのあたりの説明は割愛し、「NFC(FeliCa)決済」「QRコード/バーコード決済」についてまとめていこう。

スマートフォンのNFC機能で支払う

Androidスマートフォンの場合、「おサイフケータイ」に対応している端末では「交通系IC (Suicaなど)」「楽天Edy」「nanaco」「WAON」「iD」「QUICPay」の決済手段が利用可能だ。

おサイフケータイアプリ、あるいは「Google Pay」のアプリを起動し、カードを新規に追加することで当該の支払い手段が利用できる。店員に支払い手段を尋ねられた際には、使いたい支払い手段を伝えるだけでいい。

  • おサイフケータイ対応スマートフォンでGoogle Payを起動する

iPhoneでは「iPhone 7以降」の機種の場合、Walletアプリを起動して既存のSuicaカードの残高を移す、あるいは新規にカードを作成し、Walletに登録済みのクレジットカードからチャージを行うことで「Suica」が利用可能になる。

Walletに登録できるクレジットカード(もしくはプリペイドカード)かどうかは、どの金融機関が発行したカードがApple Payに対応するかで確認できる。

カードを登録後、Walletアプリの券面には「iD」または「QUICPay」のロゴが追加されるので、このいずれかの支払い手段で店舗決済が可能だ。Wallet上で使いたいカードを長押ししたままドラッグすると、それが支払時に最初に選択されるカードとして登録される。あとは、おサイフケータイのとき同様に支払時にどの決済手段を利用するかを伝えればいい。

  • Apple PayをiPhoneで利用する。Walletアプリで確認すると、一番手前のメルペイのカードはiDとMastercardの2種類の決済手段が利用できることがわかる

iPhone利用時の注意点として、Visaカードを登録しても「iD」または「QUICPay」の支払いでしか利用できないといったことが挙げられる(2019年5月時点)。Suicaのチャージやアプリ決済での支払いには使えないのだ。

一方で、American Express、JCB、Mastercardといったブランドがついたカードは問題なくすべての機能が利用でき、カード登録時に「iD」または「QUICPay」の表記のほか、それぞれの国際ブランドのロゴが追加される。これはアプリ決済だけでなく、「NFC決済」と呼ばれる仕組みにも対応している。ブランドロゴのマークの横にWi-Fiの感度表示のようなマークが出ているのが目印だ。

  • NFC決済イメージ

日本ではマクドナルドなど対応店舗はまだごくわずかなものの、中国を除く海外では環境整備が進んでおり、特に欧州や豪州などでの普及率が非常に高い。最近ではVisaがカードを発行する各社へNFCによる決済に対応したカードの採用を促しており、特にVisaデビットのプロモーションが広く行われている。

1万円以下の買い物など一定金額以内であればPINコードの入力なしで素早く支払えるほか、iPhoneのようなスマートフォンを用いたNFC決済の場合にはPINコード入力をそもそも必要とされない。「海外へ行ったときに便利に支払える手段」として覚えておくといいだろう。

  • クレジットカードで非接触決済を行うNFC Payの仕組み。日本では利用できる場所が限られるが、海外では非常に重宝する

「QRコード/バーコード」で支払う

磁気ストライプ、ICチップ、NFCのいずれの方式にせよ、クレジットカード処理には専用機材が必要となる。これが追加の設備投資や限られた店舗内のスペースを奪われることを嫌う中小小売店への導入を妨げる一因となっていた。

また契約形態によるものの、日本では決済手数料が諸外国に比べて高いという批判は依然としてあり、利益を極限まで削って低価格サービスの商売をしている店舗の場合、どうしても現金主体から移行しづらいといった状況にあるようだ。

そこで最近「安価な手数料(キャンペーン期間中は0%)」「追加の設備投資負担はなし」といったセールス文句とともに急速に加盟店網を拡充しつつあるのが「QRコード/バーコード」を使った「スマホ決済」だ。

支払い方法としては2種類のパターンがある。1つは「利用者がスマホに表示したQRコードまたはバーコードを店舗側が読み取る」方法で、特にチェーン店などで導入されているケースに多くみられる。POSに接続されたバーコード読み取り機でスマホに表示されたバーコードを、あるいは店舗決済用に置かれたタブレット端末のカメラでQRコードを読み取ることで利用者を識別し、支払いに使った各々のスマホ決済の残高から指定の金額を差し引く。

  • 利用者がスマホに表示したQRコードを店舗側が読み取る方法

もう1つは、店舗に掲示されているQRコードを利用者がスマホ決済のアプリを起動してカメラで読み取り、支払う金額を自ら入力して決済を行い、実際に支払われたかを店員がチェックして一連の処理が完了する方法。

後者は利用者側に面倒な作業を強いるものの、店舗側としては紙に印刷されたQRコードをレジに掲示しておくだけでよく、追加の設備負担がないため、今後中小小売店を中心にこの形態は増えてくると思われる。

中国で支付宝(Alipay)や微信支付(WeChat Pay)といった「QRコード/バーコード」を使った決済が急速に広まったのも、こうした店舗側の導入の手軽さという面が大きいとみられ、現金利用が多い日本にも一石を投じるのではないかという見方がある。

次回はこの「QRコード/バーコード」決済に注目。実際にどのようなサービスがあり、どのように活用し、今後どうなっていくのかを簡単にまとめていきたい。