前回まで、出世が早い人=偉くなる人を、成果を出し続けられる人と定義して、その要素をみなさんと一緒に考えてきました。今回はその第4章です。今回は「時間」について考えてみましょう。
「時間は万人に対して平等」か?
ビジネスに限らず物事はすべて時間とセットで進行し、変化していきます。前回は成果について考えてきましたが、この成果も「ある期限時」における「状態(事実)」と定義することができ、必ず時間という概念が関係してきます
巷では「万人に平等に与えられているものは何か?」に対して「時間」「時間は誰にとっても1日24時間」という問答があります。これにはまったく異論をさしはさむ余地がないのですが、人の意識構造という土俵でこの時間という概念を考察していくと、どうやら時間のとらえ方は人によって千差万別のようです。
今回はこの時間の感覚、識学用語では「時感覚(じかんかく)」について考えていきましょう。みなさんは、「時間」を有効に使えているでしょうか。
時間短縮に価値があるという感覚
同じ仕事であれば、60分で仕上げるのと120分で仕上げるのと、どちらに価値があるか、という問いについて考えた時、間違いなく60分ですよね。新幹線などの移動手段は常に、時間短縮が競争の重要な要素となっていますし、速度を競うスポーツも速いことに価値があります。遅いことに価値があるものは基本的にないといえます。仕事も同じで、時間を短縮することには莫大な価値があるのです。
しかしながら、みなさんの属する組織が時給制であったり、残業代がフルで支給されたりするような制度下で働いている場合、受け取る給与は、60分仕事をする、120分仕事をする、どちらに多く支給されるでしょうか。当然後者であり、長い時間仕事をしている方が支給額は多くなりますね。つまり、このような状況下では、「時間短縮に価値がある」という感覚は薄れていくことになります。みなさんの置かれている環境で、時感覚は鋭いでしょうか。
鋭い「時感覚」を持て
成果を出し続けられる人の第4章は、この時感覚を鋭くせよ、ということがメインメッセージとなります。「時間短縮に価値がある」という感覚を持ち、ひとつひとつの所要時間を短縮していく努力と、その反復継続が成果を出し続けるために重要な要素となります。「成果」というテーマを論じる時、どうしても能力の話が先行してしまいがちですが、「能力が低いからできません」「能力が低いから成長できません」は残念ながら免責(=言い訳)に過ぎません。能力が同じなのであれば、勝負はスピード、時感覚の鋭さが大きな差となります。能力ごとに走る速度の限界点はありますが、全力を出すことはできるはずです。また、能力の優れた人と競争する場合は、速度を上げる以外に追い抜く方法はありません。
作業スピードと作業「間」スピード
さらに、具体的に話を進めていきます。業務上のスピードは主に2つあります。ひとつは作業そのもののスピード。プレゼン資料を作成するスピード、所定のプログラミングを完成させるスピード、日報を書くスピード、給与計算を全社員分仕上げるスピード、1日でこなす営業訪問の件数なども入りますね。これらは、大きく能力に依存する部分もあるため、一回一回、足りない部分を認識して、繰り返しの反復によって速度を速めていくことができます。また、昨今ではRPA(ロボティクスプロセスオートメーション)など、認知技術という最新のテクノロジーを活用し、業務の効率化・自動化の取り組みが広がってきています。このような技術が人間の補完として業務を肩代わりし、「作業スピード」の方は日に日に速まっていくことでしょう。
しかしながら、こういったテクノロジーを採用しよう、というそもそもの意思決定スピードが遅れたらどうなるでしょうか。他社が先んじて採用して、どんどん時感覚を鋭くしている中、決めずに停滞している時間は、そっくりそのままロスタイムということになります。検討事案の発生⇒意思決定という工程間に生じる時間が作業「間」スピードであり、この「間」の時間が停滞することで多くのロスタイムが生まれ、成果を出し続けるための弊害となっているのです。
作業「間」スピードを阻むものたち
■不明確な目標
「あなたの100点満点は何ですか」という問いに「いつまでに○○すること」という期限と状態で明確に回答ができない場合、走る必要性が意識上発生しにくい状態であり、走る方向性が定まっていないので、時感覚は鈍っています。期限意識がそもそも発生しないのです。上司の指示が不明確という場合もありますが、最終的には何らかの方法で評価を下されてしまうわけですから、自身で言語化して持っていき、上司と認識合わせをする必要があります。
また、不明確な"的"を自己解釈して動く場合もロスタイムが生じます。特に、良かれと思って要望の範囲外を忖度して業務遂行する場合、結果的にムダ働きとなるからです。上司が、顔を書いてという意味で「ドラえもん書いて」という指示をしている時、部下であるあなたが「ふつうは全身書いて色塗って提出だな」という自己解釈で動いた場合がイメージしやすいでしょう。出来上がりに対して「そこまで求めてないんだけどな」という上司と、「ここまでやってなんで評価されないんだ」というズレが生じます。
■ルールの欠如
あるタスクに対して、Aさん「これはBさんの仕事だ」 Bさん「これはCさんの仕事だ」 Cさん「これは誰の仕事だろうか」というように誰が責任者か定まっていない場合があります。これはルール不在によって生じているロスタイムですが、同階層内でこのコンフリクトを解決することは不可能です。よって、みなさんにできることとして、そのタスクがルール不在によってエアポケットに落ち、自身の業務遂行に支障が出ている事実を上司に伝達しましょう。自身が成果を出すために発生している不具合は、権限のある立ち位置の人に裁定を下してもらわない限り解消しません。
■納得感
指示や方針に納得感を持ってやる、これ自体ベターなことです。しかしながら、経験のない仕事に取り組む場合、経験する前に納得感や腹落ち感を持つことは極めて困難です。「ぶどう狩り体験楽しいよ」という友人の誘いに、未経験な状態で楽しいかどうかの納得感を持つことは不可能ですよね。同様に、「営業は今日からすべてトップアプローチのみやれ」という指示も、一見「そんなの無理だよ」と思っても経験がない以上、その是非を評価し、腹落ちして取り組むことは不可能なのです。つまり、すみやかに取り掛かるが成果に直結します。
今日のマネジメントの流れは部下に納得感や腹落ち感を持って取り組ませようという方向性が主流ですが、これが時感覚を鈍らせているのです。成果を出し続けられる人は指示⇒実行の作業「間」スピードを高められている人、ということになります。
まとめ
人の集団の中には、時感覚を鈍らせる原因がたくさん存在します。特に、作業「間」スピードは、PDCAの間で停滞する時間を指し、莫大なロスタイムを生んでいます。成果を出し続けられる人は、時間短縮=価値という基本をおさえながら、無駄な停滞時間を排除できる人なのです。ここで見てきたように少しの心がけで解消できる無駄がたくさんあったと思います。今一度、時間の有効活用とは何か、考えてみませんか。
著者プロフィール:冨樫 篤史(とがし・あつし)
識学 大阪支店長、講師
1980年東京生まれ。立教大学卒業後、ジェイエイシーリクルートメントにて12年間勤務し、主に幹部クラスの人材斡旋から企業の課題解決を提案。名古屋支店長や部長職を歴任し、30名~50名の組織マネジメントに携わる。
組織マネジメントのトライアンドエラーを繰り返す中、識学と出会い、これまでの管理手法の過不足が明確になり、識学があらゆる組織の課題解決になると確信し、同社に参画。
■ 株式会社識学